オルレアン様が眠りの魔法でヒラガ様の意識を奪ったあと、モンモランシ様が何かの薬品を染み込ませたハンカチを鼻孔に添えると、ヒラガ様の身体から完全に力が抜け地面に崩れ落ちました。打ち合わせもないのに中々の連携ですね
「森には行かずに学院に戻る。ということでよろしいですか」
申し合わせたように三人の女貴族様は黙って首肯しました。ヒラガ様のさっきの様子からすると、意識を取りも戻せばまた母さまに会いに行こうと言い出すに決まっています。女貴族様たちはそれに付き合いたくはないでしょう。私はといえば、かなり母さまに会いたかったのですけどね……
そういうわけで宝探しを中断して学院に戻ってきました。意識の無いヒラガ様はずっと風竜に咥えられています。そのヒラガ様を見つけて慌てて駆け寄ってきたのは、あの娘。カチューシャで纏めた黒髪とそばかすを持つタルブ出身のメイド。ヒラガ様が食べられると思ったのか風竜の主のオルレアン様に平伏してお願いしています
「お願いします!サイトを殺さないでくださいませ!」
地面に頭を擦り付ける様にオルレアン様は表情を曇らせてこちらに視線を向けてきます。似た容姿をしているので勘違いされているようですが、あの娘がどうなろうと私にはなんの関係もありません。関係ありませんが……
「ヒラガ様がいなくなるとルイズが困ります」
「わかった」
風竜がヒラガ様を解放すると、あの娘はすぐさまその身体を引きずって去ろうとします。途中で厨房のコックたちが駆け寄ってきて、あっという間にヒラガ様を担いで行ってしまいました。姿を消す前に、あの娘がオルレアン様ではなく私に深く頭を下げていたが無視する
あの娘にはもう関わる気はありません。関わっている時間などない。なにせ、こちらにも向かえがきたのですから
「シエスタさんのばかあああああああああああああああああああああああ!」
なんというか、大泣きするルイズが現れたと思ったら抱きつかれました。わけがわかりません
「一週間以上も、どこ行ってたのよ。もう、ばか、きらい、だいすき」
ずるっ、えぐっ、ひっぐ、とルイズは顔をメイド服に押し付けながら泣いている。ちゃんと、しばらく留守にすると書置きしていったはずですが……
「泣かないでください」
そう言って柔らかい髪を撫でると、ルイズはますます強く泣き始めてしまいます。生徒たちの注目を集めるのでそろそろ離れてくれないものでしょうか
「きらい、だいっきらい、だいすき」
母さまに泣いた子どもの泣き止ませ方を教えてもらっておけばよかった。生徒たとの人垣が出来始めたのを横目にそんなことを思う
モンモランシ様は泣いているルイズと抱きつかれている私を見て可笑しそうに言います
「やっぱりあなたたちデキてるんじゃないのよ」
ツェルプストー様が微笑ましそうに
「あらまあ、まったくルイズったらおもしろいわね」
オルレアン様がぽつりと
「お幸せに」
と言った
その夜、ルイズは枕を抱えて部屋を訪ねてきた。ドアを開くと当たり前のように入ってきてベッドの上に寝そべる
「授業を休まれていたそうですね」
あの後、戻ってきたあの娘が聞いてもいないのに教えてくれた。ずっと部屋に閉じこもり、外に出ようとしないルイズの世話をずっとしていたと
「どこかからだの調子でも悪かったのですか?」
だけどルイズは黙って毛布を被ると、全身をベッドに潜り込ませてしまう。近寄って揺すると、中からくすくすと笑い声がこぼれる。毛布の隙間から入れた手はすぐさま捕まり、ルイズはくすくすと楽しそうな声音で私の手に頬をすり寄せてきた
甘えん坊な子だ。そして、そんなルイズをどこか受け入れている私がいる。せめてこの学院にいる間くらいは、ルイズに付き合ってみようかと思う。そんな感情は、今まで抱いたことがなくって……
とりあえず、私の横で寝息を立て始めたルイズの髪をそっと撫でてみた
ツンどこいった……