ルイズから話を聞くと、どうやらトリステインのアンリエッタ姫殿下から直々に頼みごとをされたそうです。詳しい内容は言いませんでしたが、なんでもアルビオンのウェールズに密書を送り届ける役目を仰せつかったそうです
内乱状態のアルビオンは危険ということを理解しているのでしょうか?まあ、もしものことがあってもルイズ一人くらいならなんとかなるでしょう。それに学院でも有名な三人のトライアングルのメイジにワルド子爵もいるのです。肉壁にするにはもってこいのメンバーですね
さて、私がルイズから頼まれたのは『一緒に来て』、という何をすればいいのかよくわからないものです。ですが、それでアンリエッタ姫殿下からの報酬の半分をくれると言うのだから旨みのある仕事です
早く仕事を終わらせたいものの、アルビオンに渡る船は明日にならないと出港しません。ならばとルイズは私を宿から連れ出して二人でラ・ロシェールの町を歩いているところです
ルイズが言うには、使い魔のの少年は練兵場で朝早くから汗を流しているとのこと。少年は身体能力こそ高いものの剣の腕はまるっきり素人で、それを知ったワルド子爵が短期間ながら剣の基礎を教えているそうです
品行方正で平民にみ分け隔てなく接するグリフォン隊隊長のワルド子爵。グリフォン隊には平民も混じっていて、結果さえ出せば身分は問わないのが隊の風潮
少年にしているのは噂通りの振る舞いですが、私を見ていたあの瞳が少し気になっています。いずれ何らかの行動をして私に接触してくるに違いありません
一方の女貴族様たちは昨夜に飲み食いして騒いでいたのがさわり、宿のベッドで唸っています。『ダーリンをメイドに取られた!』だの、『ハシバミサラダおかわり』だの、『ギーシュの浮気者』だのと部屋まで騒ぐ声が聞こえていましたからね
店の主人も貴族様相手の宿をしているだけあって慣れたもので、女貴族様たちをおとなしくさせるよりも飲み食いさせて金を落とさせていました。もっともおとなしくさせようにも、三人のトライアングルのメイジ相手では骨が折れることでしょう
さて、ルイズに注意を戻せば、濃厚な胃袋を刺激する匂いに誘われて一軒の店の前で足を止めていました。店の中から外まで聞こえてくるざわめきは活気に満ちて、漂ってくる匂いと合わせて一層人を引き寄せるものになっています
振り向いたルイズに小さく頷き店に入る。酒樽の形をした看板には『金の酒樽亭』と書かれ、店内には『人を殴るときはせめて椅子をお使いください』と冗談の効いた張り紙がしてあります
路地裏の一角にあった小汚い外見から、傭兵やならず者たち専用の店かと思っていたのですが、店内は船員と思われる風体のものや町の住人らしきものたちで埋め尽くされていました。しかし、注意して見れば隅の席やあるテーブルにはそれらしき者の姿もある
アルビオンの玄関口と言われるだけあって、こんな店にも様々な人種がいるものですね。そしてルイズはそんな店内を空いてるテーブルに向かってズンズン進んでいく。「なんでこんな店に貴族が?」という周囲の視線を全然きにしていませんねあれは……
注文も私がいるにも関わらずルイズ自身が頼み、出てきたクリームシチューと地鶏の丸焼きをはぐはぐと頬張っています。その対面で呆れてオムレツの皿をつつきながら、店の隅の席から一瞬感じた視線を無視します
手を出されない限りはただ働きはしたくありませんし、まだトリステインのどこにも手配されていなかったはずです
気配が遠ざかったのはすでに気付いている。気配の主も私が気付いていたことを知っている
そして、悠然と椅子に腰を下ろし、はぐはぐと食事をするルイズを見ながら思う
一体、どうやってフーケはあのチェルノボーグの監獄を脱獄したのだろうと
あるいは、誰がフーケを脱獄させたのだろうと……
こっそりモンモン強化
強化している理由は後々~