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シエスタさん、撫でる
大粒の激しい雨が降り、遠くの方では雷鳴が轟いています
雨が外壁や窓を打つ音を聞きながら編み物をしていた私は不意にその手を止め、ベッドの上にいる少女に視線を移します
両膝を抱えてうずくまったまま、ぴくりとも動かない。その様子に思わずため息をついてしまいました
私と少女がいるのは学院にある平民用の宿舎の一室。学院の生徒がいるような場所ではないのですが、少女はなにかにつけて部屋を訪れる。理由がなくてもいつの間にか部屋にいる
今日は前者で、おそらくは少女が午前中の授業で教室を半壊させたのが理由でしょう
「また失敗した」
うずくまったままひとりごとのように少女がつぶやきます。私は少女のすぐ傍にいますが、だからといって声を掛けたりはしません。慰めたりはしません。そんなこと少女も私も望んでいない
ただ、私が近付きベッドに腰掛けると後ろから少女の指が伸びてきてメイド服をそっと摘みました
まるでそうすればこの世のあらゆる問題はすべて解決するのだとでもいうように、メイド服に手をかけ私を見上げてくる
鳶色の瞳はいっぱいに開かれ、その視線の先に映るのはおそらく私だけ
もう一度だけため息をつきます
これは決して慰めではありません。こうしないといつまでたっても少女が部屋から出て行きそうにないからです
腕をそっと上げると少女の目がそれを追いかける。何かを期待するように。急かすように。少女の抱えていた膝は開かれ、その空間に少しだけ身をよせる
手のひらに押し付けられた繊細な桃髪の感触に何を思うでもなく、少女が笑顔になるまでしばらくそうしていたのでした
いつも浮かべている不満げな表情ではなく微笑みにも似た表情をしていたのは、私ですら気付いていない少女だけの秘密…………
いつの間にやら部屋に入り浸るようになってた桃色の子w