タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、買い物する

虚無の曜日だからといってメイドに休みなどありません

 

休みなのは魔法学院の生徒や教師だけで、下働きをするものにとって貴族様の世話をするのに変わりはありません。むしろ授業がない分、暇を持て余した貴族様たちの対応に追われていつも以上に忙しかったりします

 

そんなわけで虚無の曜日の今日こそ私と親しくなろうと意気込んでいた桃色の髪の少女は、あの娘に私がトリステインの城下町に仕事で買い物に言ったことを告げられてガックリと肩を落としていた・・・というのが帰ってきた私に同僚のメイドが教えてくれたことでした

 

 

 

 

 

仕事の買い物をするべくメイド服に身を包みトリステインの城下町を歩いています

 

大通りは老若男女が行き交い、道端では商人が声を張り上げて雑多な商品を売る姿が見られ活気に溢れています

 

声を掛けてきた青年には学院長の名前を出し仕事中だと丁重にお断りの返事をし、飾り物を勧めてきた商人には持ち合わせが無いと断わりながら目当ての店を探します

 

シュヴルーズの話では確かこの辺りのはずでしたが……っと、盾の前で剣と槍が交差した胴の看板。どうやらここのようですね

 

店の中に入っていくと中は昼間だというのに薄暗く、壁や棚には所狭しと剣や槍が並べられています

 

店の奥でパイプを加えていた中年の男性がこちらを胡散臭げに見つめましたがそれも一瞬のことでした。おそらくはこの店の店主でしょう。シュヴルーズの言っていた通りなかなかの慧眼をもっているようです

 

例えメイド服姿だろうが店に入って私が纏った雰囲気は戦闘経験者にしか持ち得ない類のものです。それは貴族様が使う魔法などでなく手にした剣で、槍で、弓で敵の肉を貫いた者しか手に入れることができません

 

「いらっしゃい、入用は何だ」

 

きちんと客として認められたようでなによりです。それでは

 

「投擲用短剣三十にそれを吊るせるベルト、暗器として使いたいので胸当てに収納できるものか腿に巻いて使えるものをお願いします」

 

店主はこちらの要求に驚くこともなく待っていろと一言つぶやくと店の奥に消えていきます。奥から聞こえてくるガチャガチャという音を聞きながら店内を見渡します

 

シュヴルーズが稀に武器を卸しているだけあって棚には矛先の鋭い槍が並び、隅の樽にも隠れた業物の長剣が無造作ながら手入れの行き届いた状態で入れられています

 

その樽の中にあった一本の長剣。気付けば私はそれをまじまじと凝視していました。刀身が薄く、薄手の長剣でした。表面には他の剣や槍とは違い錆びが浮き見栄えはいいとは言えません

 

ですが私はその剣をじっと見つめていました。樽の中にある剣は一律千エキューと書かれています。何かの冗談かと思いましたが、もしこの剣が千エキューで売られているのならこの店の主人は随分と良心的な商売をしているものです

 

樽の傍まで近寄ると上から見下ろし、しゃがんでから横から眺め、樽の中から取り出して柄を握ってみます。自然と感嘆の息が漏れました

 

「魔剣良綱やエクスカリバーには届かなくても魔王の剣と同等といったところでしょうか?中に入っているものに関すれば私では手に負えないかもしれません」

 

錆び付いたこの長剣をそう評価します。ハルケギニアの武器ではこれまで見てきた中で間違いなく最高のものでした。ですがこの剣をどうこうするつもりは私にはありません

 

私が一番信頼しているのは自身の鍛え上げた肉体であり、母さまが授けてくれた技の数々。武器の無い状態でも抗い生き抜く術です

 

そう思いながら剣を樽の中に戻すとちょうど店の奥から主人が戻ってきました。手には注文通りの短剣とベルトがあります

 

その会計を済ませるともう一度だけあの剣を見つめ店を後にしたのでした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて私の気配が店の周辺から完全に消えると、樽の中でそれはカタカタと愉快そうに音を立てます

 

『おでれーた、まったくなんて嬢ちゃんだ!』

 

カタカタとそれは続けます

 

『ありゃー剣だけじゃなく他の獲物の素質もありそうだーな!』

 

樽の中でカタカタとそれは喋ります

 

『それにしても……』

 

カタリ・・・と、僅かに無念の音を響かせて

 

『伝説を三等賞呼ばわりたぁ、怖い世の中になったもんだぁな!』

 

 

 

 




伏線ちょこちょこ入れつつ書いていきます
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