タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、眠る

翌朝、ニューカッスルから疎開する人々に混じって、ルイズと使い魔の少年、そして私の三人は船に乗り込むための列に並んでいました

 

「どこに行ってたの……」

 

隣にいるルイズが、こそっと呟く。繋いだ手はぎゅうっと握られ、見上げてくる顔はどこか不満げだ。そして、昨晩の出来事に関していえば私も大きく不満でした

 

「ずっと部屋で待っていたのに」

 

それにしても罪人となってなおワルドのトリステインへの忠誠心には呆れるばかりです。昨晩、決闘の介添え人にウェールズを読んだかと思えば、その心臓を一突きして易々と殺してみせたのですから……

 

アルビオン王家の人間をトリステインに亡命させないためとはいえ、その心中は如何ほどだったでしょうか。姫殿下とトリステインに忠誠を誓うがゆえに、姫殿下の想い人を手にかけた忠臣ワルド

 

「そういえば、ワルドはどうしたのかしら」

 

とどめを刺す前に逃げられました。床に叩きつけとどめを刺そうとした瞬間、床下から現れたフーケに連れ去られた。ワルドの腕を固めて動きを封じていたのですが、フーケは躊躇することなく魔法の刃で切り落とすとその身を抱えて地中深くに消えた

 

逃げられた。敵を殺せずに逃げられた。追う……という思考に至った時にはすでに二人の姿は闇の奥。身動きの取れない穴の中で、土のトライアングルを相手にするほど頭に血は上っていませんでした。だけど……

 

「女に溺れて任務を放棄し姿をくらましました」

 

これくらいの嫌がらせは言わせてもらいます。ルイズの口から王宮にはそのように伝わるでしょう。トリステイン最高の忠臣が最後の任務で起こした笑い話として伝わっていくはずです

 

フーケは自力でチェルノボーグの監獄から脱獄して、ワルドは任務中に女と逃げた。泥棒が脱獄して、貴族が任務を放棄したという本当にどこにでも転がっているありふれた話です

 

「……そう」

 

ルイズはしばらく考え込んだあと、そう言っただけでした。学院に戻ったら少しだけルイズとの時間を取ってやろうと、なんとなくそんなことを思ってしまいました

 

そうして、船に乗り込む順番が回ってくる。ぎゅうぎゅうに人が詰め込まれていましたが、何とか隅に三人が座れる場所を確保して腰を下ろす。すぐにルイズが右腕の中に潜り込んできた。そのまま私の右肩を枕代わりにすると間もなく小さな寝息が聞こえてくる

 

おそらくはさっきルイズが言ったように、ずっと部屋で待っていたのでしょう。ワルドとの決闘を終えた私が今朝方早く部屋に戻るまで……

 

そんな風にルイズの寝顔を見ていると、私もいつの間にかま微唾み始めていました。閃光のワルドとの決闘のせいで、全身が休息を欲している。使い魔の少年が何かを囁いていたようだったけど、身体は疲弊していて、隣にルイズがいたのでは眠ってしまうほかなかった

 

その身に気高き誇りを宿していた男を思いながら、次に合う時には絶対に仕留めることを決意しながら、私もルイズと同じ夢の中に落ちていったのでした




シエスタさんの属性耐性は炎0、風-50、水50です

ちょっとだけ風が苦手なのです

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