陽光眩しい学院のアウストリの広場には、地面にはいつくばり激しく身震いするヒラガ様の姿がありました。そして目の前にいるあの娘を指差して叫びます
「セスタ最高ぉおおおおォォォォ!」
人気があまりないとはいえ何をしていることやら。そして、あの娘が着ているのはアルビオンの水兵の軍服と学院の女生徒がいつも穿いている制服のスカートです。最初は正直頭が狂ったのかと思いましたが、なるほど
よく見ると軍服を上手いこと仕立て直して女性が着ても様になるようになっています。むしろあれを男性が着れば気持ち悪いだけでしょう
というより、そういうことはあの娘の部屋か、ルイズがヒラガ様にと用意した平民用宿舎の一室でやってください。今のヒラガ様の様子から察するに、部屋で二人きりになると確実に色めいたことになるでしょうが、恋人なら特に問題はないでしょう
でもせめて声は抑えるように願います。メイドたちの噂になっているのは二人のせいでも、あの娘と似た容姿の私までそういう噂にされるのははっきり言って不快です
せっかく人気のないところで休憩していたのにまったく台無しです。私が腰を下ろしている大木の枝の下とはまさか狙ってやっているのではないでしょうか。二人が上を見ないことを祈るばかりです
「くるりと回ってくれ。そしてそのあと、『先輩!』って、上目遣いで言ってくれ」
……関わる気はありません。関わる気はありませんが、本当にヒラガ様が恋人でいいのかとあの娘に問いかける人はいなかったのでしょうか。呼吸を荒げ、血走った目で小刻みに体を震わせている今ののヒラガ様は、幼い頃、関わってはいけないと母さまに教えられた変態紳士そのものです
そんなことを思っていると、どこかぎくしゃくとした足取りの貴族様たちがこちらに歩いてきます。金髪の巻き髪にフリルのシャツを着たモンモランシ様の恋人様と、ぽっちゃりと太った体格をした男子貴族様たち
たしかグラモン家の末子にグランドプレ家の跡取りだったはずです。どちらの家も私の仕事の御得意様ですね。ただの御得意様ではなく、グラモン家は子息のうち誰かの嫁にするとまで言って私を迎えようとし、グランドプレ家は私設部隊の隊長にと私を欲していました。まあ、あの御子息様たちはそんな話は聞かされていないでしょう
「けしからんな!ぜひとも僕も先輩などと呼んでもらおうではないかッ!」
「脳髄がッ!溶けるじゃないかッ!」
さすがあの両家の血を引き継ぐだけあって御子息も変わっていました。これ以上変なのが増えないといいでですけどね。愛想笑いを浮かべて対応しているあの娘を陰ながら応援するくらいはしてやってもいいかもしれません。いえ、しませんが……
あの娘は不気味な足取りと怪しい手つきをして近付いてきた貴族様たちに身の危険を感じたようで、『それでは、仕事に戻りますっ!』と一声告げて走り去ってしまいました
その後ろ姿を貴族様とヒラガ様たちは、『可憐だ……』、『まったくもってけしからん格好だった……』、『今日はあのセーラー服を着せたまま……』だのと呟きながら見送っています。服も脱がずに男性を虜にするとはあの娘もなかなかやるものですね
それにしても、ニホンゴを解読できることといい、母さまに私も作ってもらったセーラー服のことを知っていることといい、加えて黒髪黒目ならこれはひょっとするかもしれません。ヒラガ様が一人になった時を見計らって話をしてみようと思います
あら、ちょうどよく貴族様たちと分かれてヒラガ様が一人になってくれました。それでは……
『こんにちはヒラガ君、なかなかにおもしろい見世物でしたよ』
木の枝に腰掛けたまま、満面の作り笑顔でヒラガ様にニホンゴでそう話し掛けたのでした
今まで空気だったサイトの出番は増えるのか!?(増えません)