タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、死地の赴く

―――――――武技言語開始

 

「I am Never Defeat」

 

我は不敗なり

 

「My Assault is White Howling」

 

我が一撃は白き咆哮

 

「My White Howling is Never Defeat!」

 

我が白き咆哮は不敗なり!

 

 

 

 

 

大地を蹴り一気に加速した

 

談笑していた歩兵の頭を横殴りにすると脳液があたりに飛び散る。隣で談笑していた男がその飛沫を浴びて唖然としている間に蹴りで首を折り一撃で絶命させる。そこでようやく周りの視線が集中した。騎兵が槍を握る前に拳で体に風穴を開け、靴に仕込んだ刃物で声を上げようとした男の喉を切り裂く。動かれる前にできるだけ数を減らす。敵が我を取り戻し、槍を構えた頃にはすでに捜索騎兵隊の数は十を切っていた

 

銃に弾を装填し、一纏まりに隊列を組んだ銃兵隊は、その引き金を引かれる前に投擲短剣で正確に眉間を貫く

 

次々に飛んできた魔法を走りを止めることなくかわし続ける。散開を命じた隊長格を真っ先に狙ったあと、風の魔法を使うメイジを率先して倒していった

 

駆ける。ひと時も足を止めずに駆け続ける。止まっている余裕などない。手紙に書かれていたアルビオン軍は最低でも六万だ。足を止め狙われたらおそらく死ぬ……

 

敵の間を滑りながら、一撃で確実に命を奪っていく。しかし、かわしきれなかった剣の群れが皮膚を破り、槍の群れが身を削っていく。直撃はしていないものの、敵の攻撃が徐々に身体を蝕んでいく

 

腕が久方ぶりの激痛を訴え、足が休ませろと悲鳴をあげる。でも、そんな願いは聞いてやらない。逆にもっと速く動けとわが身に命令する

 

自分がどれくらい駆けているのか分からない。歯軋りの一つもしたい気分だが、余計なことをする余力はなかった。本当になかった。全身のありとあらゆる神経を集中しないと、泣いてしまいそうな予感さえあった

 

駆ける。敵しかいない戦場を駆け回る

 

『びじっ……』

 

異音が左腕から聞こえた。抉られたというより、腕の中で爆薬が爆発したかのようだ。青く変色し始めた傷口周辺をナイフで削ぎ落とし、肉片を撒き散らす。敵が同士討ちすら気にかけず投射武器を使用しだしたのは夜が明けてからだ。加えて今は毒が塗られるようになった。すぐに傷口を除いたものの即効性のものだったらしく、左腕を上げると鋭い痛みが走った

 

とかった。まだ動く。痛いけれどまだ動いてくれる。その腕でマンティコアの硬い毛に覆われた身体を突き破り、跨っていた騎士を鎧ごと殴り砕いた

 

ぎらりと陽光を跳ね返しながら鋼の槍が踊る。身を低くして前へと駆けると、頭頂のすぐ上を鋼の一撃が薙いだ。その動きから身体を浮かせて拳を突き出す。鎧を突き破り肉を引き千切っていく感触……は、すでに左腕からは感じられなくなっていた

 

にぶく重い足音が近付いてくる。もう回避できないと思っているのか、嬲るかのようにゆっくりとした足取りでオーク鬼の集団は近付いてきた。荒い息をつきながら巨大な斧を振りかぶり、渾身の力で振り下ろす。地面が弾ける鋭い音とともに右手でオーク鬼の身体をぶち抜いた。……が、『まずい!』、瞬間的に本能が警告を発した。すぐに離れようとして、オーク鬼が自分を囲むように進路を塞いでいる。その中心にいる私を目掛けてオーク鬼の倍はある岩が投石機から飛んできた

 

咄嗟にオーク鬼の死体を盾にしたものの、身体の内側から痛みがあふれ出してくる。岩の直撃は防いだが、衝撃までは受け流せていない。また肋骨の何本かは折れているでしょう。すぐさまオーク鬼の体から抜け出すと、それを待っていたかのように矢じりの雨が降り注いでくる

 

駆ける。駆け続ける。いつものように殺し続ける。おそらく死体の山は一万に達しているだろうが、それをいちいち数えるような趣味はない。そんなものが介入する余地などない。感情とは無縁の行為。敵はただの数だと割り切る

 

日が沈み再び夜を迎える。痛みと疲労で止まらなくなった涙を流しながら、知らず咆哮を上げて敵に踊りかかる

 

そして、再び夜が明ける頃、アルビオン軍はようやくロンディニウムへと撤退を始めたのでした…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界が重く暗い。痛みを通り越して身体が崩れ落ちていくような感覚。どの程度のダメージを受けたのか自分でもよくわからない。決して軽くはないでしょう。でも、よくやったと我ながら思います

 

これでようやく帰れる。母さまのところへ。愛する母さまがいる場所へ。そうして母さまと生きる。手を繋いで母さまといつまでも一緒に生きよう

 

血を流し、脚を引きずりつつも一歩ずつ進む。泣きながら笑う。幸せなこれからの未来を想像して。幸せなだけのこれからの生活を夢見て。一歩ずつ帰る。母さまがいる故郷と呼ぶべきあの森へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど

 

 

 

身体感覚の

 

 

 

ほぼ全てを失っていた

 

 

 

この時の私は

 

 

 

自分が地に倒れ

 

 

 

虚しく手足を痙攣させているだけにすぎないことさえ

 

 

 

もはや

 

 

 

自覚できなくなっていたのです……




武技言語

簡単に説明すると暗示による肉体強化
元ネタは『影技(シャドウスキル)』

このあとはもちろんあの人がシエスタさんを拾います
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