感想の返信は後回しにさせていただいて、できるかぎりあげていきます……
トリステイン王宮の通路石床を一切の足音を立てずに姉さまと歩く。行き交う貴族や親衛隊のメイジたちが遠巻きに聞こえよがしの中傷をささやきあっていましたが、私も姉さまも一瞥もくれず、ただアンリエッタ様の下へ急ぐ
「しかし、本当に森を手に入れることが出来るのでしょうか」
「陛下にはギンガ様の情報を曲解させて伝えているわ。おそらく訳ありの土地だと考えて、厄介払いよろしく手放してくれるでしょう」
「母さまの情報を曲解させてって……」
「タルブの森にはスクウェアクラスのメイジが束になってかかってもどうすることもできないエルフの魔女が住み着いている。無駄な犠牲を出すよりも、魔女の機嫌を損ねることはせずに放置しておく方がいい。幸いなことに魔女は平穏を望んでいると」
心持ち弾んだ声で姉さまは言った。森の家で母さまと姉さまと私の三人で過ごした日々を思い出しているのかもしれません。姉さまがあの家にいたのは短い間だったとはいえ、思い出すだけで幸せな気持ちになれるような思い出は数多くあるのです
「私はね、シエスタの望みならなんでも叶えてあげたいの。武勲をあげて、陛下が新設なされた銃士隊の隊長に就いたのも、騎士の身分があれば何かシエスタにあった時、力になると思ったから」
復讐をやり遂げた姉さまは生きる意味を失っていました。復讐だけが姉さまの生きる力でした。リッシュモンとメンヌヴィルを撃ち殺したあの瞬間から姉さまは生きる意味を失ったのです。だから、そのすすけて見えた背中を思わず力を込めて押し飛ばしてしまいました。せっかく仲良くなった姉さまが生きているのに死んだような目をしているのは嫌だったのです
そうして、ある時は姉さまをポカポカと叩き、ある時は姉さまに四六時中くっつき、姉さまが前みたいに私に笑いかけてくれるのを待っていたら、いつの間にか姉さまは泣きながら私のことを強く抱きしめていました。だけど、その力強い抱擁の中に私への確かな愛情を感じ取って、私も一緒になって大泣きしてしまいました。それからでしょうね、私と姉さまが師弟としてではなく姉妹となったのは……
と、姉さまが王家の紋章が描かれたドアの前で立ち止まりました。どうやらこの先にアンリエッタ様がいるようですね。ドアの前に控えた兵士に姉さまが目通り許可を伺って……、なにやら様子が変です。兵士に何か耳打ちされた姉さまが苦々しい顔でこちらを振り向きます。姉さまがそんな表情を私に見せるのはよほどのことです
「どうしましたか」
顔を寄せて姉さまが耳打ちしたのは…
「陛下がまた何者かにかどわかされたみたい。警護をしていたメイジの警備隊を強力な風の魔法でなぎ払い陛下をさらっていったと」
「ふふ……」
つい笑い声がでてしまいました。どこの誰かは知りませんがやってくれたものです。ああ、そんな申しわけなさそうな顔をしなくても大丈夫ですよ姉さま。姉さまに責任はありませんし、まして嫌いになることなどありません。むしろ今回の話で姉さまのことがもっと好きになったのですから
「わかりました。アンリエッタ様の捜索に私も加わります」
そして、アンリエッタ様をこのタイミングでさらった賊は、私が責任をもって対処することにいたします
「わかった。私も一緒に行かせてもらう」
姉さまが一緒なら願ったりです
「賊の乗っていた竜は警備隊のメイジが一矢報いて堕としたそうよ」
「それなら、まだ遠くへはいっていないはずです。夜明けまでにはかたをつける」
「そうね」
隠れるというのは非常に神経を使う。どこまで偽装をしたところで完璧はない。いずれ耐えられなくなって尻尾を出すはずです。なるべく早く見つけるので待っていてください。その時がきたら、できるだけ生きてきたことを後悔させてさしあげますから
アニエスの職業は次話