秋イベントも頑張りましょう。
俺は先日受けた心の傷を癒すべく猫のチューイのもとに来ていた。
いつもいるというわけではないが、たいてい俺が見かける時は士官学校裏のベンチで昼寝をしているのだ。
ああ、やはり猫はいい。自由で気ままで突然発情するようなことがないのが特に素晴らしい。
「待ってましたよ。噂の司令官さん!」
何処からだろう? 突然声を掛けられた。俺は周囲を見たが人の姿はない。
「こっちですよ。こっち! 木の上です」
俺はベンチに心地よい日陰を作っていた少し大きめの木の上を言われるがままに見る。
木の上にはカメラを持った女の子が太めの木の枝に座っていた。
「やっと気づいていただけましたね。士官学校の裏で猫をかわいがる噂の司令官、これは購読者が集まりそうです!」
絶対めんどくさい奴ではあるが、とりあえず聞いておく。
「誰だお前は!?」
「よくぞ聞いてくださいました!」
「私を前に秘匿できるものなし! 貴方の秘密に這いよるソロモンの狼青葉とは私の事ですよ!」
青葉と名乗る少女は木の上に仁王立ちすると高らかに叫んだ。
ピンクの髪に青い瞳、セーラ服に短パンかぁ。
というか下から見るとズボンの隙間から中身見えてるし
そんな恰好で木に登るなんて羞恥心のかけらもないのだろうか
それとも、「見せてんのよ」的なあれだろうか?
「で、お前は何やってるんだ?」パシャッ
「ええ、実は何を隠そうあなたを……今、そのスマホで何を撮りましたか?」
「お前のパンツを撮ろうとしたんだよ。ズボンはいてても下からだと隙間から見えるからな。……緑かぁ。しかも、太ももに食い込んだオーバーニーソもいい味出してるな、待ち受けにしよ」
「やめてください!! お願いですから消して下さい!!」
上から何か聞こえてくるが、俺はそれを大事に待ち受けにして聞き返した。
「だったら、そんな所にいないで降りてきたらどうだ? お前は人としゃべるときは木の上にいろって教わったのか?」
「あっ、ええっと……、そのぉ……」
何だろうか? 何か言いにくい事でもあるのだろうか?
「……あのぉ非常に恐縮なのですが……おろしてもらえないでしょうか……」
俺は木を思いっきり蹴飛ばした。
「ぎゃあああああ!! 悪魔!! 鬼畜!! 鬼司令官!! 何するんですか!!??」
「何って、降ろしてほしいんだろ?」
「降ろし方ってものがあるでしょうが!! 梯子持ってきて「怖かったかいお嬢ちゃん?」みたいなことすればいいんですよ!」
なんだその一昔前の少女漫画に出てきそうな妄想は?
「おら! さっさと落ちろ!」
「ああっ! 今! 今落ちろって言いましたね! 覚えててくださいよ! 私が死んでも第二、第三の私が必ずあなたが幸せの絶頂の時にどん底に落として────あっ」ズルッ
青葉は木から足を滑らせそのままきれいに落ちる。残念! 少女の人生はここで終わってしまった。
「あああああ!! ……あれ? 痛くない?」
────とはならなかった。俺がもうすでにキャッチする準備をしていたからだ。少女は俺にお姫様抱っこされている形になっていた。
「怖かったかいお嬢ちゃん?」
俺は少し顔をキリっとさせてさっき青葉が言っていたセリフを復唱してやった。
「司令官…」
少女は少し顔を赤らめながら微笑むと自分の持っていたカメラの角で俺の頭を殴った。
「何すんだよ。せっかく助けてやった上にお前の妄想にまで付き合ってやったっていうのに……」
「何が「怖かったい?」ですか!! マッチポンプもいい所じゃないですか!!」
青葉は怒りながらもカメラの中身に欠損がないかチェックしていた。だったら殴らなければいいものを……
俺がベンチに座ると青葉もまた「お隣失礼します」と一言断ってから座るのだった
「全く、折角あの噂の司令官と出会えた上に可愛い一面を見られたと思ったのに……」
「すまんな、俺はこういうやつだ。というかお前は木の上で何してたんだ?」
「はい、実は私、青葉は貴方の名だたる噂を耳にいたしまして、ぜひ貴方にこの噂が本当か否かを伺おうと待っていたんです」
「うん。その噂はいいとして……何で木に登る必要があったんだ?」
「あなたは大体この時間帯はこの辺りにいると聞いたので高い所から見渡したらすぐに見つかるんじゃないかと……」
それで降りられないんじゃ、仕方ないじゃないか
「そうか。それで? なんだその噂というのは?」
「実は最近初雪ちゃんがやる気を出して訓練に臨んでいるんですよ。今メキメキ練度を上げているみたいです。」
へぇ、それは知らなかった。最近忙しかったから、あいつらの事全然見てやれてなかったな。
あいつがそうやってやる気を出したということはあいつにも戦う目的が出来たということだろう。俺の鎮守府に来なくなったのは少し残念だがまあ、あいつがそう決めたのならそれを止める権利は俺にはない。
「そのきっかけが貴方だったそうじゃないですか」
「え?俺が?」
「ええ、貴方についていくために貴方の士官学校の卒業に間に合うように毎日訓練してるみたいですよ。なんでも自分の事をちゃんと見てくれた初めての人だったとか。イヤーやっぱり自分の司令官を見つけた艦娘はより艦娘として成長していくんですねぇ。それで・・・どうやってやる気を出させたんですか?」
青葉は前のめりになって俺に尋ねてくる。こいつは自分が知りたいと思ったことを知らないままにしてはいけないやつなんだろうか?
「俺は・・・そんなつもりなかったんだけどなぁ。ただ俺は戦う目的もないのにあいつの事を勝手に召集してここに馴染めなかったからってのけ者にされてたっていうのが少し許せなかったんだ。あいつにはあいつのしたかったことがあっただろうにさ。あいつだって少し前まで学生だったんだぜ」
まあ、戦争とはそういうものだってわかってはいるんだけどな・・・
「ああ、そういうことですか。」
青葉は納得したようにうなずいた。
「つまりあなたは初雪ちゃんの理解者になることで初雪ちゃんを口説いたわけですね?」
「いや、何でそうなるんだ」
俺は別に口説いたつもりはないぞ。
「いえいえ、私も彼女の素性は大方調べたので知っています。彼女もただの学生だったのに艦娘としてこの世に生を受けたばかりにこんなことに巻き込まれたんですよね」
「あいつが自分の事をそこまでしゃべったのか?」
あいつが自分の過去を他人にべらべらしゃべるような奴には見えなかったが・・・
「ああ、データベースに侵入して彼女の履歴を洗いざらい調べたんですよ。」
やばいぞ。こいつに関わるべきじゃなかったかも。どうして艦娘はこんなのしかいないんだ!
「ああ、安心してください。警視庁のデータベースにも潜入して少しも痕跡を残したことはないので安心してください」
何処に安心できる要素があったのだろうか?
「それに当然あなたの事も調べましたよ。かなり変わった過去をお持ちのようですが・・・。私はあなたを気に入ってしまったんですよ。」
「俺は気に入ってないから。お前も俺を気に入らないでもらえるかな?」
「いえいえ、もう遅いですよ。記者としても艦娘としても女としてもあなたに興味津々です!」
「実は私・・・夢があったんです。私昔から自分の知りたいことを知らないままにしておけなくてあまり人から気に入られる人間ではなかったのです。まあ、人の秘密を探ろうとするやつは大抵気に入られませんけどね」
妖怪の世界でもさとり妖怪は気に入られないからな。俺は好きだけど
「それでも、私が真実を暴くことで世の中が少しだけでも平和になると信じて記者になろうと思っていたのですが・・・。私が艦娘だということがわかって・・・。」
青葉は少しうつむいて暗い顔になった。
「ですが本当につらかったのは夢をあきらめなければならない事よりも・・・その・・・私の両親が私の事を艦娘として生んでしまったことを私に謝って来た時でしたけどね」
それは・・・確かにそうだろう。自分の愛娘が艦娘だったせいで夢をあきらめなければならないと分かった時には自分が娘を艦娘として生んでしまったせいだと自分を責めてしまう親もいるかもしれない。
「ですから、正直私が艦娘になった時点で私は海の底で死ぬのだと思っていました。でも、貴方は初雪ちゃんの意思を尊重してくれました。だから、私も貴方の下に行きたいんです!私も艦娘になった今でも夢を追いかけられればせめて私の夢を奪ってしまったと思っている両親も少しは自分を許してくれるんじゃないかと思いまして・・・」
青葉は少し目に涙を浮かべていた。きっとこいつの両親も自分の娘の夢を応援していたのだろう。だからこそ彼女も諦められないのか。
「あ、貴方のためならなんだってしますよ。ただその・・・たまに何かを調べるために長期休暇を取ることが出来ればいいかなって・・・だめでしょうか」
「いいぞ」
俺は二つ返事でOKを出した。
「ホントですか?何というか自分から頼んでおいてなんですが少し簡単に受け入れすぎでは?」
「俺もお前の夢を応援したくなっただけ、とでも言っておこうかな」
正直、そこまで言われて断れなくなったというのもあるが・・・。
「ただし、危険なことにはあまり首を突っ込まない事。そういう時は仲間を頼れ。いいな?」
「はい!ありがとうございます!青葉、恐縮です!ではまずは・・・」
青葉は自分のメモ用のノートを取り出した。
「司令官の不敬な噂をすべてこの場で全てうそであったと証明しましょう」
ん?急にどうしたのだろう?
「いえ、実はあなたの事を調べて回るうちにいろんな噂を耳にしたんですよ。たとえばーーーー」
自分メモ用紙に目を落として内容を読み始めた。
「艦娘の鹿島教官に対してセクハラを働いていたり……」
「うんうん」
「艦娘をペット扱いして首輪をつけて遊んでいたりだとか……」
「うん、違うな。それは俺じゃない」
一体誰なんだそんな、身も蓋もないうわさを流した奴は。全く、心ない奴がいたもんだ。
「そうですよね。まさか司令官がそんなことを・・・」
「あら? 青葉さん、こんにちは」
「あっ! 鹿島さん、お散歩ですか?」
なぜこんなタイミングで鹿島ちゃんが現れるのだろうか?
「いえ、実は提督を探してて、……あっ提督こんな所にいたんですね。お久しぶりです……ってなぜ目をそらすのですか?」
「いや何でもないんだけど?」
「もう、折角最近いろんな艦娘と積極的に接触してるというからご褒美にいつもの視姦をほんの少しの間だけ許して差し上げようかと思ったのですが……」
「え? 鹿島さん今なんて……」
「ええ、司令官さんたら私の講義中私の事ばかり見てるんですよ。特に太もものあたりを。でも最近講義を中断しているので、その……少し私も寂しいんですよ。待ってますね、提督」
「……」
「……」
「あの……」
「違うからな?」
「何も違わないじゃないですか!! 鹿島さんの事視姦してるじゃないですか。しかもあれ少し目覚めちゃってますよね!?」
いやいや、あれはただ前を向いて講義を聞いているだけだ何もやましいことはない。よって俺は無罪だ。いいね?
「うるさーい! そんな噂は全部嘘だから!」
「・・・本当ですか?」
やばい、疑い始めている何とかごまかさなくては・・・。すると見覚えのあるやつが近づいてきた。
「ここにいたのか司令官と……青葉か。二人で何をしているのだ?」
「げっ、若葉・・・」
「若葉ちゃん……その首についてるものは・・・何?」
「む、これか? これは司令官との絆なんだ私が何か不祥事をしでかせば司令官がこれを引っ張って私を躾けるんだ」
若葉は自分の首に付けた首輪を愛おしそうに顔を赤らめながら撫でる。
「見たところお取り込み中のようだな。終わったらこちらから向かおう」
それだけ言うと、若葉は去ってしまった
ソロモンの狼と言われた青葉なのになんで夕立のハロウィンイベントの時に話題にならなかったんだろう。