タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、御者をする

「あとどのくらいでロンディニウムに到着しますか?」

 

「そうね……ゆっくり行ったとしても、あと五日もすれば到着するわ」

 

馬車の荷台から尋ねると御者台で手綱を握っていたミューズさんからすぐに返答がありました。がらがらと街道を転がる車輪の音が、暖かな日差しの中に響いています

 

街道には惜しげもなく陽光が降り注ぎ、のんびりと穏やかな時間を過ごせています。自然とおおらかな気持ちにさせてくれる風が頬を撫でていく。テファとの生活では感じられなかったのどかな時間。一時の安らぎです

 

テファの家を出ることを決めた二日後。予定通り家を出、森を抜けて街道に出たまでは良かったのですが、ロンディニウムがどこにあるのかテファに聞くのをすっかり忘れていました。自分のうっかりさに呆れまじりの息をこぼし、とぼとぼと歩き始めた私の前に偶然馬車で通りかかり拾ってくれたのがミューズさんでした

 

丈の長い商人風の服に身を包んではいますが、見るものが思わず背筋を伸ばしてしまうような気品と大人の魅力を身に宿らせている女性です。腰近くまで伸びたつややかな黒髪がミューズさんをさらに魅力的に見せています。歳は二十代半ばでしょうか?宝玉のように赤い瞳を優しく緩めて……

 

『女の子が一人きりでこんなところにいたら危ないわよ。ロンディニウムまで行くけど乗っていく?』

 

首をこくんと縦に振りました

 

そんなわけで都合よくロンディニウムに行けることになった上に、このミューズさんテファとは段違いに付き合いやすい人でした。名前や好きな食べ物、お腹は空いていないかと簡単な質問はするのに、私の素性やロンディニウムに行く理由などは全く聞いてこないのです。私の聞かれたくないことを全く聞いてこないのです

 

わけありとは気付いているでしょうに、人が良すぎますよ。でも、単に人がいい女性というだけではないのですよね。のんびりと馬車の手綱を握っているのに、その姿にはどこか隙がなく、よく観察すればミューズさんの視線はあとこちに飛び周囲の索敵を片時も怠っていません

 

そしてこの馬車。荷台を覆うのはただの布ではなく、おそらくは魔獣の皮です。加えて皮と皮の間には注意すると鋼を編みこんだ防刃繊維が見て取れます。馬車は全体が薄黒く、日が落ちれば夜の闇に同化して人目を避けることが可能です。さらに馬車を黒く彩っている塗料は耐火性のもので国軍の装備にも使われているものです。この馬車一台の値段は小さな城なら二つか三つ買えるほどです……はぁ、私はなんでこんな知識だけは覚えているのでしょうね

 

まあ乗せてもらっている身としては深く詮索しないものの、いろいろと推測をしてしまいます。一番有力なのは、私をロンディニウムまで護送することでしょうか。次点で私をどこかに運んで利用するといったところですか

 

私はなんといっても星の魔女のまな娘らしいですからね。星の魔女に取り入る、或いは利用しようとする者にとっては私を抑えるのが一番です

 

だけど、なんとなくミューズさんはそのどれにも当てはまらないような気がしているのです。だって、ミューズさんは……

 

『ぐぅ~……』

 

御者台から聞こえてきた腹の虫音

 

「あの……私……」

 

心持ち恥ずかしそうな表情を浮かべて、ミューズさんは荷台を振り返ります。ミューズさんの魅力は積極的に他者に訴えかける派手なものではなく、野の花がもちような清楚な

ものです。美人だと誰もが認めるものの、美人にありがちな近寄りがたさはミューズさんにはありません。長く艶やかな黒髪がさらりと揺れます

 

「荷台から……パンを取ってくれないかしら……」

 

まだ完全に気を許したわけではありません。でも、ミューズさんが休憩している間くらいは私が働こう。そう思う程度には彼女のことを好ましく思っているようです

 

『いや……でも』と遠慮するミューズさんを強引に荷台に押し込み、御者台に座る。ふと荷台に顔を向けると、とろんと緩んだ幸せそうな笑顔をして手に持ったパンをちょこちょこ食べているミューズさんの姿がありました

 

美しさよりも可愛らしさの方が印象に残る……そんな荷台から顔を正面に戻し、手綱を握って馬車を前進させる

 

パンを食べ終えて、陽光を浴びながらうとうとと寝入り始めたミューズさんを起こすことなく、ゆっくりのんびりロンディニウムへと馬車は進んでいくのでした

 

 




こんなミョズさんがいたっていいよね

テファとミョズさんでバランス取れてるからいいよねw
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