タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、苛立つ

正直に言ってしまえば私が疾風のギトーにしていたのは交渉でも脅しでもなく、単なる時間稼ぎでした。そして、アンリエッタ様の身柄を盾になんとか有利に話を持っていこうとしていたギトーは五分も経った頃、偏在が何の前触れも無く消滅しました

 

軽く息を吐き、眉間をぐにぐにともみほぐす。そうして現れた姉さまの気配を辿り宿屋の裏へ足を進めます

 

そこで見たものは、馬の背に括り付けられぐったりと気絶している街娘風な姿のアンリエッタ様と、姉さまによって意識を盗まれ熟睡しているギトーの姿でした。そのギトーの後頭部には姉さまがぴたりとドラグーンを向けています

 

「どうする?」

 

「私の邪魔をしたのです。アンリエッタ様を攫った賊として王家に高く買い取っていただきます」

 

アンリエッタ様を護衛して、もうすぐだ。もうすぐ念願が叶う。母さまたちと一緒に平穏に暮らせる。母さまと家族だけが私を愛してくれた。母さまと家族だけが私に生きる意味を教えてくれた。だから母さまたちと生きる。他には何もいらない。ずっとそれだけを求めてきた

 

だけど、なぜだか知らないけれど不意にルイズのことが頭に浮かんだ。時間があればいつも私の傍にいる少女

 

ロザリーからの知らせでは貴族にも関わらず、すぐに魅惑の妖精亭で働く少女たちと打ち解けたらしい。まったく貴族らしくないルイズ

 

彼女はどう思うのだろうか。学院を離れ、ルイズの傍にいない私のことをどう思うのだろうか。そこまで考えて、なんとなくだけどこう思ってしまっていた

 

傍にいるんだろうな……、と

 

例え学院だろうと、星の魔女が住み着いた森だろうと、ルイズは私の傍にいるんだろうなと。まるでそれが当たり前のことのように

 

だからだろうか、なんとなくだけどルイズに会いたくなった。城に向かう最短路を外れ、私の足は魅惑の妖精亭へと向かう

 

ええと、疑問を浮かべていた姉さまには、あらぬ疑いを掛けられた知り合いがいるので、この機会にそれを払拭してあげたいと

 

モンモランシ様と一緒にアンリエッタ様を救出したことにしておけば、誤解をとく場もあることでしょう

 

ええ、わかっていますよ。言い訳だってことも。本当は理由なんて無いってことも。私がただルイズに会いたくなっただけなんだって

 

魅惑の妖精亭が見えて、客引きをしているロザリーがいて、店の外から中を覗くとすぐに目が合った。すぐに駆け寄ってきた

 

そして私は久方ぶりに、ルイズの匂いと体温を感じて、自分の中の何かが満たされていくのを感じたのでした

 

 

 

 

 

 

 

そうして三日後……

 

いつものように学院で働いていると姉さまが自室に姿を見せました。その横にはなぜかモンモランシ様の姿もあります。おや?モンモランシ様の羽織っているマントはひょっとしてシュバリエのものではないでしょうか

 

「シエスタ。どうか落ち着いて聞いて」

 

そう言った姉さまは浮かない顔をしています

 

「タルブの森の件だけど、陛下が二度も攫われたことでアルビオンへの対策が優先され一時凍結となったわ。アルビオンとの戦争が終わるまではこのままだと思う」

 

ギシリと知らず拳を握り締める

 

「次いでこちらのモンモランシ様だけど、誤解も解け陛下を救ったとしてシュバリエを授かったの。その際、陛下直々にある頼みごとをされ、枢機卿からは厳命を受けている」

 

「もうやだああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「陛下がされた頼みごとはシエスタとウェールズとの関係を調べ逐一報告すること。枢機卿からの厳命は今回の件が凍結したことで気を害したシエスタへの……ようは『生贄』よ」

 

瞬間、空気が固まりました。ぴりぴりと、部屋の中の緊張が一気に高まります。ええ、きちんと自覚していますよ。あと一歩のところでするりと指の間から抜けていった夢と生贄にされたモンモランシ様。いろいろと思うことがあり、ついぶつけどころのない怒気が漏れてしまいました

 

あ、モンモランシ様。とりあえずこれからよろしくお願いいたします

 

せいぜい死ぬまで私の役にお立ち下さい




モンモンはひどい目にあいながらものし上がっていきます

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