タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、人助けをする

背中まで伸びた母さまと同じ黒一色の髪を揺らして不満げに相手を見下ろします

 

私の知っている魔法と眼下で胃液を吐いている男の魔法は随分と違ったものでした

 

呪文の詠唱中に軽く殴っただけで卑怯者呼ばわりされ、ならばと今度はとんできた魔法を避けて腹を死なない程度に蹴ります

 

そもそも魔法とは避けられたものだったでしょうか?魔法とは詠唱が必要だったでしょうか?

 

母さまが使用するものと違う魔法を見るのは久しぶりだったので、長い詠唱を我慢して聞いてみれば、ただの風の刃でした。ウインドカッターなんて名前の割りに母さまのウインドには遠く及びません

 

そんなことを思いながら斜め頭上から振り下ろされたショートソードを反射神経の命じるままに回避します。引き戻され横殴りに襲ってきた剣を下から蹴り上げると、相手の剣はあっさりと折れて宙を舞いました

 

散々こちらを卑怯呼ばわりしたくせに私のような小娘相手に魔法使いが三人、雇われの護衛が八人がかりとは貴族が聞いて呆れます

 

「き……貴様!」

 

胃液を吐いていた貴族様の顔は憤慨で真っ赤になっています。怒りは冷静な判断力を失わせる原因になるというのに、この貴族様がそれに気付く時はないのでしょうね

 

性懲りも無くまたもや詠唱を始めたのでその隙に近くにいた剣の折れた護衛の一人に狙いを定めます

 

直線的な動きに渾身の二部ほどの力を拳に乗せて男の軽鎧に叩き込みます。あっさりと鎧を貫通し男の腹を突き破ると、男は盛大に吐血し前のめりに倒れて動かなくなりました

 

それを見て動きの止まった残りの護衛に素早く移動して脚で首をへし折り、拳で顔面を吹き飛ばし次々と絶命させていきます。残りは魔法使いの貴族様三人だけですね

 

「きさまああああああぁぁぁぁああああああああああああああ!」

 

だというのに貴族様の行動は魔法ではなく、喚きながら杖を振り回して殴りかかってくるという恐慌に陥った者がとる行動でした

 

なんなく振り下ろされた杖を避けるついでとばかりに貴族様の首を手刀で切り裂きます。膝から崩れ落ちるただの肉塊からすぐさま目を移します

 

残りはあと二人。なのですが杖を地面に投げ捨てこちらに大きく両手を上げて降参の体勢をとっていました。情報ではさっき殺した貴族様が主犯だったので、依頼主が殺されて降参するといったところでしょうか?

 

まあ素人ならごまかせたでしょうが、こういった裏家業をしている者をごまかすには工夫が足りませんね

 

上げた指の間にある黒光りする針。おそらくは私が油断したところを襲うつもりなのでしょう

 

貴族様と思っていましたが、没落かなんらかの理由で汚れ仕事を引き受ける傭兵家業に堕ちたようですね

 

「降参だ!あんたもそこの悪党貴族を殺すのが依頼なんだろう!有り金は全部置いていくから俺たちは見逃してくれ!」

 

まあそれも仕事の一部ですね。貴族様の上下関係を理由に娘を奴隷同然に弄ばれた方からの依頼の一つが貴族様を殺してくれというものでしたから

 

「あんたも雇われ者なら無駄なことはやりたくないはずだ!なんなら俺たちはあんたの前にはもう二度と姿を現さない!」

 

でもそういうわけにはいかないのですよね。受けた依頼はきちんとこなさなければ今後の仕事に差し支えます。なので…

 

「私が受けた依頼の一つはあなたの言ったようにこの貴族様を殺すこと」

 

「だろう!だから俺たちのことは」

 

「次に貴族様に弄ばれた娘の始末」

 

「なっ…!」

 

娘が貴族様に弄ばれていることは黙認され、影でこそこそと話題になっていますからね。傷物にされた娘など名のある家では百害あって一理無しとされるのが貴族様の世界です

 

「最後の依頼内容は」

 

今回の仕事はやや疲れてしまいました。魔法学院に戻ったらゆっくりと身体を休めることにいたしましょう

 

「今日の出来事を都合のいい脚本に書き換えるため、この屋敷にいる者全ての命です」

 

本当に、一日で三十も人の死を見ると疲れるものなのですよ

 

疲れるだけで罪悪感などは感じないのですけどね……

 

 

 

 




てわけで主人公始動

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