月明かりの元、銃士隊の宿舎として割り当てられた火の塔に向かっていると、警告無くいきなり発砲されました。暗闇に目を凝らすと、火の塔の前にいる二人の歩哨がこちらにマスケット銃を向けています。鉛の玉を避けられたことに微々に顔をしかめたものの、すぐに銃口に火薬と弾を詰めるとまた無言でこちらに発砲してきました
私のために王宮に潜り込んだとはいえ部下の教導はきちんとやっているようです。こんな夜中に連絡もなく現れる者は警告無しで撃たれても文句は言えません。姉さまに連絡していなかったこちらに落ち度があるので歩哨の二人に危害は加えられません
銃弾を最小限の動きで回避しながらゆっくりと前進して二人の歩哨に敵意がないことを伝えるべく両手を上げて頭の後ろへとやりました。それでようやく銃撃は止んだものの、銃口の先はぴたりとこちらに向けられたまま外れることはありません
塔の中からは最初の銃声で気付いたのか、幾人か増援の気配が近付いてきます。本当に姉さまは良い教えをしているようですね。昼間、姉さま率いる銃士隊に軍事教練を受けていた女子学生たちとは大違いです
「シエスタが自室で待っているとアニエス様にお伝えください」
それだけ告げて素早く退散してきました。避けれるとはいえ銃口を向けられるのはあまり気分のいいものではありません。私を狙撃可能な窓からは余すことなく銃口が向けられていましたからね
魔法を使えない者のみで編成された姉さま率いる銃士隊。ワルドのグリフォン隊がなくなった現在、トリステインの編隊の中ではかなりの実力をもっているのではないでしょうか
「シエスタ」
…………っ!姉さま、お願いですから気配を消すのはやめてください。隠密行動に関しては私より姉さまの方が上なのですから
「……どうぞ」
自室のドアを開けると、やや疲れた表情を見せる姉さまの姿
「ふう、部下たちにシエスタのことを説明するのに苦労したわ」
「すみませんでした……」
でも連絡の取り方は知らなかったのです。貴族様相手だと若いメイド姿で簡単に油断を誘えるのですが、姉さまの銃士隊は構わず警告無しで撃ってきましたからね。初発はこちらに傷を負わせ身動きできなくさせるための銃弾。それが回避されたと認知するや、次弾からはこちらを殺す銃弾にすぐに切り替える判断の早さ
姉さまがその気になればトリステインの軍隊改革が起こるのではないでしょうか。まあ考え事はこのくらいにして本題です。というより日中のことを追及されないための目くらましです
私がこの学院で働くにあたり、学生はともかくいろいろと調べたのです。働いている平民の中に母さまを利用しようとする者がいないか。学院に在籍している教師の中に母さまを利用しようとする者がいないか。独自にしっかりと調べたのです。そうして怪しい経歴をもつ者を数人見つけたものの、母さまに関わろうとしなかったので放っておいたのです
そんな中の一人を姉さまが学院に現れたことと、いかに昼間の件をうやむやにするか考えていたことで思い出しました
「元魔法研究所実験小隊隊長、『炎蛇』と呼ばれた男」
姉さまの気を引くには絶好の相手です。だって昔、姉さまの生きる意味はただ復讐のためだけだったのですから
「今はコルベールという名前でこの学院で教鞭をとっていますよ」
ほら、周囲の空気がしんと凍りついたように深く静まりました
伝えるというより、ちくりです