タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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…………さん、目覚める

目は覚めたが急に起き上がるようなことはせず、視線だけで周囲の状況を確認する

 

小さくまとまった部屋だった。ベッドの脇には窓が一つあり、その反対側にドアがある。部屋の中央には丸い小さなテーブルが置かれ、木の椅子が二脚添えられている。私が寝ているベッドは温かみのある木製のもので、清潔感のあるシーツに、柔らかい毛布がかけられていました

 

次に自身の状態を確認する。包帯が幾重にも身体を覆っている。試しに腕に力を込めてみると小さくも鈍い痛みが走り、万全とは程遠い状態でした

 

「ようやくお目覚めね」

 

そして、ベッドの横で私を見つめている金髪の少女。美しい……と素直に思う。ただし、少女が身に纏う雰囲気は驚くほど温かみに欠けています

 

「三日も眠ってたから……ちょっと不安になったの」

 

『心配』ではなく『不安』。おそらくは私の怪我の手当てはこの少女がしてくれたのでしょう。使っていたベッドを譲り、ずっと看病してくれたのでしょう。でも、善意からではありません。そこに私を心配する気持ちは微塵もありません。あるのは損をしないだろうかという不安です

 

「一応聞いておきます。私を助けてくれたのはあなたですか?」

 

少女はきょとんと動きを止めたあと、口元に手を添えてクスクスと笑った

 

「ええ、そうよ。わたしがあなたを助けたの。死んだ母から貰った大切な形見の指輪の力を使って。おかげで今は何の力も無いただの石になっちゃったわ」

 

恩に着せる気満々の言い方ですね。まあ命の恩人のようですし、一度くらいなら少女……、世の少女に失礼ですね。彼女のために尽力しましょう

 

「森の入り口にあなたが倒れているのを見たときは本当に嬉しくて、久しぶりに心から笑えたのよ!」

 

おそらくその時の私は重傷を負って死に掛けだったはずですよね?まあそれはこの際おいておくことにします

 

「私のことを知っているのですか?」

 

「姉さんからよく聞いてるわ。絶対に関わるなって」

 

「なのに助けたのですか?」

 

「そうよ。いくらあなたでも命の恩人に危害は加えないでしょ?」

 

彼女はベッドに腰掛けると、片手を私の顔の横に着いて見下ろしてきました

 

「星の魔女様にお願いしたいことはあるの」

 

…………?

 

「あなたから言ってもらえないかしら」

 

窓から漏れる陽光を反射して彼女の金髪がきらきらと輝く。その長い髪が私の頬を撫でていくほど彼女は顔を近づけてくる

 

「アルビオンを消してもらいたいの。人も大陸もみんなみんな吹き飛ばしてもらいたいの!」

 

よりにもよって狂人に助けられてしまいましたか。いっそここで彼女の命を奪ってやる方が彼女のためにもいいのではないでしょうか

 

「魔女様なら簡単でしょ?」

 

暗い感情が宿る翠眼でじっとこちらを見下ろしながら彼女は続ける

 

「命の恩人の頼みよ。あなたから魔女様に頼んで頂戴」

 

…………はぁ

 

「何点か聞きたいことがあるのですが」

 

「どうぞ」

 

「まず、あなたの名前を」

 

「そういえば名乗ってなかったわね。ティファニアよ。今はただのティファニア」

 

今は……ですか。ならば今後、彼女の名前にどんな言葉がくっつくのでしょうね

 

「それではティファニアさん、次の質問です」

 

どちらを先に聞こうかと考えて……

 

「星の魔女……でしたか?アルビオンというのは街の名前だと思うのですが、個人でそのアルビオンを落とすのは到底無理な話です。となると、星の魔女というのは軍隊か傭兵団のようなものでしょうか?」

 

私の言葉にティファニアさんは、はっ!と目を見開き、僅かに後ずさりました

 

「最後に」

 

ティファニアさんの顔がみるみるうちに悲嘆に染まっていく

 

「その星の魔女の者たちと親しかったと思われる……

 

両手をぎゅっと握り、ティファニアさんは唇を苛立たしげにきつく歪めました

 

「私は一体何者ですか?」

 

自分が誰かも分からないのに割と冷静な私は本当に何なのでしょうね……




てわけで記憶喪失ネタ

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