タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、相槌を打つ

目覚めてから十日が経過しました。テファがしてくれた治療はたいへん効き目があったらしく、今では身体の傷はほぼ完治しています。しかし、どうしても治らないものもありました……

 

「星の魔女が私の育ての親と言われましても……」

 

テファの家の裏手にある丸太に腰掛けて深々と息を吐きました。目の前には大量に割られた薪があります。大の大人がこの量の薪を割ろうとしたら、おそらく私の倍以上の時間がかかるのではないでしょうか?目覚めてから自分の身体能力の高さに驚くばかりです

 

「テファが言っていた星の魔女の娘ならこれも当たり前なのかもしれません」

 

浮遊大陸アルビオン王国をたった一人で降伏させた星の魔女。それも政治の駆け引きや戦略などない純粋な力だけで……全く持って規格外な存在です。そして……

 

「それが私の母親ですか…」

 

テファにそう教えてもらいましたが実感がありません。母親と言われても『へー、そうなのですか』と他人事のようにしか思えないのです。そこまで考えて、頭を振って思考を無理やり中断させました

 

テファは私のことを魔女の『愛娘』と言っていた。たとえ実感がなかろうと、その娘が母親のことを他人と思っていては、なんだか星の魔女に悪い気がしたのです

 

「シエスタ!」

 

そして星の魔女の愛娘こと私の名前はシエスタというそうです。後ろにある家の中からテファが私を呼ぶ声が聞こえてきます。しばらくすると家の窓が開き、そこからテファが顔を覗かせてきました

 

「あら、巻き割りなんて人形たちにやらせておけばいいのに」

 

「ちょっとしたリハビリですよ」

 

テファが言う人形とは四日前にこの場所に現れた盗賊たちの成れの果てです。どうやったかは分かりませんが、テファは盗賊たちの記憶を消去すると新たな偽りの記憶を埋め込みました。テファの言うことなら何でも聞くように。テファのことを命がけで守るように。テファはそんな人形をアルビオンのあちこちに放っているそうです。その人形を使って食料や日用品、情報はこの家に運ばれてきます。ほんとに大した命の恩人です……

 

「ねえねえ、それよりも聞いて!さっき人形がおもしろい話をもってきたの!」

 

私はこの時、初めてテファのあどけない笑顔を見ました

 

「魔女様がね、アルビオンの貴族をまたたくさん殺してくださったの!」

 

あどけない笑顔でとんでもないことを言いました

 

「魔女様がまたアルビオン貴族をやっつけてくださったの!」

 

熱に浮かされたように……今のテファはまるで恋する乙女のように可愛らしく輝いて見えました

 

「あのね!まだ先の話だけど魔女様がわたしの夢を叶えてくれそうなの!」

 

「それは良かったですね」

 

「うん!」

 

キラキラと輝く瞳は、本当にあどけない少女のようです。記憶なんて奪わなくても、今の上気したテファの笑顔を見せれば大抵の男性は言うことを聞いてくれるでしょう

 

木漏れ日を浴びながら、テファはただただアルビオンが早くなくなればいいのにと言って嬉しそうに満面の笑みを見せています。時折はにかみながら、うっとりとした声で『魔女様』と囁く。そんなテファに適当に相槌を打ちながら、ぼんやりと丸太に座って空を見上げました

 

そこには何の変哲もない空が静かに広がっているだけ。どこまでも果てのない青があるだけ。そしてその中をゆっくりと雲が流れていく。一切のしがらみから解き放たれた領域。ただその遠い領域を見上げて、『あと二日したらここを出て行こう……』発作的にそう決めてしまいました。言うとテファに止められそうなので黙って行くことにします

 

行き先はそうですね…………、あっ!ロンディニウム城跡にいる星の魔女にでも会いにいきましょうか。もしそれで記憶が戻るなら良し。記憶が戻らなければフラフラと当てのない旅でもすることにいたします

 

「やっぱり魔女様はわたしの運命の人なんだわ!」

 

「それは良かったですね」

 

「うん!」

 

短い間でしたけどテファのことはわりと…………

 

わりとどうでもいいですね




ここのテファはだいたいこんな感じ

その分、次話からでてくるお人はヒロイン級w

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