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俺は担当の軽巡が発表されてから訓練が開始されるまでの間、青葉に新しい飲み物を自動販売機で買いつつ大井についての情報を求めた。
「大井さんの情報なのですがなぜかどこのデータベースからも彼女の存在が見つからなかったんですよ、北上さんも同様ですがね。なんだかワクワクしません?」
あー、そうか彼女たちはちょっと前まで例の宇宙機密組織に属していたからそれ以前のそいつに関わる情報がすべて抹消されてるんだな。
それが逆に青葉の興味をひいてしまったのか。なんという皮肉。
「あー、今青葉の事バカにしましたね!」
「してないよ」
「いいえ、そんな目をしていました! いいですか? 私の実力はこんなもんじゃないですよ、例えば……ほら! さっきの由良のデータです!」
青葉は俺にスマホを突き出してきた。そこに書いてあったのは由良の艦としての性能だけでなく出身や家族構成などの個人情報まで調べ上げられていた。
こいつは一回痛い目見せた方がいいんじゃないかと本気で思えてきた。
「なぁ、俺の事もこのくらい調べたのか?」
「いえいえ、そんなわけないじゃないですか」
「そうだよな、そんなわけないよな」
「そうですね。たとえば……白藤 一美さんとかぐらいでしょうか?」
「は? 誰だよそれ?」
全く心当たりがない。俺の親戚の名前……じゃないな。友人の名前でもないし恩師の名前でもない……いったいだれだ?
「この方は提督のお母さまが提督をご出産なさった時に担当された産婦人科医の名前です」
「気持ち悪いわ!!」
え? 何? マジでドン引きなんだけど?
「私の司令官になるお方の事ですから他の艦娘程度の調べ方じゃ私の気が収まらなかったんですよ」
なんだかだんだん青葉の目から光が無くなってくる。
「えへへ、こんなもんじゃ足りません……もっと司令官の事……もっと知りたいです」
う~ん、どうしてこんな奴ばかりが俺の周りに集まってくるんだろう?
俺と青葉が由良の所に戻るともうすでに訓練が始まっており、それぞれの軽巡達が自分の担当の駆逐艦達に対し各々の訓練を行っていた。
「それではこれより輸送訓練を始めます。私の指示通りに航行してください。……ってそんなところで止まってないで私の指示に従ってください!!」
「いや……阿武隈さん。これ……輸送で一人が運べる量じゃ……ないのでは?」
「もう、冗談言わないでください。私はその10倍を運んでるんですよ」
「は?」
「では、そのまま回避行動を交えながら、航行しまーす」
「ああ、ちょっと……待って……」
「対潜哨戒の仕方はこれでわかったわね」
「質問よろしいでしょうか?」
「何?」
「五十鈴さんはソナーもないのにどうやって潜水艦の位置を見分けてるんですか?」
「はぁ? そんなの慣れよ、慣れ。ずっとやってれば陸を歩いてる時でも地面の下で何かが動いてるのかがわかるわ。あっ、それができるようになるまで帰すつもりないから、そのつもりでいてね」
((((この人ヤバい人だ!))))
「俺の名は天龍だ。フフフ、怖いか?」
「わー、こわーい」
「俺の訓練は厳しいぜ、ついてこれるか?」
「大丈夫よ。天龍ちゃんなんだかんだ優しいから」
「……おい龍田、何やってんだ?」
「フフフ、天龍ちゃんが心配で見に来ちゃった」
「お前は早くお前の担当の所行けよ!」
「ハーイ」
個人差はあれど決して楽なものなどではない。それぞれが団結しその生存性を高めるために血反吐を吐くような訓練を行っているのだ。
だが、その駆逐艦達の誰もが同じことを思っていた。
(((((((((((
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、
逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」
「た、助け、助けて……!!」
「わ、私はもうダメだ……。叢雲、お前だけでも生き残るんだ」
「む、無理よ! 貴方達を置いてなんて……」
「き、来た!! 神通さん来た!!」
「死んだフリ! 死んだフリだ!!」プカー
「す……すごい! 完璧なドザエモンだ! これなら神通さんも……」
「……一ついいことを教えておきます。ありがたいことに我々艦娘は死んでもドザエモンにはなりません。そもそも、艦娘にはそんな概念はありませんからね。では、どうなるのか? 教えてあげましょう」
「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
なんだか恐ろしい現場を見てしまった気がする。これが軽巡神通の訓練……恐ろしすぎる。
決してほかの軽巡達が甘いわけではない、それでも彼女たちの所は何というか……地獄そのものという感じだった。
なんだろう……人がどのくらいやれば死んでしまうのかというものを熟知したうえでそのギリギリを攻めているような感じがする。
「いやはや、あれがあの神通さんの訓練ですか。この青葉も初めて目にしましたが正直自分が重巡洋艦であったことを少し感謝しました……」
あの青葉ですらそんなことを言っていた。
「ところで由良さんは軽巡なのに訓練でなくていいの?」
「私は今日はお休みさせていただきました。今日は北上さんが久々に訓練に参加する日なんです」
すると、訓練施設の方から歓声が上がったのが聞こえた。
「ほら、あそこに北上さんがいますよ」
由良が指さす方を見ると北上が訓練を行っており、北上は個人だけで訓練を行っているようでその周りには人だかりができていた。
後ろにいる者たちは北上の動きを見るためにぴょんぴょん飛んでいる者もいたが俺たちは特等席にいるためその鮮やかな動きがここからではよく見える。
「久々に北上さんの訓練を見ましたがやっぱりすごいですね。北上さんが訓練に参加されることは少ないので」
「ふーん、でもそんなことしてたら大井が何か言ってこないか?」
「大井さん? 大井さんは優しい方ですよ、私がここに来たばかりの頃も色々と気にかけてくださいました。まあ、北上さんの事になると少し目つきが変わってしまいますが……」
ああ、由良さんや申し訳ないがそれはきっと人違いだ。大井は凶暴な肉食獣だ。いいね?
「そうか? 由良さんの方が優しそうだし、おしとやかで器量もよさそうじゃん」
「え!? 突然そんな……」
事実を言ったまでである。由良さんならば大井の様に突然後ろから魚雷で殴ったりはしないだろう。
「それに俺の心の支えになってくれそうだし」
内の鎮守府に来ることが確定しているのはあのモンスターたちばかりである。そんな中に由良さんという存在がいるだけで俺の心の平穏はかなり保たれるだろう。
だからこれも事実を言ったまでである。
「提督さん……そんなに由良の事を必要としてくれているんですね。……由良すごく嬉しいです。あの、どうか貴方のそばにいさせてください。由良を……どうか貴方のお役に立たせてください」
あれ? なんか思ったのと違うな。なんだかこれでは俺が由良をうちに引き込んだみたいな感じになっているではないか。
「なるほど! 司令官は沢山の艦娘に同じセリフを吐いて艦娘達を自分のものにしてきたんですね? 青葉には言ってくれなかったのに……」
青葉から心無い言葉が飛んでくる。 おいおい、心外だな。他の奴らは勝手に入れろと言ってきただけだ。
もう流石にこれ以上面倒を増やしたくはない。これどうせあれだろ? この由良って娘もなんかヤバい部分があるんだろ? 俺は詳しいんだ。
由良を傷つけないようにスカウトする気はないとの旨を伝えれば……。
「あの……提督さん。もし由良がお役に立てたら……提督さんがよろしかったらでいいのですが由良のわがままを聞いていただけませんか?」
「ん? なんだい?」
俺がそのことを伝えようとしたとき由良が俺にわがままを言ってきた。これはまさか……
「たまに……たまにでいいんですが……その……由良とお出かけしていただけませんか?」
「……」
「あっ、すみません。ダメですよね、人々を守らないといけない艦娘がそんなことに現を抜かすなんて……忘れてください」
うん、やっぱり前言撤回。ようこそわが艦隊に。