戦勝で沸くトリステインの城下町とは別に、多少は浮かれた雰囲気はあるものの魔法学院ではいつもと変わらぬ日常が続いています。そう、いつもと変わらぬ日常が……
陽光香るベンチに腰掛け、遅めの昼食のパンをかじる。そこから十五メイルほど離れた背後から感じる視線。母さまが持たせてくれた手鏡で気取られないように確認すると、地面にぽっかりとあいた穴からヒラガ様がいつものように私を観察していました
主人のルイズを放っておいて何をやっているのでしょうか。てっきりトリステインの王宮に呼ばれたルイズに付いていったと思っていたのですが、今日も飽きずに私をストーカーするようです。こんなことをしていると、またあの娘に誤解されるということに気付いていないのでしょうか?私に浮気していると誤解されても今度はもう相手にしたりしませんよ……
はぁ…
せっかくルイズがいないからと休みを取り、オルレアン様の使い魔の風竜を売り飛ばそうとしたのに、オルレアン様も風竜も学院を留守にしていました。ならばと今日は一人でゆっくり心身を休めようと思った矢先にヒラガ様のこれです。身体は休めても、これでは心の方はちっとも休まりません
なのでベンチの下にあった手ごろな大きさの石を拾います。こぶし大のそれを、ヒラガ様を背にしたまま手首の力だけで宙へと投げます。ちょうどベンチからベンチから腰をあげた時に、宙で放物線を描いたそれは狙い通りに的へと当たりました
背後で『ぼごんっ!』と大きな音がして、ちらりと背後を覗くと穴の中で頭から血を流して倒れているヒラガ様の姿が見えました。うまく気絶してくれたようでなのよりです。すぐに
「サイトしっかりぃ!」
と半泣きでわめきながらヒラガ様を介抱するあの娘の声が聞こえてきたので大事には至らないでしょう。それにしても、ヒラガ様の横で穴から顔を出している巨大モグラはどこかの貴族様の使い魔ではなかったでしょうか?
前にツェルプストー様の使い魔で暖を取っていた時といい、同じ使い魔としてなにか通じるものがあるのかもしれませんね
そこまで考えて小さく嘆息する。なにをくだらないことを考えているのだと思う。よし、と軽く気を入れなおし、周囲の喧騒をよそに自室へと向かう。廊下に人影は無く、どこかの部屋から話し声が漏れ聞こえてくるようなこともないのはちょうどいい。これなら自室でゆっくり休めるし、ゆっくり考えごとをすることもできる
考えるのはいつも私の傍にいる、柔らかい桃色の髪と鳶色の瞳をもつ少女のこと
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
一度だけなんとなく呟き、長い名前だと思う。その長い名前をそらで言えるようになってしまっている。覚えようとしたわけではなかった。だけど、いつの間にか覚えてしまっていました。いつの間にかルイズが横にいるのが自然と感じるようになっていました。ごく自然なこととして……
今更、従順なメイドと学院にいる一生徒と言うには無理がありますね。私はいつからこんなにあっさりとルイズを受け入れるようになってしまったのでしょう。まったく、わけがわかりません。それどころか、もやもやして頭が痛くなってきました
唇を知らずに尖らせ、眉をひそめる。ため息まじりにルイズへの愚痴をこぼす。自室のベッドに倒れて枕に顔を埋め……たところで、ベッドにあったルイズの残り香のせいで余計に頭がもやもやした
ルイズの馬鹿…
ガールズラブにはなりません!
多分!