港町ラ・ロシェール周辺の山道によく出没していた山賊は、空に浮かぶ国アルビオンから流れてきた傭兵の集団くずれでした。内戦状態のアルビオンで王党派についていたのだが、敗北がほぼ決定的になった会戦のおり、ラ・ロシェールに逃げ帰ってきたそうです
当然、報酬は前金しか支払われていない。それで、山賊のようなことをして金を稼ぐついでに憂さ晴らしをしていた……、というのが山賊の最後の一人から聞きだした話でした
それをラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭に待機していた貴族様御一行に伝えた後は、一階の酒場でつかの間の休息をとっていました。そう、とっていたのです……
ルイズ、使い魔の少年、赤毛の女貴族様、青髪の眼鏡をかけた少女、金髪を巻き髪にした女貴族様、トリステイン魔法騎士隊グリフォン隊隊長のワルド子爵たちが現れるまでは
つい眉をひそめてため息をついた私を誰が責められるでしょうか。やはり私に一番最初に気付いたのはルイズでした。一瞬浮かべた驚愕はすぐさま笑顔に変わり、躊躇することなく無防備に私のテーブルに駆け寄ってきました
使い魔の少年は何かを訝しむようにこちらを窺い、三人の女貴族様たちは未だ驚きの表情を浮かべています
そしてワルド子爵はどういうわけかこちらに突き刺すような視線を……、いや、突き刺すなんて生易しいものではありません。あれは身から溢れ出る殺意を宿した瞳の色です
反射的に目を細めてルイズを背に隠す。しかし、そうした時にはワルド子爵の瞳からその色は消えていました。ただ異様に光る意志を宿した瞳が逸らされることなく私を捉えています
「シエスタさん、こちらトリステイン魔法騎士隊グリフォン隊隊長のワルド子爵よ」
その情報は知っていましたが、そう言ったルイズを思わず見つめてしまいました。使い魔の少年は分かっていないようですが、女貴族様たちの口端も心なしかひくついた見え、ワルドの眉がピクリと跳ねます
貴族様にメイドを紹介するのではなく、メイドに貴族様を紹介する。しかもルイズはワルドを指差して言っているのです
どうやらルイズの中ではグリフォン隊隊長よりもメイドの方が格付けが上のようです。ワルド子爵も予想外だったのか形のいい口ひげが驚きで揺れていました
続けてルイズは言います
「じゃあキュルケとタバサとモンモランシーが相部屋ね。そしてサイトとワルドが相部屋」
仕事は終わり、後は学院に帰るだけだったのですが
「わたしとシエスタさんが同室よ」
しばらく学院には戻れそうにありません。形だけの抵抗も次のルイズの言葉に封じられてしまう
「大事な話があるの、二人きりで話したいわ」
せめて学院のメイドより高い給金を払ってもらわないと割りにあいそうにありませんね……
ギーシュとモンモンを入れ替えました