手応えななんら珍しいものではありませんでした。拳が皮膚を突き破り、肉を引き千切り、骨を砕いて生命を奪う感触。いつもの仕事と変わらないことです。ただし、いつもの仕事と違って、これがただ働きということに小さな苛立ちを感じていました
サウスゴータに単独潜入してからもう四十匹のオーク鬼、或いはトロル鬼を殺しています。特筆すべき点は別にありません。いつものように亜人を殺す。それ以上でも以下でもない
遠くでこちらのペースにやや遅れて断末魔が聞こえてきます。おそらくはモンモランシ様が上手く中隊の援護をしてサウスゴータの亜人の数を徐々に削っているのでしょう
突然、陽がかげりました。背後から私の身の丈の五倍はありオーク鬼が振り下ろした棍棒を振り返ることなく身をひねってかわし、回転した勢いのまま裏拳でオーク鬼の腹部を吹き飛ばしながらモンモランシ様のことを思い出します
いつも真摯に接してくれる姉さま。弟子にしたことをなかったことにしたいカトレア。今は関わりたくないあの娘。そして、納得いかないことには決して従わないモンモランシ様。母さまから聞かされていた貴族に近しく感じるものの肝心なところではあつかいにくく……
「あげくには己の命をかけて師匠の私を働かせるですか……こんなことなら学院に残しておいた方が良かったかもしれません」
本当に考えれば考えるほど効率ではない行動ばかり最近やっています。思い返せば私はずっと一人でやってきたのです。一人きりでいろんなことをやってきたのです
なのになぜ私はルイズといると穏やかな気持ちになるようになってしまったのでしょう。なぜ私はモンモランシ様をわざわざ弟子にして視野を広げさせようとしているのでしょう
わからないことばかりです。母さまに相談すればこの答えを教えてくれるのでしょうか。母さまと一緒にいればこんな煩わしい悩みなど感じなくなるのでしょうか
私は早く母さまに会いたいです……
ゲルマニア・トリステイン連合軍がシティオブサウスゴータを制圧したのは、それからわずか四日後のことでした
「ここにシティオブサウスゴータの解放を宣言する!」
連合軍総司令官がシティオブサウスゴータの広場に設けられた段上でそう宣言すると、現アルビオン政府ぬ不満を抱いていた住民から歓声が上がりました。そんな中、唇をやや尖らせモンモランシ様を睨みます
「えー、諸君に偉大なる戦乙女たちを紹介する。彼女たちはこの解放戦において輝かしい武勲を立てたものたちである。彼女らの努力によってのみ、この勝利がもたらされたわけではないが、帰するところは大きい。よって大将権限において彼女らに杖付白毛精霊勲章を授与する」
サウスゴータの七割の兵力を削った後になってノコノコ出てきた大将がよくも言えたものです。拍手が沸き、呼び出し役の仕官が受勲者の名前を読み上げました
「ド・ヴィヌイーユ独立銃歩兵大隊、第二中隊副中隊長、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ!」
「はい!」
隊長のグラモン様を差し置いて表彰されるほどモンモランシ様の活躍は際立っていたのでしょう
「彼女とその中隊は勇敢にも街への一番槍を果たした。その際にオーク鬼の一部隊『以上』を片付けるという戦果を上げている。その後も順調に制圧任務を務め、解放した私設は数十余にのぼる。彼女とその中隊に拍手!」
割れんばかりの拍手が鳴りました。モンモランシ様は引きつった笑みを浮かべながら、勲章を首から下げてもらっています。グラモン様が出てきて、モンモランシ様に抱きつきました
あちこちで、グラモン元帥の末っ子だそうだ。表彰されたのは婚約者で……、これでグラモン家は安泰だ。等々の言葉が飛びました
はあ……、さてと、これだけモンモランシ様のために骨を折ったのです。これからは存分に役立ってもらいますよ
そんなことを考えて段上のモンモランシ様を見ると、ばっちりと目が合いました。遠目にもわかるほどモンモランシ様は顔を歪め、ぎこちない笑顔でこちらに手を振ったのでした
原作主人公ペアが空気という……