「名誉の戦死ですか……」
体中を不快めいたものが流れていくのを十分に自覚しながら、いつも浮かべている不満げな表情ではなくはっきりとした不機嫌のそれを浮かべます
目の前には重厚なつくりのテーブルに手を置いてため息をもらしている、白い口ひげと長い白髪を持つ老人
私が下働きをしているトリステイン魔法学院の学院長を務めているオールド・オスマンです。加えて私の裏の仕事の仲介役をしている人物でもあります
表向きはこの魔法学院のメイドとして日々働いていますが、貴族様が手に負えなくなった事柄、亜人討伐の手伝い、汚れ仕事などが学院長を通じて私に依頼されてきます
この学院長との出会いは、とある森で野生の飛竜に襲われていた学院長とそのお供を気まぐれで私が助けたというものです。以来、学院長に誘われて学院でメイドとして働くきながら裏の仕事もこなす日々を送っているのです
そして今回の仕事の依頼は『名誉の戦死』をした貴族様の調査とのこと
学院の生徒だった彼らは、いずれもオーク鬼やトロル鬼がいた集落の近くで発見されています
『どこからともなく流れた噂』では、亜人による被害を見過ごせなかった誇りある彼らは平民のためにその身を犠牲にしてまで戦ったと言われています
発見された周辺では亜人は打ち倒されていて、命を賭して平民のために散った彼らは民衆の間で誇りある貴族としてうたわれ、その死は名誉の戦死と崇められています
「それでじゃ……それなりの家柄の子息もいたようでな」
「詳しい調査を依頼してきたと?」
「うむ……」
はぁ……、まったく死んでも私を煩わせてくれるものです。貴族様の好きな誇りだの名誉だのを付けた話にしたのに何が不満なのでしょうか。それとも、やはり五人も続けて名誉の戦死をすれば不審に思う貴族様もいるということでしょうか
「なんにせよ親としては息子の最後が気になるのじゃろう……」
最後と言われましても、強引に言い寄られたので動けない状態にしてオーク鬼を誘き寄せる生餌にしたというだけなのですがね。学院ではあまり良い噂のない貴族様でしたので、あの世では最後に名誉の戦死をさせてくれた私にひょっとしたら感謝しているのかもしれません
「それでは若い女性を庇ったということも話に加えましょうか」
「ふむ、若い女性が生徒の親に殺されるじゃろうな」
「魔法の練習も兼ねて平民の助けをしていたというのはどうでしょう」
「ちと盛り上がりに欠けるかの」
「戦いの最中にトライアングルに成長した」
「確かメイジとしてはドットじゃったな。英雄譚としてはラインメイジじゃ格好がつかんのぅ」
本当になぜこんなくだらないことに付き合わねばならないのでしょうね。それから学院長と私は貴族様にとって都合のいい話を作り上げるため、夜が更け始めても長々と英雄劇の脚本を作り上げていったのでした
マルチ解禁されたので更新再開しまーす