タルブの森のシエスタさん   作:肉巻き団子

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シエスタさん、認識する

トリステイン王城に次元船ガルガンチュワで乗り付けると、船から降りて来た私とモンモランシーにその場にいた全員が片膝を地に着け頭を下げてきました。城仕えの平民などは地面に頭を擦り付けて小刻みに震えています

 

なんと言いましょうか、全体の三分の一程を切り取られたように消失させている王城と、こちらを見る怯えが混じった者たちの視線。母さまの持つ力と私の正体がすでに広い範囲で知られているようです。これで母さままで次元船から降りてきていたら混乱して城が恐慌状態になっていたかもしれません

 

まあそうなろうとどうでもいいんですけどね。私は貰うものさえ貰えればトリステインをどうこうするつもりはありません。労働に対して報酬をきちんち支払ってもらえるなら感謝すらいたしましょう。ですが、トリステインのために働くのももう終わりです。しばらくは森に籠って母さまに十分甘えることにします

 

「セスタさんのことだけど」

 

「セスタがどうかしましたか」

 

王城の通路を誰にも阻まれることなく進みます。セスタなら今頃は次元船の中で母さまの話し相手になっているはずです

 

「セスタさんも普通じゃなかったのね」

 

「普通の娘が私の妹を名乗って無事なわけがないでしょう」

 

モンモランシーは呆れるというより諦めるといった声音で続けます

 

「シエスタさんのことに詳しいって理由で、アンリエッタ様の命令でしばらく一緒に行動してたの」

 

「そう言ってましたね」

 

そういえばその間ヒラガ様はどうしていたのでしょう?セスタが危険な仕事をするのを平和ボケしたヒラガ様が納得するとは思えません。戦地跡のアルビオンにセスタを行かせるのに賛成はしなかったでしょう

 

「それでアルビオンに行く前に恋人の……サイトーンだったかしら?あのルイズの使い魔の少年」

 

「サイト・ヒラガ様ですね」

 

「そうそう、そのサイトと学院の広場で大騒ぎしたのよ」

 

それは珍しいですね。一介のメイドとして学院に溶け込むことで私の傍に居続けたセスタが騒ぎを起こすなんて……

 

「アルビオンにどうしても行くっていうメイドと、そんな危険なところには絶対に行かせないって言うサイト。言い聞かせようにも主人のルイズはシエスタさんのことでふさぎこんで一歩も部屋から出てこない。ルイズったらわたしが無理やり食事を採らせなかったら病気にでもなったんじゃないかしら」

 

そうは言っても、どうせモンモランシーのことです。手厚く面倒を見ていたのでしょう。容易にモンモランシーが甲斐甲斐しくルイズの世話をしている光景が想像できました

 

「ルイズがそんなだからサイトを止める人が誰もいない。召喚されて間もない頃、サイトがギーシュのゴーレムを切り裂いて勝利したのはみんな覚えてたもの。止めに入ってもし斬られでもしたら貴族の恥になると思って傍観していたんでしょうね」

 

私もよく覚えていますよ。グラモン様に勝利したとはいえ、傷だらけでずっと意識を失っていたヒラガ様の面倒を見ていたのは私なのですから

 

「言い争いは段々と熱を帯びていって……とうとうサイトが力付くでも止めるって剣を取り出したわ。あ、もちろん私はいつでも止められるようにしてたわよ」

 

ヒラガ様は馬鹿なのですか?セスタの前で剣を抜くということは、セスタの敵になるということなのですよ……

 

「するとセスタさんもどこに隠し持っていたのか一振りの立派な大剣を取り出したの。青い光を帯びた……遠目からだったけど、今までわたしが見てきたどの剣よりも業物だと感じたわ」

 

あぁ……ヒラガ様からは引き出したい情報がまだたくさんありましたのに残念です。セスタの前に敵として立ったが本当に残念でなりません

 

「気がついたらセスタさんはサイトの背後にいつの間にか移動していて、サイトは胸から鮮血を噴きながら力なく地面に倒れた。不意にセスタさんと目が合って、あ、わたしと一緒だって気付いたの」

 

そうなるとヒラガ様が持っていたあの剣だけは気になりますね。もしかしたらセスタが回収しているかもしれません。あとで聞いておきましょう

 

「一緒にシエスタさんを探している間も襲ってきた賊は一刀で切り伏していくわ、野生の凶暴な亜人を見ても顔色一つ変えずに惨殺するわ、あげくにはアルビオン兵を発見すると出してもいない『モンモランシ様のご命令』とやらで斬りかかるわ……」

 

セスタも上手くモンモランシーを使うことを覚えましたか。と、見覚えのある扉が見えてきました。王家の紋章が描かれたドアの前にはロサイスで見た黒髪の少年兵の姿があります

 

「せめて死に掛けだったサイトを治療するのに使った水の秘薬代を誰でもいいから払ってくれないかしら……」

 

思わず足を止めモンモランシーを凝視してしまいました。セスタは敵を斬ったはずです。ならばセスタは敵を殺しているはずです。セスタは敵に情けなど絶対にかけません。敵はきちんと殺すよう、私がそう教えたのですから……

 

だとすると……モンモランシーは分かっているのでしょうか。母さまですら無理だと言った大業を成したことに気付いているのでしょうか

 

モンモランシー、あなたは死んだ人間を生き返らせることに成功しているのですよ

 

「な、なにっ?」

 

「…………いえ、モンモランシーが使える弟子だと認識しただけです」

 

なにか喚いているモンモランシーを無視して、黒髪の少年兵に『依頼人』との取次ぎを頼む

 

さて、モンモランシーのことはひとまずおいておいて、待ちに待った瞬間が間もなく私に訪れようとしていたのでした




無自覚ハイスペックなモンモン

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