学院のヴェストリの片隅にある、見慣れないテントを撤去しろと言われてきてみれば、テントの中からは知った気配がしました。テントの横には人も入れそうな大きな釜が置いてあり、溜まった水の中では一匹のカエルが我が物顔で泳いでいます
いったいどうやって穏便に済まそうと考えるものの、中から聞こえてくるのは男女一人ずつの酔っぱらったような声。話が通じればいいのですが
「おんにゃはバカばっかりら!」
「あんのうわきもんがー!」
小さく息を吐きテントの中を覗き込む。そこには予想通り使い魔の少年と金髪を巻き毛にした少女がいました。そして、なぜか赤毛の女貴族様のサラマンダーまで。夜は冷え込むので暖房の代わりにでもしているのでしょうか
「あによ、ルイズの恋人じゃにゃい」
「セスタ!」
二人は私にそう言いましたが、私はルイズの恋人でもあの娘でもないと心の中で否定しておきます。テントの中はワインの瓶と食べかすらしい骨や果物の皮が散らばっていました。それを片付けるのは私です。再び小さく息を吐き、二人に向き直ります
「あの娘に部屋から追い出されたのですが」
少年はそれであの娘ではないことに気付きました。なぜか正座になり背筋を伸ばして神妙に頷いています
「それで貴族様と一緒になって酒宴を開いていたと」
もう一度神妙に頷く。そんな少年を見て、どこか心配そうな表情を浮かべている金髪の少女
「そちらの貴族様はまた恋人様が浮気でもなされましたか」
「あんなやつもう恋人でもなんでもないわよ!」
「そうですか」
「そうよ、ギーシュなんてあの年下の子と仲良くしいぇればいいのよ……」
されにしては寂しそうにワインを飲むものです。目が少し赤くなっているのはワインのせいだけではないでしょうに
…………そういえば、狭いテントの中で少年と少女が酔っぱらっているこの状況は、二人にとってあまりよいことではない気がします
「あら、メイドの次はモンモランシーなの。ダーリンもなかなかやるじゃない」
このような誤解が生まれますから。ちらりと振り返れば、赤毛の女貴族様がテントを覗き込んでいました。それから微笑みを浮かべて、少年と少女を言葉巧みに誘導していきます
これから暇つぶしに宝探しに行く
もしかしたら大金を手に入れられるかもしれない
その大金でメイドにプレゼントをしてやればいい
その大金で女を磨いて男を誘惑してやればいい
そうして二人をその気にさせてから、私をまじまじと見つめてきます
「あなたのことはあたしの『友達』からよく聞いてるわ」
ルイズのことでしょうか?だとしたら、ルイズと同じようになにかとんでもないことを仕出かすかもしれません
「そうね……、学院から貰っている給金に色を付けた程度は払うから、しばらくあたしたちに付き合ってもらえないかしら」
この間のアルビオンでの件で王宮に行って留守にしているルイズには書置きでもしておけばいいか。そんなことを思いながら赤毛の女貴族様に了解の意を告げたのでした
あの娘の名前はセスタ
安直な名前ですねーw