学院を去って十日あまり経ちましたが、やりたいことがやれず暇を持て余しています。母さまに思う存分甘える予定だったのに、九日前からアルビオン復興諸国会議とやらに出席していて、母さまは今は遠いアルビオンのサウスゴータにいるのです
一人でも大丈夫だと言う母さまの万が一、億の一を考えて、森の警護をする最低限の魔物さんだけ残して、他はすべて母さまのお供にさせました
寒い日はいつも温かくしてくれる邪竜族(火属性攻撃無効)のバハムートさん、暑い日は涼をとってくれる水魔族(水属性攻撃無効)のダゴンさん、私を背に乗せて野を駆けてくれた幻獣族(風属性攻撃無効)のフェンリルさん、私のことを想ってしかってくれた聖竜族(無属性スキル攻撃無効)の神竜さん、私といつもお昼寝してくれた銃魔神族(攻撃を必中させる)のマルキダエルさん、私の健康をいつも気遣ってくれる死竜族(物理ダメージ半減)の冥竜さん、私に男の扱い方を教えてくれた夜魔族(男に与えるダメージ上昇)のリリスさん、他にも次元船を操るプチオークさんたちと、これだけの家族がいれば安心です。まあ出席者の大半は男性でしょうから、リリスさんの魅了だけで事足りるかもしれませんね……
…………それにしても
「ねこ……むにゃむにゅ…………」
森の木陰でネコマタさんの膝を枕にして昼寝をしている小柄な少女を見ます。ネコマタさんはすぐに視線に気付いて反応したものの、膝の上のルイズを気遣って体を動かしはしませんでした。それどころかうっすらと微笑みすら浮かべてルイズの髪を優しく撫でています
……いえ、いいんですけどね。このネコマタさんの役目は家の警護ですから、進入者さえいなければ昼寝をしようとルイズを愛でようと自由です。私のいない間にネコマタさんたちの警戒区域も大きく変わったらしく、いまでは家にいるのはネコマタさん一匹だけです
他の二匹はそれぞれ、タルブ村の警護、タルブ領に出没する賊の討伐をしていてその姿は久しく見ていません。家にはいつも三匹のネコマタさんたちがいるのが当たり前だったので、しばらく経った今でも少し違和感を感じてしまいます。これも母さまが村人と歩み寄った影響でしょうか……
『なあ、シエスタ』
『なんでしょうサイト君』
サイト君にニホンゴで話しかけられたのでこちらもニホンゴで返します。二人きりの時はニホンゴで会話するのが当たり前になっています。そうするとサイト君はなにかほっとした顔になるのですよね
『どうしたらセスタとやり直せるんだろう……』
『謝り続けるしかありませんね』
というかなぜサイト君はここにいるんでしょうね。セスタと別れて部屋に入れてもらえなくなったとはいえ、ちゃんとルイズがあなたのために平民用宿舎の一室を用意してくれていたでしょう。使い魔だからとルイズに付いてこずに、学院に残ってセスタに謝り続ければいいものを……
もちろん、私にとってはサイト君から情報を引き出す時間は多いほどいいので忠告なんてしてあげません。ニコニコとサイト君の話に付き合いながら、今日もこつこつとニホンの情報を集めます
そんな感じでお付世話役とは名ばかりのルイズの世話を逆に焼き、うじうじセスタのことで悩むサイト君からニホンの情報を引き出す日々を過ごしています。あ、サイト君は明日になれば学院に行ってみるそうです。セスタに会いたくなったのか、それとも野宿が堪えてきたのか……母さまと私の家にルイズはともかく男なんて入れるわけがありません
そうそう、数日前に少し変わった出来事がありました。いきなり私の目の前に、光る鏡のようなものが現れたのですよね。そんな現象には初めて遭遇しました。隣にいたサイト君が使い魔の召喚ゲートだと叫ばなければうっかり干渉してしまうところでした。もし触れでもして飲み込まれたら面倒なことになりそうです
まあでもこのゲートはおそらくサイト君を召喚するためのものです。私の正面に現れたのも誤差に違いありません。だというのに鏡はサイト君を無視して私に向かってくるのです
無論避けます。ひらりひらりと回避しながら歩を進めます。そうですね、間違いは誰にでもあると思います。私も間違えたことはたくさんあります。その度に母さまが、あるいは魔物さんが間違いを指摘してくれて私は間違いに気付くことができたのです。だから私もそうするべきなのでしょう
そうやって森の散歩から家に帰ってきてみれば、思った通りルイズが召喚の儀式をしている最中でした。すでに近付いてくるというより襲い掛かってくる速さになった召喚ゲートを最小限の動きで回避しながら、私は間違いを指摘してやるのでした
「ルイズ、狙いがずれて召喚ゲートがヒラガ様ではなく私の前に現れていますよ。一度日を改めた方がいいのではないでしょうか?」
その後、ゲートを閉じたルイズがすこぶる不満そうな顔をしていましたが私は何も悪くありませんからね
シエスタさんの召喚ゲートトレイン