今日もタルブの森で人目を忍んで黒髪のおっちゃんと物々交換。村で収穫された野菜や穀物を分けてもらう代わりにエクレアとチョコレートをどっさりと渡す。こないだ村人が流行り病で具合悪くしたって言ってたから追加で妖精の粉を十個渡しておく
気をつけてねー、なんておっちゃんに手を振りつつ別れた。そして……
「……ん?」
ふと立ち止まって眉をひそめた。思い出深い場所。シエスタを拾ったのと同じ場所に、ぐったりと横たわっている少女がいた。見たところ十歳といくつかな。痩せた身体に、粗末なボロ布を引っ掛けるようにして着ている。服というより布に穴を開けただけの代物だ。ボサボサの金髪も伸ばしているというより、単に切っていないだけに見える
いかにも孤児と見てわかる少女だった。だが、それだけならばいちいち構ったりはしなかった。まだ近くにいるおっちゃんでも呼んで村に保護してもらえばいいだけだ。でも、少女はこの場所に横たわっていた。シエスタが捨てられていたこの場所に……
この少女をおっちゃんに任せるのは、なんだかあの日のシエスタを他人に任せるようで嫌だったのだ。気付けば、顔をしかめて少女を背負っていた。家に帰る道すがら、シエスタにどう説明しようか頭を悩ませる
「素直に拾ったって言うかねー」
まさか、捨て犬よろしく元の場所に戻してきなさいとは言われまい。だけどなんとなくシエスタが不機嫌になるのはわかる。私にべったりなシエスタ。ある日、私が少女を拾ってくる。私が少女の世話をする。私にべったりできなくなるシエスタ。うん、プリンでもシエスタの機嫌が直らないのがはっきりとわかってしまう
可愛いんだけどね。すっごく可愛いんだけどね。おそらくハルケギニア一可愛いんだけどね!あまりの可愛さに時々鼻から愛が駄々漏れになるけどね!!…………まあシエスタが可愛くて笑顔ならそんだけでいいや
「起きた?」
でもって背中でもぞもぞしてる少女に一言
「……森のエルフ……」
一瞬、それが私のことだとは分からなかった。シエスタは母さまと呼ぶし、おっちゃんはギンガさんと呼ぶ。おっちゃんから、私のことがタルブの森に住み着いたエルフとして他国でも噂になっていると教えてもらっていなければ、少女が私を呼んだことに気付けなかっただろう
「ギンガ。それが私の名前よ」
「アニエス……」
「それがあなたの名前?」
背中で少女…アニエスが小さく頷く。それからアニエスは、ぽつりぽつりと細くはかない声で話し出した
問答無用に村を焼き払った者たちに復讐したいと
家族と恩人を焼き殺した火のメイジに復讐したいと
私のことを噂で聞き、復讐できる力を求めて訪ねてきたと
村の唯一の生き残りである自分がみんなの仇を討つと……
なんともまあ、こんな小さな女の子がよくここまで決意しているものだ。復讐を遂げるためには異端であるエルフの力を借りることも躊躇しないほどに
「なんでもします。復習した後なら私の体を食べても構いません。切り刻んで薬の材料にしてもらっても構いません。私の血と肉、魂すら捧げます。だから私に力をくださいっ!」
いやいや、そんなグロいことしないからね私。でもそっかー。アニエスちゃん今なんでもするって言ったよね
「それじゃあ、アニエスちゃんにはまずはうちのお姫様の面倒でも見てもらおうかな。食べるのは復讐が終わってからでいいわ」
知ってるかなアニエスちゃん?子どもの世話をするってとても大変なんだよ。忙しくて、自分のことを考える暇なんてなくて、世話してる子どものことが最優先になっちゃってたりするんだ。いつの間にか自分より大切になっちゃってたりするんだ。いつの間にか愛おしく思えるようになっちゃってたりするんだ
だからね、アニエスちゃん……
「殺さないでください!」
復讐は終わったのになぜ?
「まだシエスタと生きたいのです!」
涙に濡れた声でアニエスちゃんは続ける
「あの子の笑顔をまだ見ていたいのです!」
じゃあしょうがないね
「ずっとシエスタと一緒にいたいのです!」
これからも妹のことは任せたよ
「シエスタが私に生きる意味を教えてくれたのです!」
シエスタのお姉さま♪
アニエスが家族入りした話でした