タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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ギンガ、我を忘れる

「ふい~、やっと終わったぁ」

 

床掃除を終えて、額にうかんだ汗を拭う。この無駄に広い部屋を一人で掃除するのは、かなりの重労働だった。いくらこの身のポテンシャルが高かろうと、モップだけで隅々まで綺麗にしていれば相応に疲れもする。だいたい一部屋が私の家より広いってどういうことだよもう!

 

「うん、綺麗!これで文句もないでしょ」

 

と、ちょっと得意気になりながらも、心の片隅で何をやっているんだかと苦笑いを浮かべる。アルビオン首都ロンディニウムにある城でモップ片手に部屋掃除。今度シエスタに会ったら笑い話として聞かせてやろう

 

「さて、と……次は、お風呂場でも掃除するか」

 

クロさん曰く、指輪は人に預けていて、いま手元にはないそうだ。いつその人が帰ってくるかも分からない。ならばと二日おきくらいに次元船に乗ってこの城を訪れていたら立派な部屋を用意されてオブラートに『おとなしくしてやがれこんちくしょう』みたいなことを言われたんだよねー

 

でもってクロさんが指輪を預けている人なんだけど、メイドさんたちが囁いている話ではどうやらクロさんの愛人ぽい。ひょっとして持ち逃げされたとかはないよなー。そうでないといいなぁ……、そこそこ有名だったクロさん見つけるのにも手間取ったのに、貴族でもない一般女性を見つけるなんてめんどくさすぎる

 

「にしても戦争にもメイドさん連れていくんだもんなあ」

 

食や身の回りの世話というより、男を世話する女として連れて行ったんだろうけどさ。えっとなんだっけ?慰安部隊だったかな?

 

「でも若い子ほとんど連れて行くってどうなのよ。残ったメイドさんそこそこなお歳なのに仕事のしすぎで倒れそうじゃん」

 

うん、突然やってきた私の世話をいつもしてくれているロングビルさんも、今日は頭がゆらゆらしてたもんね。いつも私の娘自慢を嫌な顔せずに笑顔で聞いてくれるロングビルさんが困ってるとあっては、シエスタのために鍛えた私の主婦スキルで助けざるをあなかった

 

てなわけで、まずは遠慮するロングビルさんをベッドで寝かしつけ、あとは適当にメイドっぽい仕事をしている。適当だけど、多少の助けにはなってるでしょ

 

まあでも寝かしつける時に一騒動あったんだよねえ……、なんというかあれだよ。私ロングビルさんのこと五十過ぎのおばちゃんだと思ってたんだよね。だって顔には皺が幾つも刻まれてたし身体の肌はあちこちがひび割れて黒ずんでるんだもん。髪も白髪が目立ってたしどこからどう見てもおばちゃんだったんだよ

 

それが私がヒールかけてエスポワールかけたらば理知的な凛々しい顔が現れたんだもん。顔から皺なんてなくなり、肌のひび割れも消えたよ。もちろん髪からは白髪が消え淡く綺麗な緑が見えるだけ

 

一瞬、どうしてこうなった?とか思ったよ。んでロングビルさんに話を聞くと貴族に体を弄ばれて、見た目が悪くなってからは危ない薬の実験体にされてたって……、なんかもう重すぎてねー

 

悪い夢だったんだよって優しい言葉をかけながらシエスタにやるみたいに頭を撫でながら頬に唇を落とし、手を握って子守唄を歌ってやると、はらはらと涙を流しながらロングビルさんは眠りについた。眠りながらも握った手には小さく力が込められていて、なんだかロングビルが少しだけ愛しくなってしまったのだ

 

仕事だろうけどロングビルさんいつも私に付き合ってくれてるからね。シエスタの子どもの頃の話を笑顔で聞いてくれた。ロングビルさんも大事な妹がいるって話してくれた。それが、アルビオンでの唯一の楽しい記憶になった

 

うーん、クロさんに頼んでロングビルさん引き抜いちゃおかな。授業を受けに来る村の子どもも増えてきたし、お手伝いさんが欲しかったところなんだよね。ロングビルさんの話を聞く限り貴族をあまり良くは思っていないみたいだし、私のとこにきてくれるかな?あっ、でも妹がいるとか言ってたっけ。う~ん、妹さんの面倒も見るって言ったら首を縦に振ってくれるかなぁ

 

よし、クロさんの愛人から指輪回収したらロングビルさんに話を持ちかけてみよう。もし上手くいったら帰ってきたシエスタをビックリさせてやろ!そういえば……

 

「シエスタったらなかなか家に帰ってこなくなったけど元気にやってるかな。危ないことしてないといいんだけど」

 

思い込みが割りと激しい子だから心配だよ。あまり激しすぎて昔聞かせただけの技を自力で再現させた時は、この子どんだけー?!って思っちゃったね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この五日後、ロングビルさんからアルビオン軍が敗北したことを知らされた。たった一人の少女に敗北したことを聞かされた。兵から聞いた話では黒髪を背中半ばまで伸ばした十六、七の少女だったそうだ。身体中から血を流し、幾多の傷を負いながらも殺戮を続けたそれは、少女の姿をした悪魔だったと……

 

兵の記憶を頼りに描かれた少女の姿絵をクロさんに見せてもらった

 

ロングビルさんのことも、指輪のことも、なにもかもどうでもよくなった

 

ただただシエスタを想う。傷だらけになって戦い続けたシエスタを想う

 

それでもう、我慢の限界をあっけなくむかえた

 

その日のことを私はよく覚えていない

 

ただ城から生き延びた数名のメイドがその日のことを震えながらこう言ったそうだ

 

殺戮の饗宴…………と




ギンガのステータス

ギンガ  銀河魔法使い(天才)
炎0 風50 水-50
Lv9999
HP 968981
SP 321702
ATK 218981
DEF 332936
INT 1148027
RES 287988
HIT 244077
SPD 211458
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