タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、操縦する

雲を抜けた瞬間、いつも全ての悩みを忘れることができた。どこまでもひろがる青い空。まばゆい光を惜しげもなく降り注いでいる太陽。空にいる者だけが、この鮮やかな光景を見ることが見ることができる。雲を見下ろし、その合間から地上を確認した時、どうしようもなく私は空を好きなことを感じました

 

しかし、そんな悠長なことを考えている時間は長くは続きませんでした。視界の先にある敵影。派手な塗装が施されたアルビオン艦隊。見渡せば敵だらけの空です。なんだか空を取られた気がして、不満を越して不快ですね。さっさと掃除することに致しましょう

 

急上昇してきた私を迎え撃つため、三騎の竜騎兵が降下してきましたが、竜のブレスよりこちらの機銃の射程の方が遥かに長いのです。竜騎兵が降下してくるのを確認した瞬間、機体に取り付けられた二挺の機銃メギドシューターに火を噴かせます

 

業火を纏った魔弾を受け、何も残さず空中消滅した竜騎兵からすぐに視線を外し、すぐさま他の敵に注意を向けます。空にはまだ何匹もの竜騎兵と艦隊がいるのです。のんびりしてはいられません

 

「さすが黒翼ね……、空中では敵無しと謳われるアルビオンの竜騎士がゴミのように消えていくわ……」

 

黒翼では無くゼロセン・プチオークカスタムです。鬱憤が溜まってきた時、憂さ晴らしに空を飛んでいるのをあちこちで目撃されて、どうやら私の愛機は黒翼という名でトリステインでは有名になっているそうです。魔王の鎧製の素材で覆われた全身黒塗りの機体が目立たないように真夜中しか飛行せず、空を夜間警備していた船や竜騎兵に遭遇しても何もせずに撒いていたのにおかしな話ですね

 

「うん、シエスタさんだもんね。黒翼の主でもおかしくはないのよ。そうよ……」

 

だのと私の後ろの複座でぶつぶつと呟くルイズ。そういえば、母さまと家族の他に複座に座らせたのはルイズが初めてです。あの娘やあのどうしようもないクズはともかく、姉ですら座らせたことはなかったのですがね。なんの抵抗もなく、防護服代わりにプリニースーツを着せてルイズを複座に座らせていましたよ

 

っと、近付いてきた竜騎兵を急降下で撃ち下ろし、半回転と急上昇で一気に竜のブレスの射程から離脱します。まるで自分の身体の一部であるかのように急激に降下してはまた舞い上がる。機体との一体感。歓喜で胸が高鳴るのを感じます。やはり空を飛ぶのは良いですね。いつも機体の整備をしてくれるプチオークさんには一生頭が上がりません

 

「それにしても、シエスタさんの家族に会えなかったのは残念だったわ。一度きちんと挨拶しておきたかったのに」

 

そうなのですよね。私も久しぶりに母さまに会えると思っていたのに残念でした。基本的には森からあまり外に出ない母さまなのに、こういう時に限って外出しているのですから。家にあった書置きには私と母さまにしか……ヒラガ様もでしたね、しか読めない文字で『湖の友達のとこに数日遊びに行ってきます』とありました。いつ帰ってくるか知れない私のために律儀な母さまです

 

「ギンガ様にきちんと挨拶したかったのに」

 

一瞬、操縦桿を握る手から力が抜けた。え…………

 

「まあ黒翼に乗れたし、また一歩シエスタさんに近づけたから良しとするわ」

 

慌てて操縦桿を握り直す。横滑りに横倒し。急降下。宙返り。急上昇。背面飛びからの強襲。持てる全ての技術を駆使して速やかにアルビオン軍を殲滅していく。そう、できるだけ速やかに事を終わらせるべく気を張り直す。早くルイズと話さなければいけないことができました

 

「でもこんなにびっくりしたのは、ちい姉様の病気が完治した時以来ね」

 

おそらくは、ちい姉様というのは、あのカトレアのことでしょう。唇をぎゅっと結び、ゆっくりと開く

 

「いつから、私のことを知っていましたか」

 

「出会った初日に寮にいたシエスタさんに似たメイドに名前を聞いてからね」

 

ルイズのその言葉に唖然とした。知っているはずです。ルイズは全て知っているはずです。だけど……

 

「私が星の魔女ギンガの……エルフの娘だと知りながら傍にいるのですか」

 

「そうだけどそれがどうかしたの?」

 

即答でした

 

「命の借りは末代まで語り継げ。星の魔女ギンガとその娘シエスタには最大の敬意を持って接すること。ヴァリエール家は如何なる時もかの親子の力となれ」

 

戦闘をしているのに、それがどこか遠いことのように感じる。竜騎兵を全滅させて、上空にある巨大戦艦めがけて舞い上がっているこの状況も、ルイズの言葉の前では希薄なことでした

 

「でもそんなこと関係なく、わたしはシエスタさんが好きだから傍にいるのよ」

 

そう言ったルイズを振り返り見て、自分でも珍しく大きく息を吐いた。悪く思われていないのはよかったけれど、少しはその好意を隠してくださいと思う

 

「これからもよろしくねシエスタさん!」

 

全ての動きを一瞬止め、思わず宙に視線を投げ、ひそやかに再び大きく息を吐く

 

なんだかどうでもよくなってしまう。でもとりあえずは、気が抜けた瞬間に被弾させてくれた上空の巨大戦艦を落とすべく、空を見上げたのでした

 

 

 




ほぼ書き直し
飛行大好きシエスタさんにしてみましたw

ゼロセン・プチオークカスタムの動力はSP
SP=稼動時間
機銃一発につきSP5消費


メギドシューター
銃武器、準最強装備。地獄の業火を打ち出す銃

魔王の鎧
鎧防具、準最強装備。

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