寮の廊下をモップ掛けした後、窓を雑巾で磨いていると、学院の門から馬に乗って出て行く少女と少年の姿がありました
窓を拭きながらしばらく二人の姿を追う。慣れた様子で馬を乗りこなしている少女とは違い、少年の方はまるで初めて馬に乗ったかのように危うい。あれではすぐに腰を痛めてしまうでしょう
向かった方角からおそらくはトリステインの城下町にでも向かったのでしょう。虚無の曜日に少女が自分の傍にいないのを素直に珍しいと思ってしまいました
少女は虚無の曜日にはよく私の部屋にきます。それどころか、深夜、眠れないからと言って枕を抱えて部屋を訪ねてくることもしばしば。多分、四日に一度は少女と一緒に寝ている気がします
少女がなぜ、こんなになついてくれるのか私にはわかりません。出自がやや特殊とはいえ私は平民で、少女はトリステインでは知る人ぞ知るヴァリエール家のご令嬢です。貴族社会の常識で言うなら少女と私の関係は異常です
少女はことあるごとに自分の傍に寄ってきて、ただ一緒にいる。正直に言えば、今でも少し戸惑っている。こんなふうに手放しで誰かに好かれたことは、本当に久しぶりのことだったから
そうして今では、深夜に尋ねてきた少女が一方的に話をして寝入るまでの間が、不思議と心が軽くなる時間になってしまっていた
少なからず、情は移った……と思う。けれども、それ以上の想いを抱くことはない。ここは安住の地ではないし、安住の場にはなりえないのだから
そんなふうにして、気が付くと今度は二人の女生徒を乗せた風竜が空を駆け上がっていく姿が見えました。よく少女をからかっている赤毛の女貴族様と、よく私のことを見ている眼鏡をかけた青髪の少女
二人を乗せた風竜は空高に上がると、少女と少年を追いかけるように同じ方角に飛び去っていきました
「母さま……」
私にもあの竜のような翼があれば、今すぐにでも森で静かに暮らしている母さまの元へ飛んでいきたい
好きなように好きな場所で生きたい。自分が最も心地よい場所で自分らしく生きたい
あの森で母さまや家族たちと静かに暮らせればいい。その考えはこれから先も変わることはない
だけどふと思う
あの少女の元気な声が聞けなくなるのは、少しだけ寂しいなと……
ガールズラブにはなりません
ならなかったよね?