タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、お茶をする

夏季休暇が始まったばかりの魔法学院では幾人もの貴族様達が暇を持て余しています。大半の生徒は帰郷しているものの、およそ一割の学生は学院に残り思い思いに過ごしています。ツェルプストー様とオルレアン様も学院に残った内の二人で、なぜか私を指名して身の回りの世話をさせられています

 

だけど今日はそんな二人の世話をすることなく、トリステインの城下町へと足を運んでいます。白いパラソルの下で四つの椅子が備えられているテーブル。オープンカフェに七つあるテーブルの内の一つに私と彼女が使っている

 

歩みよってきた給仕に軽食とお茶を注文して、彼女に向かい合う。白色の薄手のワンピースが風に裾をなびかせる。清純そうな童顔。金髪のセミロングの髪は両脇で三つ編みにしている。それに標準よりやや大きめな胸が合わさってくすぐるような色気を振りまいています。顔と身体のアンバランスさが、いわゆるその手の趣味の男性には受けることでしょう

 

実際、上流貴族の目に留まって毎夜のように身体を弄ばれていましたからね。彼女との付き合いは、私が仕事でそれを助けてからのものです。まあ助けてからは面倒だからとワケ有りの女性が働く店に放り込んだきりだったのですが、彼女から定期的に送られてくる手紙に気になることが書かれていたので、こうして二人で休みを合わせて会うことにしました

 

「息災で何よりです、シエスタ様」

 

「あなたこそ身体に異常がないようでなによりです」

 

母さまから貰った貴重なエリクシールを彼女に使用したので異常などあろうはずがないでしょう。まっすぐに私を見つめながら彼女が笑う

 

「それにしても驚きましたわ。わたしの働いている店でヴァリエール様とモンモランシ様が働きだしたこともそうですけど、シエスタ様から会いたいと言われるなんて」

 

両肘をついて組み合わせた手の上に彼女が顎を乗せた。金髪の髪が波打つように風に揺れている

 

「ただでさえシエスタ様と似た顔立ちのセスタさんがいて戸惑っていますのに」

 

私はなにも言わずに軽く息を吐いただけ。なのに、彼女はなにかの返事を貰ったかのように微笑んでいます

 

「みんな元気にやっていますわ。最初は戸惑っていらしたみたいですけど、モンモランシ様などはすぐに順応されてしまわれて今では他の娘と比べても遜色ありません」

 

彼女はそこで言葉を切った。パラソルの作り出す日陰の中に給仕が入ってくる。パンにサラダ。それにアップルパイと紅茶が置かれた。一礼した給仕はトレイを小脇に抱え歩み去る

 

「ヴァリエール様はそうですね……、魅惑の妖精亭の癒しでしょうか。見たことのないような着ぐるみをいつも着ていらっしゃって、それが可愛らしくてお客様にも好評ですわね。店の娘も可愛らしさに釣られてよくヴァリエール様に抱きついていますわ」

 

そういえばルイズにプリニースーツを預けたままでした。見た目は可愛い装備ですが、並みのメイジや戦士の攻撃では傷一つ付かない性能を持っていますからね。変な客がルイズに絡んでもきっと無事でしょう

 

「それでセスタさんは……」

 

彼女は僅かに微笑みを崩して

 

「あの人は他人に全く心を開いていませんわね」

 

そう言った

 

「怒りもします。笑いもします。だけどそれだけですわ。悲しんだり嬉しがったりすれど、それはどこか劇の役者と似たものを感じます。恋人のサイトさんと一緒にいる時でさえそう感じました。きっとセスタさんは……」

 

そうですね。私はそのことに学院で初めて気付いたのです

 

「他人がどうなろうと何も感じない人なのだと思いますわ」

 

まったくその通りですよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また何かあればお呼びください、シエスタ様」

 

私を見つめながら彼女が笑う。夕日に照らされて、彼女の金髪は燃えるように輝いて見えた。きらきらとなびく髪は、まるで火の粉のように舞っている

 

「あなたもなにか困ったことがあれば言ってください。せっかく助けたあなたにもしものことがあれば目覚めが悪くなります」

 

不意に彼女の瞳がまっすぐに私を捉えた。ひどく力の籠った眼差し。そして、何でもない風を装って彼女は笑みを浮かべて言った

 

「そういえば、シエスタ様はなぜ私を殺さずに助けてくれたのでしょうか?」

 

「ただの気まぐれです」

 

即答しても、彼女はまっすぐに私をみつめたまま、やがて諦めたように深い息を吐いた

 

「シエスタ様は意地悪です……」

 

そうして彼女は私に背を向けて歩き出す。その背に私は……

 

「またいつか会いましょう」

 

彼女を助けた理由を告げる……

 

「『ロザリー』お元気で」

 

そう言って、私は金髪を持つロザリーと別れたのでした

 

 

 

 

 

 

 

それにしても、あの娘の本質を見抜くとは彼女も人を見る目が養われたものです。彼女が言った通り、あの娘は他人に全く心を開いていない。他人がどうなろうと何も感じない。学院で見せるあの娘の笑顔も全て見せかけ。恋人のヒラガ様への愛ですら見せかけ

 

だけど、私はあの娘の本当の笑顔を知っている。あの娘が心から悲しみ流した涙を知っている。言い換えるならば、私だけがあの娘の剥き出しの心を知っている

 

ずっと昔に私はあの娘と一番近い場所にいた

 

『セスタ』、『姉さま』と大切なもののように互いのことを呼び合っていたあの日々を……

 

 

 




彼女については『シエスタさん、人助けをする』参照

彼女の名前『ロザリー』はギンガの師匠と同じ名前です。でもって金髪でロザリーなものだからシエスタさんはつい助けてしまったとかそんな感じです

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