「スレイプニィルの舞踏会?」
学院に向かう馬車の御者台で隣に座っているモンモランシーに尋ねます。
「ええ、今度、新学期が始まるでしょ?まあシエスタさんには関係ないでしょうけど」
新学期と言われて、隣にいるモンモランシーが今朝早くに森の警護をしていたネコマタさんに連れられてやってきたことを思い出します。
なんでも、今年分のルイズの長期課外授業申請をしなければいけないらしく、ネコマタさんに縄でぐるぐる巻きにされた状態・・・まるで蓑虫のようでした・・・でルイズとの朝食中にやってきたのです。
ネコマタさんがモンモランシーの身にわずかに残る私の残り香に気づいていなければどうなったいたかは言わずもがなというやつでしょうか…
今年もタルブの森には早くも31体の肥料が撒かれ、実り良い森の恵みが期待できそうです。
まあそんなわけで、ならばモンモランシーと一緒に学院に向かうようルイズに言ったところ、『私はシエスタさんの侍女よ、シエスタさんが行かないなら私も行かないわ!』と意思が強いといいますか我儘といいますか・・・そんなこんなで今に至るというわけです。
そして私の侍女はといえば、簡単な家事はできるようになったものの御者などはやれるわけもなく、後ろから小さくも気持ちよさそうな寝息を発しています。始祖の血を受け継ぐ貴族の娘がメイド服に身を包み平民に仕えてていいのでしょうかね。
「新学期で舞踏会とは暢気なことですね」
そうこぼすと、隣に座ったモンモランシーが呆れ口調ながらも説明してくれます。
「新入生の少女たちは社交界が初めてという子も少なくないのよ。それを先輩たちが歓迎も兼ねて親切に教えるのが慣例となっているわ。シエスタさんが言うように戦火がまだ燻ぶっている時期に何をやっているんだって気もするけど」
手綱を握るモンモランシーに危なっかしさはもうありません。視線は私に向きながらも周囲の警戒を怠らない様子には私も少しだけ気を休められます。
「きっとみんな楽しいことをして戦争を忘れたいのよ」
ああ、と納得しんがらモンモランシーと見ると、彼女はすでに前を向いていました。
「学院の男子たちの多くは戦争に参加してた。少ないけれど女子もいたわ。無事に帰ってきた者もいれば腕や足を失って帰ってきた者もいる」
後ろから聞こえていた寝息は聞こえなくなり、息を潜めて何かを考えているようなものに変わっています。
「勇ましく戦って名誉の戦死をした者もいれば誰にも気づかれずに死んでいった者もいる。そうそう…」
そこでモンモランシーは小さく噴き出して、
「中には敵に寝返ってシエスタさんの敵になった子もいたかもね」
「いちいち敵の顔なんて覚えていません。私が生きているのだから敵になったのなら大体は死んでいるのでしょう」
そう言うとモンモランシーは本当におかしそうに笑いました。後ろからもルイズの笑い声は聞こえてきます。
2人は楽しそうに笑っている。なんというか落ち着かない。これなら魔法と矢が飛び交う戦場のほうが落ち着くというか……いや別に嫌というわけではありませんが、ただただ落ち着かない。
「ルイズ」
「なによモンモランシー」
楽し気な声のまま2人は続ける。
「シエスタさんはすごいわね」
「私のご主人様だもの!」
本当に何なのでしょうこれは……人との会話なんて仕事上でしかしてこなかった私には2人が思っていることは理解できない。ならば直接聞こうにもこの空気ではそれも難しい。
森の道中はそこそこの斜面があるにも関わらず、まるで軽やかなステップを踏むようにモンモランシーは手綱を握っていて、手綱を握るのは右手のみ。左手は杖を握っていて不測の事態に備えている。
それなのに、楽し気なまま、時折調子の外れた鼻歌が聞こえてきて、これまたルイズがそれに合わせる。
車体が揺れる。隣のモンモランシーが『上手くなったもんでしょ?』と誇らしげに声を弾ませます。長めのポニーテイルを揺らしながらの動作はなかなかにさまになっていて風がその髪を撫でていく。
思い出す。
いつも穏やかに微笑んで、落ち着いた雰囲気には見えるけれど、不意に見せる表情はどこか子供っぽい。
差し出された手からものを受けとるたびに満足そうに笑った。
彼女の存在をいつもあたたかく感じていた。
「ここにミューズさんがいてくれたらいいのに」
もれた私の声に隣から『そうね』とだけ相槌があり、また鼻歌へと戻った。
ルイズとモンモランシーの鼻歌を乗せ、馬車はゆっくりと学院への道をすすんでいくのでした。
短いけど前からこんなもんだったしね!w
『し』と入力するだけで『シエスタさん』と変換できてたXPノートパソコンが恋しいの・・・