タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、運送する

助けなんてなくても大抵のことはすぐに覚えてこなせる。欠点はとっつきにくいことくらい。貴族様や商人の子供でもないのに字の読み書きが出来て達筆。わかりやすくいえば部下にするには優良物件

 

それが赤毛の女貴族様が私に付けた評価でした。『だからツェルプストーの家に雇われない?』と続けて言われたことに即答で『お断りします』と告げるとなぜか愉快そうに笑っていました

 

ええ、分かっていますよ。ドアの隙間から赤毛の女貴族様を射殺さんとばかりに睨んでいる桃髪の少女をからかっただけなんですよね

 

だからあなたもそんな顔はやめてくださいと少女の顔を見ると、視線が合うなり顔を真っ赤にさせて走り去ってしまいました

 

そんな走り去っていく少女の姿を見て赤毛の女貴族様はさらに声を出して笑い声をあげました。とはいってもその笑い声は少女を馬鹿にした粗野なものではなく、私に軽い悪戯をする時の母さまの温かい笑い声にどこか似ています

 

「好きな娘にちょっかいを出す男子みたいですね」

 

そう言うと、赤毛の女貴族様は朱に染まった頬を逸らして少女が去っていった方にズンズンと歩き去ってしまいました

 

 

 

ということが先日あったのですが、実を言えば貴族様に雇用関係で声を掛けられたのは女貴族様で七人目となります

 

女貴族様以外は全員が今期卒業を控えている上級生の生徒たちでした。彼(女)らが言うには、平民出なのに有能そうなので卒業後に実家に戻る土産の一つとして私を連れ帰ろうとしたとのことでした

 

中にはやや強引な手段で迫られたこともありました。幸い、ことが大事になる前に学院長が間に入り、私は学院長に直に雇われていることを説明して事無きを得たのですが、にも関わらず諦めない方もいます

 

諦めるというよりは、学院長が直に雇うような人材を横から奪おうという気概が感じられます

 

こういった貴族様は学院長の名前を出しても話を聞いていただけません。黙って言うことを聞けと杖を掲げ、こちらを威嚇してきます

 

そういう貴族様は丁重に人気のない場所にご案内し誠意ある対応をとらせてもらっています

 

まず喋ろうとした顔面に拳を打ち込み、倒れたら踵で喉を踏み潰します。貴族様の制服を裂いたそれで手足をきつく縛って全身を束縛していきます。身体をしばるのに余った布地は口に詰め込み、その上から再び顔面と心臓の真上に拳を振り下ろすと終了です

 

ぴくりとも動かなくなった塊を「よいしょ……」と肩に担ぎ向かうのはメイドたちが洗濯をするのに使っている水場です

 

そういえばと思い周囲を見渡します。視界に桃色の髪は見えません。さすがに授業中は少女も私を追いかけられないかと嘆息して小川を渡ります

 

水のせせらぐ音がだんだんと遠ざかっていく。学院からそれほど離れていない場所にそれはあります。木々に覆われたちょっとした規模の林。モノを隠したり保管するには都合のいい場所です。そこに担いでいた塊を無造作に投げ下ろします

 

「これでトロル鬼を誘き寄せる餌はなんとか用意できましたね。できればあと一人は用意したいところですがなかなかに肥えた貴族様なので一人でも十分かもしれませんね」

 

敵は殺す。それが母さまから教えられた最も確実な身の守り方です

 

「しかし、母さまが話してくれた誇りある『貴族』とは違って貴族様の相手をするのは気疲れしてしまいます」

 

目を瞑り腕を伸ばして背伸びをする私と日光を不意に遮る影。空を見上げると雲ではなく遠目に一匹の竜とそれに跨っているメガネをした青いショートヘアの少女

 

空高く遠目なので確かではありませんが桃髪の少女より小柄なのではないでしょうか?

 

ふと二百メイルは上空にいるその青髪の少女と私の視線が交わった気がしましたがきっと気のせいでしょう……

 

なんて甘い考えは身を滅ぼすかもしれないので、後できちんとあの青髪の少女のことを調べることにいたしますか

 

 




任務帰りのハシバミさん見たくないものを見てしまったの巻でした

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