ラ・ロシェールで女貴族様たち三人と合流して学院に戻ってきた翌朝から、周囲の様子が変わった。一言で言うなら一人になれなくなってしまいました
朝起きれば当たり前のようにルイズの寝顔がある。自室にはいつの間にかルイズの私物が置かれるようになっていました
「平民のメイドの部屋なんかに泊まっていると悪い噂になりますよ」
そう言うと、ルイズは拗ねたように唇を尖らせ横を向く。どうやら怒っているようだ。それでも私の傍に居続けるのだからため息も出る
「わたしが好きで泊まっているの。いいでしょ」
駄目と言うには今さらでした。まあ、このくらいはいつものことでした。ですが、ルイズが学院の授業に出ている間も一人にはなれない事態が起きました
ルイズの使い魔の少年……、彼がこちらの様子をずっと窺っているのです。まるで昔のルイズのように。違うのは話しかけるでもなく、近付いて傍に来るのでもなく、何か気まずそうな顔でこちらを観察しています
どうせあの娘に事情でも聞かされたのでしょう。私のことは無視してあの娘と仲良く恋人をやっていればいいものを、いらぬ世話をやいてあの娘と私の仲を取り持つつもりのようです
はっきり言ってしまうと、今すぐにでも始末してしまいたい。それをしないのは彼があの娘の恋人という理由ではなく、彼がルイズの使い魔だからです。彼にずっとルイズの使い魔でいて欲しいからです。彼に死んでもらうわけにはいかない
彼が死ねば、次は絶対に私がルイズに召喚される。なぜかそんな確信を持っています。おそらくルイズもそう思っているでしょう。だから絶対に彼に死んでもらうわけにはいかない
もしルイズに召喚でもされれば、私はルイズがどうなろうと自由を手にしてしまうでしょう。ルイズをこの手にはかけたくない。そう思う程度にはルイズの事を意識してしまっていました
そんなことを考えながら空を見上げると風竜と目が合います。この風竜も私を一人にさせてくれない原因の一つです。青髪の眼鏡を掛けた小柄な少女の使い魔
使い魔の少年と違って『きゅいきゅい』と話しかけてくるし、傍にも寄ってくる。ただし、それは青髪の少女の命令で私をずっと監視している
人気のない場所で始末しようとしたら『殺さないでほしいのね!』と言われたので生かしています。今度、トリステインの魔法アカデミーに持っていって買い取ってもらう予定です。ハルケギニアでは喋る竜なんて珍しいですから高値で買い取ってくれるでしょう
そうやって一日を過ごし、精神的に疲れて自室に戻る。もはや自室だけが一人きりになれる場所です。扉を開けて、今日もかと嘆息した
「おかえりなさい、シエスタさん」
ルイズはベッドの上で古ぼけた大きい本を読んでいました。皮の装丁がされた表紙はボロボロで、羊皮紙のページは茶色く色あせている。なんの本だろうと思ったが、また揉め事に巻き込まれそうな気配がしたので本に触れることはやめておきました
触れるとしたら今のルイズの格好です。いつもの薄いキャミソールに白地のパンティ。そして頭には黒いネコ耳のようなもの
「学院にきた商人から買ったんだけどどう?可愛い?」
それを可愛いと言うのは、なんだかルイズに負けた気がするので言ってやらない
言わないと泣くと無言で訴えられたので仕方なく言った……
あの娘については、『村人、~』の話の中にヒントがあります