タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、手伝う

まだ戦争中だというのに、街は妙に浮ついた空気に包まれていました。まあ戦争中だとはいえ今は休戦期間中です。新年を祝う始祖の降臨祭が始まるためとのことですが、この休戦期間中にトリステイン軍の指揮が緩みきらないことを願います

 

はぁ……、それにしても急に寒くなったものです。トリステインよりも随分と冬が訪れるのが早いのではないでしょうか。もう一枚か二枚は厚着をする必要があります。だからなのでしょう、モンモランシーが私に頭を下げたのは

 

胸を張って目の前を通り過ぎて行く兵隊をよそに、私は大量の食料と毛布を積んだ荷馬車を緩い速さで走らせます。ぎゅうぎゅうに詰めてもこれで三日分といったところでしょうか。それに薬や包帯はどこも品切れで、どうしても手に入れたいのなら軍が横流しするそれを相場の倍の値段で買うしかありません

 

そんな風に考えていると、小走りで寄ってきた女性に声を掛けられました

 

「シエスタ様!」

 

一瞬、何でこんなところにいるのだろうと思ってしまいました。だって彼女がこの街にいるのは全く想像もしていなかったのです。前に見た両側で三つ編みにされたセミロングの髪は、今は一本の紐で後ろに束ねられている。変わってないのは童顔と金髪。そして顔と不釣合いな大きな胸だけです

 

「ロザリー」

 

馬車を停止させると彼女はすぐに隣の御者台へと飛び乗ってきました。それから荷馬車を再び走らせます。それで話を聞いたのですが

 

「慰問隊ですか?」

 

聞けば王軍に兵糧を送るついでに慰問隊が結成されたとのこと。そこに白羽の矢がたったのが魅惑の妖精亭。それだけならばそんなこともあるという話だったんですけどね……、なぜか慰問隊にはルイズ、ヒラガ様、あの娘も付いてきているというのです

 

ルイズとヒラガ様は慰問隊の護衛として、あの娘は学院が休みに入ったので魅惑の妖精亭で働いていたところをですか

 

それはそうとロザリーは私とこんな話をしていていいのかというと、今日は休みだそうで街を歩いていたところ私に気付いたとのことです。それにロザリーの顔は貴族様には広く知られているので、貴族様が闊歩している場所には長くいられないとも

 

「それでシエスタ様は何をしていらっしゃるのですか?」

 

ちらりとロザリーは馬車の荷物を一瞥する

 

「物資の運送ですか?」

 

「似たようなものです」

 

そう言って馬車を走らせていく。やがて人気が段々となくなっていくにつれロザリーの顔には疑問が浮かんできた。街の中心から遠ざかり浮かれた雰囲気もざわめきもない街の端へと向かう。にぎわっている場所とは違い、建物は破壊され、汚泥とかれきに埋もれた荒涼な風景。それが延々と続いている

 

馬車を止めると、砂埃と、焦げたような匂いにロザリーの顔がこわばる。ここが私の目的地です。廃墟になる前の教会

 

おそらくは爆風にやられて横倒しになったブリミル像。教会の内部もひどい有様です。窓は破れ、壁は崩れ落ち、床はすべて負傷した兵によって埋め尽くされています。聞こえるのは苦悶と怨嗟の声。ここにいるのは重傷を負い、戦力にならないと捨てられた者ばかり。おそらく半数以上は死を避けられないでしょう

 

だけど、そんな目をそむけたくなるような風景の中、兵士たちの傷の看病をする女性がいる。懸命に治療を施しながら、患者が呻くと、優しく微笑んでなにか言葉をかけていく

 

背後で絶句しているロザリーはこんなものを見るのは初めてなのでしょう

 

「負傷したからといって治療してもらえるのは貴族様くらいなものです。戦死したからといって国が弔ってくれるのは貴族様くらいのものです。最前線で重傷を負った平民は見殺しにされ、ただ死をまつだけだったのですが」

 

私に頭を下げたモンモランシーを思い出す。地面に頭をこすりつけ、目の前にある命を救いたいと言った姿を想う

 

「そんな兵士たちに心を痛め、自分にできることはなにかないかと思い悩んだ結果がこれです。まったく、一エキューにもならないことになぜここまで力を注げるか私には理解できませんが、モンモランシーからの仕事の依頼ですから手伝っているのです」

 

一生私に仕えると言った。一生私の命令は聞くと言った。だから力を貸して欲しいと。自分のすべてを捧げるからお願いしますと……

 

なんでしょうね、まったくもって理解していないようです。モンモランシーを弟子にした時点で一生私に仕えるのも命令を聞くのも決まっているのです。こんな場所にいると病気になってしまうのでモンモランシーが死なないよう助けますよ。すべてを捧げると言われましてもすでに貰っています。いちいちそんなことを再確認させないでください

 

まあ不満を言えばこの場所が廃墟同然とはいえロマリアの教会なのが気に入りません。ここには祈りもブリミル像もいりません。祈りよりも、ブリミルなんかよりも、兵士たちにとってモンモランシーの存在こそが救いになる

 

この教会には生身の聖女がいる。一心に尽くしてくれるモンモランシーがいる

 

そのモンモランシーのために仕事をする。ただ働きなのに、ただ森を手に入れるために仕事をしているいつもとは違い、なぜかほんの少しだけ気分がよかった




ロザリー再登場したけどメインはモンモン

この話から何かを変えています
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