すぺーすびーすと!~ネクサス怪獣擬人化作戦~ 作:地獄星バロー
ひょんなことから
そんなはた迷惑なノスフェルだけど、唯一わたしの生活を邪魔することが出来ない領域がある。それはそう、わたしの仕事場。今日はそんなわたしの大変な1日を見てほしいな。
「おはようございまぁーす」
「古紋さん! あなた五分も遅刻してるわよ!!……この企業の財政を調べて売り上げをまとめてちょうだい。今日中にね」
「はーい、分かりましたぁ……って立花さん!? これって様々なコンテンツで莫大な売り上げを出している大手企業の株式会社、バダインじゃないですか!?!? こんな大企業を1日でやるんですか!? わたし一人で?」
「何言ってるの、当然でしょ! 今は
「そ……そんなぁ………嘘でしょぉ……」
「頼んだわよ、こ・も・ん・さん」
「はぁい……」
うぅ……最悪だ。今日は職場に五分も遅刻してしまった。これだから朝の満員電車は嫌なのに。もうすぐ夏休みなんだから少しくらいは人減ったっていいじゃん! しかもそれだけじゃない、今日はたった一人であのバダイン社の売り上げを調べあげなきゃいけないのだ。期限は今日中。パソコンに何時間も向きあうだけじゃなく、バダインの業者さんに直接話を聞かなければならない事案だわ。ホントに今日はツいてない……。
と、ここまで自社を貶してきたが、決してうちの会社がブラックというわけではない。わたしが勤めているこの会社・
話を戻して、上述した依頼人は、ある程度四季の法則に基づいており、依頼が集中して来る時期と全く来ない時期があるのだ。春秋は顧客が少ないけれど夏冬は馬鹿多い。しかも夏季は帰省ラッシュや休暇を取る社員が多いから人員不足になりがちである。
要するにめっちゃ暇な時期もあれば、めっちゃ忙しい時期がある変な仕事なの。それでも新人のわたしでもノスフェルを養えるぐらいの給料を貰えてるからいいもんだよ。
早くも朝から沈んだ気分になり、わたしの部署ナイトレイダAのオフィスの席に荷物を置いて溜息をつく。
「はぁ〜っ……」
「おはよう。その様子、もしかして古紋さんも1日でやれって言われた感じ?」
席の隣から声を掛けてきた男性は、わたしより一年先輩の
「はい……。今日はバダインを1日でやらなきゃいけないみたいっす……」
「ひぇー。それはまた立花さんは随分な無茶言ったね。まだまだ古紋さんは新人なのに」
「はぁい、なんとか期限の猶予は伸ばせないもんですかね」
「うーん、僕に任された二件の会社も今日中に片付けなきゃいけないみたいだし、流石に今回ばかりは無理そうだなぁ……。ごめん!」
わたしは驚いて思わず声を大きくする。
「えっ!? 先輩二件もですか!?」
「まーそこまで大きな会社って訳じゃないけどね。――でもさ、ああ見えて立花さんは古紋さんに期待してるんじゃないかな?」
「えっ、どういうことですか?」
「立花さんはね、いつも真面目で厳しいけれど、みんなことを誰よりも考えてるからこそああいうこと言えるんだよ。僕が古紋さんの時だった頃なんか、僕の分も文句言いながらやってくれたし、古紋さんより僕の方がもっと辛辣に言われてたよ。そもそも立花さんは本来AじゃなくてBの人なのにね」
始めて知った。いつもいつも厳し過ぎてTHE・ブラックな上司に相応しい人柄なのに、そんなに良い人だったなんて。
「そう……なんですか」
「きっとそうだよ。……じゃ、僕は立花さんに言われた企業先に行ってくるから。古紋さんも頑張ってね!」
「はーい、条井先輩行ってらっしゃーい」
ナギサ先輩は颯爽とまとめた書類をカバンにまとめてオフィスを出て行った。相変わらず先輩は爽やかだ。わたしもいつか、あんな風になれたら。それに比べて、今のわたしは……。再度溜息が漏れてしまった。
「はぁ、もうやってけないっすわ。……あっ、アキりん」
わたしと同じタイミングで向かい側の席で溜息をついた彼女の名は
「ミキりんも仕事量が半端ないって感じ?」
「アキりんほどじゃないけどね……ただ、」
「ただ?」
「条井先輩が行っちゃったと思うとなーんかやる気なんて出なくなってさー」
ミキはいっつもこんな調子なのだ。わたしは呆れて仕事に戻る。
「……ごめん、聞いたわたしが馬鹿だった。さっ、仕事やろー」
「アキりんひっどーい!! ちゃんとわたしの話を聞いてよー!」
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「これでよしっと」
数時間ぐらいパソコンに向かってデータ収集や管理をして書類を作成しつつ、バダイン社の方に電話かけて双方の都合に合わせた時間帯を決めることがなんとかできた。時刻は午後一時。もう休憩時間か。わたしは一息ついてから腕時計を見つめる。
「ふぅ、午後二時からか」
後ろから肩をポンポンと叩かれて優しく声をかけられる。
「古紋さん。お昼、一緒に食べようよ」
「ああ、佐大さん! そっか、もう昼御飯の時間だよね。分かった、じゃあ行こっか!!」
わたしに話しかけてきたこの女性はもう一人の同期、
リコはわたしの返事を聞いて不気味なほどにこやかな笑顔を作って、ただ一言。
「ありがとう」
と答えた。
わたし達は屋上に移動し弁当を食べていた。わたしは弁当箱の中のハートの形をした具を見て少し呆れて吹きかけてしまう。全く、いいって言ってるのに勝手にノスフェルは毎日毎日弁当を作ってくるんだから。アンタはわたしのメイドか。愛が無駄に重いよ。ノスフェルは異星獣だし、味覚も
「古紋さんの弁当、前まで目の保養にも悪かった見た目だったけど、最近のは本当に美味しそうだね。羨ましいよ」
ははは……わたしじゃないんだけどね。それに若干ディスられてる気がするし。
「あ、ありがと。佐大さんのも美味しそうだよ」
「そうかな……でも私、自分で弁当作るのが苦手で、いつも料理得意の弟が作ってくれてるの。ねぇ、古紋さんのようにわたしも上手くなりたい。その弁当の作り方教えてよ」
額から冷や汗が垂れる。
「あー、これわたしが作ってる訳じゃないんだ……」
「へー。誰が作ってるの? 家族?」
「そっ、それは……企業秘密」
わたし達はクスッと笑った。するとそこからよろよろとぶっきらぼうにたった一人の男性社員が屋上の扉を開けてやってきた。彼はわたし達と少し離れた椅子に座り、弁当を取り出そうとしている。しかし、がっぽりと落として、中身が飛び散ってしまっていた。
「くそっ……なんなんだよ……」
ブツブツ言いながらおどおどする彼は
「はっ!」
慌てて時計を見る。もう一時半じゃん! やっばい! バダイン社に向かわなきゃっ!!
慌てて弁当箱を片付ける。
「ごめん佐大さん、これから行かなきゃいけないところがあるんだった!!」
「そっか、もっと話したかったけど残念。……あ、そうだ古紋さん。これあげるよ」
そう言ってリコが手から出したのは青色のマスコットキャラの様なキーホルダーだった。
「なにそれ?」
「ガンバレクイナちゃん。私が作ったお守りなの。古紋さん、最近仕事大変そうだからさ」
「そんな、わざわざ……佐大さんありがとう!」
嬉しい気分になり、わたしは気合を再度入れ直そうとした瞬間だった。思わぬ発言をリコがしてきた。
「古紋さん、私好きだな。恋人になってあげたいよ」
えっ
リコはいつになく真剣な目つきではっきりと言い切った。わたしは暫く硬直する。
やがてリコがいつもの表情になって笑った。
「なんてね、冗談だよ。ほら、行かないと」
その一言で我に返ったわたしの目が覚めた。
「あっ、そ、そっそうだ!! 行ってきます!」
なに動揺してんだよ、わたし。
〜〜一方その頃ご自宅では〜〜
「ぐへへぇ^〜〜!! ビーストアキちゃん様ぁ^〜〜!!! ……はっ! この振動波、まさか……!! 何か嫌な予感がします。アキちゃん様、大丈夫でしょうか……」
家事を途中まで終わらせて、休憩がてら一人で行為をしていた最中に不意に感じた、謎の寒気にノスフェルは行為をやめて少し考え込んていた、が。
「まさか、そんな筈ありませんもんね! さぁ再開再開!!」
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「なっ……なんなのよ、アンタ……」
急いで会社を飛び出た直後の出来事である。
「よぉ。突然だがアンタのこと、ちょっと調べさせてくれ」
なんか変な奴がわたし目的でスタンバってた………。
格好からして、如何にもカメラマンって感じの男だ。週刊誌? マスコミ? どちらにしても面倒臭い。なんとしてもこの会社やわたしの素性をこんな男にバラすわけにはいかない。MP課にでも連絡しようか。いや、まだそこまで深刻じゃない。大人の対応でさっさと振り払おう。
「あの、我が社にご要件がありましたら、受付にて連絡を頂けると……」
そう言い放ってさっさとバダイン社に向かおうとするも。
「いや! 俺はアンタに用があんだ。頼むから取材させてくれー!!」
うぅ……。ぶっちゃけ面倒臭い。
「けっ、結構です!」
わたしはとにかく立ち止まらずに距離を取りながらそう言った。しかしながらカメラマンも中々しぶとい。早く諦めてよ。
「ほら、最近さぁ。物騒な世の中でしょ? だからこそ真実を知りたいんだよ、俺も」
「なんの話のことだが知りませんが、わたしは忙しいんです!」
「分かってる! ちょっとで良いんだ! だから取材させてくれ!!」
「いやですよ! 予定に間に合わなくなります」
「これは世界を救う為なんだよ、アンタだって平和が一番だろ?」
「そりゃあ平和が一番ですけど、世界を救うのがわたしと話すのと何の因果関係があるんですか」
「いやいや本当に頼む! 一回だけでいい、だから取材をさせてくれ!!」
「結構ですって……」
なんだコイツ……すっっごいめんどくさぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!
「はぁ……はぁ……やっと一日が終わったぁ……」
今日は本当に疲れた。なんとかカメラマンを切り抜けてバダイン社からコンテンツ別に売り上げに関する情報提供をする話でオッケーとデータをもらえた。それから会社に戻って(まだスタンバイしていたあのカメラマンを上手いことまいた事は言うまでもない)資料をまとめあげる作業を終わらせて、残っていた上司に提出する頃には既に定時時間を遥かに上回っていた。なんだかんだ言いながらも、上司はわたしのことを褒めてくれた。
少し照れ臭くもデスクに戻ったら、ちょっと前に資料を提出したナギサ先輩と目が合い、「ほらな」ってウインクしてきた。赤面になってわたしは申し訳なく小さな会釈をして、そのあとナギサ先輩とミキりんとで一杯飲みに行った。
「ぷは〜! キンキンに冷えててさいっこうですね!!」
なんだかんだ言って、わたしはこの仕事が好きなんだ。
大人になるって、子供みたいに甘えられなくなるってことだとわたしは思う。
それってとっても辛くて、大変で、挫けることなんだよ。
ましてや本望でやってない仕事でも何十年も続けてたら……。
けれど、仕事や何か夢中なことに生き甲斐を持てれていれば、人はちゃんと大人になって、いつか人生で感じたことのない幸せを掴めるようになると思う。
わたしは決して逃げない、例えどんなに辛い仕事がまた来たとしても。そう心から強く実感したのであった。
……とは言え、流石に今日は色々と溜まってきてるせいか、もう酔いが回ってきた。酔い潰れる前にすぐ寝ようとしよう。家に帰ったわたしは扉開けて部屋を見た。
「ただいまぁ……あっ」
わたしはノスフェルの様子を見て絶句した。ただでさえ疲労が尋常じゃないと言うのに、余計なストレスが一気に込み上がってくる。
「あっ……あっ………んん……ビーストアキちゃん様ぁ!!……あっ」
わたしは乱暴に荷物を投げて、拳をピキピキ鳴らす。全てを察したノスフェルは青ざめて後退りする。
「ノスフェルくんよぉ……」
「あ…アキちゃん様……。こ、これは違くて……そんなことよりかかっ、家事はちゃんと終わらせましたよ……」
「だーまーれ。ぼくのビーストヒューマンで、アンタはなにやってんじゃあああああああああ!!!!」
「ひぃっ……ごめんにゃしぁぁぁい!!!!」