タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、護衛させる

トリステイン・ゲルマニア連合艦隊がアルビオン艦隊に勝利したとの急便が学院に届いたそうです。まさか勝てるとは思っていなかったので素直に驚いてしまいました。ですが学院長に呼び出されて、勝てた理由を聞いて納得してしまいました

 

ダータルネス方面に突然現れた国籍不明の巨大戦艦。その船には魔物を操る女エルフが乗っていたというのです

 

なんというか、ほんとに何をやっているのですか母さま?

 

アルビオン軍が母さまに気を取られている間に、トリステイン・ゲルマニア連合軍が上陸して布陣した港町ロサイスは、アルビオンの首都ロンディニウムから南方三百リーグに位置しています。連合軍がアルビオンを攻撃するにせよ、アルビオンが連合軍に反撃するにせよ両者とも都合の悪い距離ではないでしょう

 

しかし、アルビオン軍の反撃は行われませんでした。母さまと次元船ガルガンチュワの登場に吸い寄せられるようにダータルネスから引き返したアルビオン軍主力は、現在首都ロンディニウムに立てこもっているのです

 

どうやらアルビオンは篭城して長期戦の心積もりのようですね。加えて、アルビオンの特殊部隊がトリステイン本国から兵糧や軍需物資を前線に運ぶ補給部隊を襲い、ジワジワと連合軍に損害を与えているのです

 

久しぶりのお仕事は、そのアルビオンの特殊部隊から補給部隊を護衛する『モンモランシ様のお手伝い』です。最近アルビオン周辺に現れるという母さまの真意を確かめたかったので、アルビオンに近付けるこの仕事はちょうど都合がいいのでした

 

ゼロセン・プチオークカスタムさえあればこんな面倒はないのですが、いつも整備してくれるプチオークさんが母さまに付いていっているのでどうにもなりません。私だけで整備するなんてとても無理なのですよ。さて

 

「だからなんでわたしがいつの間にか護衛隊の隊長なんてものになってるのよ!」

 

「それはモンモランシ様の貴族としての格が隊の中で一番高かったからではないでしょうか」

 

「だからなんでわたしがいつの間にか護衛任務を受けたことになっているのよ!」

 

「それはモンモランシ様の貴族としての誇りが自ずとそうさせたのではないでしょうか」

 

「もうやだああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「と言いつつもこれまでの襲撃者はきちんと撃退しているではないですか」

 

そうなのですよね。これまでの襲撃者は私が出るまでもなく、全てモンモランシ様が一人で撃退しているのです。他の護衛たちが杖を掲げ、剣を抜く頃にはモンモランシ様の氷魔法が襲撃者を氷付けにしていました

 

なので、補給部隊の先頭で私とモンモランシ様が喚いていても、事がおこればモンモランシ様が守ってくれると経験から知っているので、補給部隊の面々は今ではやれやれと笑みすら浮かべています。それに、護衛初日にモンモランシ様は身分問わずに補給部隊全員に自作した水の秘薬を送った上、モンモランシ様の従者となっている私は補給部隊と他の護衛たちに毎日そこそこの手料理を振舞っているのでモンモランシ家とモンモランシ様の評価は彼らの中では高いものとなっているはずです

 

いずれ使い潰すつもりなのでモンモランシ様の評判を上げていて損はないでしょう。まだ役に立つ駒とは言えないまでも、傍において目障りとまではなくなってきましたしね。まあ、私に怯えながらもしっかりと言いたいことを言うのは煩いといえば煩いのですが……

 

と、港町ロサイスの入場門が見えてきましたね。門の脇には軍服に身を包んだ数人の門番、門の奥には補給を待ちかねた前線部隊らしき軍人たちの姿が見て取れます。ここまでくればもうアルビオンからの襲撃はないでしょう

 

ふと隣を見るとモンモランシ様は安堵した柔らかい笑みを浮かべていたのですが、私の視線に気付くと慌てて赤くなった顔をそらしてしまいました

 

やや強引に任務に就かせたとはいえ、愛するトリステインの役に立てて嬉しいのでしょう。操られていたとはいえ躊躇なくウェールズを攻撃したことといい、心からトリステインを想っていることとい、モンモランシ様の誇りの在り方はどこかワルドに通じるものがあるかもしれません

 

そんなことを考えながらロサイスの門を補給部隊と共にくぐります。ここでようやく肩の力を抜きました。とりあえず任務達成です。さて、これからは母さまのことですね。補給物資を運んでいく兵たちを横目にモンモランシ様とその場を離れようとして……

 

「そこの美しいお二方。補給が届いた祝いに、間もなく小さいながら宴会が開かれるというのに参加しないのかい」

 

長身、金髪の少年が声を掛けてきたのです


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