明日から六日ほど学院を留守にします」
昼休みのアルヴィースの食堂でそう聞かされた後のルイズの行動は早いものでした
突然、謎の腹痛を訴え学院の医務室に運び込まれると、午後の授業は大事をとって休むことになりました。そして今はルイズの部屋のベッドでおとなしくしています
その間、ルイズの一番近くにいたメイドの私がずっと付き添っていました。今もいつまた具合が悪くなるかわからないので、できるだけ付き添っていてほしいとのことです
よくもまあ、ここまでやるものだと思います。とりあえずルイズに付き合っていたのですが、もう夜も更けてきました。窓の外には二つの月が光り、室内を静々と照らしています
自室に戻ろうと腰を浮かすと毛布の隙間から覗くルイズの顔が不安そうに歪み、呆れたため息と共に腰を下ろすと逆にその顔は、ぱあっと笑顔になる。さっきからその繰り返しです
言われなくてもわかっています。これはもう泊まっていかないと駄目なのでしょう
頭からカチューシャを取り外し、次いでエプロンを外すとルイズの顔が期待に溢れた。四日に一度だったものが三日に一度になり、こうやってたまにルイズの部屋にもいつの間にか寝泊りするようになっていた
学院の女学生の間では、私とルイズが色めいた噂になっていることも知っています。隣の部屋の赤毛の女貴族様などは冗談でルイズに祝いの言葉を送るほどです
いちいち説明するのも面倒なので噂については無言を貫いていますが、ルイズはどういった対応をしているのでしょうか。ふと気になりベッドに顔を向けると同時にルイズの言葉が飛んできました
「明日は早いの?」
「はい、早朝に迎えが来るようになっています」
「ふーん……、メイドの仕事って大変なのね」
「大変ですが貴族様のお手伝いが出来るのは身に余る思いです」
ええ、本当に。いろいろと身に余る思いをしていますよ。そんな身に余る今回の仕事は賊の討伐です
最近、港町ラ・ロシェール周辺の山道に山賊が頻繁に出没するようになりました。その山賊を討伐する貴族様のお手伝いをするのが今回の依頼です。仕事ついでに山賊が溜め込んだ金目のものは拝借するつもりでいます。どうせ全員死ぬのですから私が代わって有効に活用させてもらうことにいたしましょう
そんなことを考えながらルイズが寝転んでいるベッドにゆっくりと近付く。ルイズが半身をあけた位置に潜り込み毛布を被る
「おやすみなさいませ、ルイズ」
「おやすみなさい、シエスタさん」
ルイズはなんだか布団の中でもぞもぞと動き、いつものように軽く手を握ってくる。しばらくルイズは布団の中で唸っていましたが、そのうちに小さな寝息をたてておとなしくなりました
そういえばルイズの使い魔の少年も、ルイズが用意した平民用の男性宿舎ではなく同僚のあの娘の部屋によく泊まっていますね。などとどうでもいいことを思い出しながら、私も眠りについやのでした
『あの娘』はもうちょっと先で出てきます