タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、魔拳を放つ

呼びかけの返答は、炎の玉と風の刃と氷の槍でした。足元から生えた太い土の針に貫かれて乗っていた馬があっけなく息絶えています

 

モンモランシ様を肩に担ぎ、射程圏外まで飛びのいたのは咄嗟の行動にしては中々だったと思います。私はどうということはありませんが、モンモランシ様に今の魔法が命中していれば重傷を負っていました。モンモランシ様も水の盾の魔法を完成させていたものの、それが気休めにしかならないことはわかっていたでしょう

 

私に小さく礼を言うモンモランシ様をよそに、魔法を撃ってきた四人の額を、短剣を投擲して正確に貫いたのに悲鳴の一つも上げず起き上がってくるということは、やはりアンドバリの指輪の力なのでしょうね

 

「これはこれはシエスタ様ではありませんか。先程は部下がとんだご無礼を」

 

これは意志のない偽りの生命を与えられた操り人形確定です。私を認識しても微笑みを崩さないなんてウェールズらしからぬ所業です。記憶にあるウェールズはいつもこちらの顔色を窺い、絶えずおどおどした態度でした。したがってこんな堂々としたウェールズなどありえません。それに私に攻撃しておきながら笑うとは、この人形たちを操っている者はアルビオン貴族というものを理解していません。まるで出来の悪い演劇でも見ているようです

 

「姫様を返しなさい!」

 

肩に担がれたままモンモランシ様が怒りの声を上げました。ああ、そうでした。一掃するにはアンリエッタ様が邪魔ですね。まずは蕩けた顔をしてウェールズに寄り添っているアンリエッタ様をどうにかしなくては。まあ、気絶させてモンモランシ様に任せるのが無難でしょうか

 

「アンリエッタ様!早くこちらにいらしてください!その男はアンドバリの指輪の力で操られているだけの、ただの抜け殻です!」

 

モンモランシ様がそう叫ぶも、アンリエッタ様はウェールズに腕をからませたまま離れようとしません。ならばとモンモランシ様は私の肩から降りて呪文を詠唱しました。三匹の水の竜がウェールズの体を食い破ります。その隙に私はアンリエッタ様の意識を当身で奪い、その身をモンモランシ様に預けます

 

「まったく、淑女らしからぬ行いではないかね」

 

いやはや驚きました。モンモランシ様の水の竜にあちこちを食い破られていたウェールズの体の傷が見る間に塞がっていきます。その様子にモンモランシ様の表情が険しくなります。アンドバリの指輪には修復効果もあるようですね

 

「キュルケがいないのが惜しまれるわね」

 

「雨を味方にしたモンモランシ様でも無理ですか」

 

「ええ、相性が最悪だわ……」

 

古今東西、こういった手合には火が有効な反面、水に対しては強い抵抗力を持っていますからね

 

「でもキュルケがいてもこの雨ではどうかしらね」

 

結局ツェルプストー様がいても変わらないではないですか

 

「あなたの体術もメイジ殺し並だとは思うけど、連中相手じゃ効果は薄そうだしこれはまずいかも」

 

む、まだ余力を残しているとはいえ、母さまに鍛えてもらった技を過小評価されたようで気に障ります。そのせいか、モンモランシ様のこちらを見る目が、『どうにかできるならやってみせなさい』と語っているようで、つい一番使いたくなかった技を選択してしまいました

 

過去にタルブの森で使用した際、森の一部を草木一本も残らない焦土と変え、母さまに本気で怒られた辛い思い出のある技です。三日間もプリン禁止はやりすぎだと今でも思います母さま……

 

「モンモランシ様。八秒だけ一人で耐えてください」

 

右腕を腰ために構える。身体中の筋肉に力を込め、さらに全身に灼熱の気を走らせる。私の周囲を白い熱が陽炎のように燃え盛る

 

「この!雨を得たわたしを甘くみないでよね!」

 

腰にためた右腕に強烈な放熱が発生した。白い光の渦がほとばしる。降り注ぐ雨が宙で沸騰して蒸発していく

 

「ああもう!痛いじゃないのよ!女の肌に傷をつけてただで済むと思ってないでしょうね!」

 

身体中が紅蓮の炎に、あるいは白き炎に包まれる。灼熱の業火に身を包まれながら、だけど私が業火に焼かれることはない。全身の熱をただ一点に収束させる。膨大な魔力の熱を右腕一点に集める

 

「ちょっとシエスタさん!まだなの!」

 

モンモランシ様の声を受けた時には、まばゆい発光を右腕に携えていました。目で斜線上から避難するよう促し、その一瞬後に叫ぶ

 

 

 

「魔拳ビッグバン!」

 

 

 

光と熱がなにもかもを覆いつくし、衝撃が周囲の木々を根こそぎ消滅させていく。光と熱が収まったあとの周囲は、ウェールズたちは一人残さず蒸発し、道には無数のヒビが入り、どこもかしこも黒焦げの惨状でした。その視界の隅に、アンリエッタ様に覆いかぶさり身を挺して守ったであろうモンモランシ様の姿があります。背中が少し焼け爛れているのが痛ましいですね

 

さて、とりあえずは気を失っている二人を……、モンモランシ様だけ起こすといたしますか。アンリエッタ様を起こすと碌なことにならない気がします

 

雲間から差し込む月明かりを浴びながら、モンモランシ様を起こすべくそっとその肩を揺り動かしたのでした




魔拳ビッグバン
拳系スキル、炎属性の範囲攻撃

モンモンの受難の日々はまだまだ続きますw

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