我慢できずにちらりと後ろを振り返ってみると、嬉しそうに「なに?」と問い返してくる丸い鳶色の瞳があった
見知った少女だ。そんなことはとりあずどうでもいいのですが、なんとなく森にいたウェアウルフの親子を思い出してしまいました
母ウルフの後をついて回る子ウルフの姿が少女と重なる。世話をするという点においてはあの親子と似ているのかもしれません
足を止めずに時々振り返ってみると、少女は何を言うわけでもなくずっとついてきていました
いつからか少女は隠れることをやめました。私の近くにいるようになりました。睨みを利かせて追い払っても次の日にはまた傍にいます。最近では睨んでも後ずさる程度で、どうやら少女が耐性をつけてしまったように感じます
いつも少女と私を見て大笑いしていた赤毛の女貴族様も、今では微笑ましいものでも見るような表情で少女をからかうでもなく「頑張りなさいよ」と一言を残していかれます
気配を消してこちらの様子を窺っている青髪の小柄な少女は今のところ害はないので放置しています。一度だけ視線が交わったことがありましたが、すぐにふいと外すと去っていきました。あの日、竜の背にいた少女と目が合ったのは間違いなさそうですね
学院の入り口には私を迎えにきた馬車がすでに止まっていました。歩く速度をそれとなく緩め、またちらりと後ろを振り返る
明日には二年生に進級するというのに、少女はそんな時でもいつもと変わらない
今日から仕事で数日はいないのに、明日も少女は私を探している気がする
馬車の手前で立ち止まり、しばらく迷ったあと体ごと振り返った
「仕事で数日は戻ってきません」
「っ!」
言わなくてもいいことを言ってしまう。理由は本当になんとなく・・・・だった
さすがにもう少女に振り返ることなく止まっていた馬車に乗り込む。意識せずにため息がもれた時に……その声は聞こえてきた
耳を澄まさなくても少女の声はよく耳に響いてきた。貴族令嬢らしからぬまるで叫ぶかのような、だけどとても澄んだ声で
「いってらっしゃい!」
いつもの不満げな表情を浮かべながら、意図せずに
「・・・・いってきます」
とだけ誰にも聞こえないようにつぶやいた
ちょいデレ?