「大丈夫です! 大井さんにつかまらないように発電機を全部修理して脱出すればいいんですから」
「じゃあお前が囮になれ」
「それは勘弁してください。あ、ごめんなさい! だってほんとに来てるなんて思わないじゃないですか!」
しょうがないだろ。色々あったんだ。
「……仕方ないな」
若葉は立ち上がるとそのまま大井の方に向かって歩き出した。
「おい、若葉! 何をするつもりだ!」
「決まっているだろう? 大井を説得してくる。その間にここを離れろ。何、心配するなこの若葉に任せておけ」
その顔は笑いながらまっすぐ戦場を見据える戦士のようだった。そして、大井の目の前に立ちはだかった。
「……誰よ?」
大井のドスの利いた声に遠く離れた俺たちでも背筋に冷や汗をかいてしまった。
だが、そんな大井に動揺することなく話を続ける。
「司令官を探しているのだろう?」
「……あいつの居場所を知っているの?」
「ああ、だがここにはいない。それは青葉がお前の気を引くためについた嘘だ」
「……そう、ところでその首輪は何? まさかあいつが……」
「ああ、これは自分でつけた。私はあまり他の司令官には良い顔をされなくてな、こんな私の事を受け入れてくれたのはあいつが初めてなんだ。私の司令官はなんだかんだ文句を言いながら私に付き合ってくれるんだ」
「……」
「司令官には感謝しているんだ、こんな私を拾ってくれたのだからな。だから私は司令官にずっとついていくと誓った、この首輪はその証だ」
あっ、やべぇな。なんかむず痒い気分になってきた。まさか若葉がそんなことを思ってるとは思わなかったぞ。
「だからお前も私と同じ司令官の奴隷にならないか?」
だからそういうこと言わないでいてくれたらなぁ。若葉は大井からかかと落としを喰らい地に伏せる。
「しかし、私にはお前のことがわからない。なぜおまえはそうやって司令官を嫌うのだ?」
「当然じゃない! だってあいつは北上さんを奪ったのよ!」
「しかし、今までお前にはきちんと優しく接してくれた司令官もいたのではないか? なぜそんな奴らまで一蹴してきたんだ?」
「……相容れるわけないじゃない、私達は、人間じゃないのよ! ここに来てわかったでしょ? 私達は兵器になるために産まれてきたのよ!」
どうやら、俺の中で大井に対して少し認識の間違いがあったようだ。俺は司令官の事を快く思っていないのは艦娘である自分が司令官に虐げられていたからだと思っていた。
しかしそれは間違いだったようだ。
大井は、きっと自分が何なのか不安だったのだろうしかしここに来て知ることになった、自分が戦うために産まれてきたと教えられた。
そして、司令官という人間に対して距離を置くようになったのだろう。
「だから近づくな……か」
だったら、そこは示さなくてはならないだろう。迷った艦を導いてやるのも司令官の役目なのだ。
「もういいぞ若葉、下がってろ」
「む、逃げなかったのか?」
「まあ、あのまま任せてても終わりそうになかったもんでな」
俺は若葉の前に出る。大井も俺の存在に実は気付いていたらしい。
「やっぱりいたんじゃない。何? また頭に喰らいに来たの? 今度は手加減できないわよ?」
「そうか……じゃあ手合わせしてみるか? 俺の事が殺したいほど憎かったんだろ?」
若葉が慌てて俺の前に出ようとする。
「司令官、今の奴は危険だぞ」
分かってる。でも、ここは司令官である俺がやんなきゃダメなんだ。
「かかって来いよ手加減はいらんぞ」
「どうだ? 結構やるだろ?」
「いや、地面に倒れながら言ってもしょうがないでしょう?」
まあ、結構いいとこまで入ったんだけどな。やっぱつえーわ。きっと前の組織にいた時からいろいろ経験は積んでたんだろうな。
「ねえ、私の事舐めてたでしょう? 私の事倒そうと思えばいつでも止めはさせたはずでしょ?」
「まあ、お前を倒すことが目的じゃないからな」
「は?」
俺は起き上がりその場に座り込む。
「どうだった? 俺も結構いけてただろう?」
「まあ、認めてやってもいいわね」
「お前はさ、人間である俺たちは兵器である自分たちとは相容れないと思ってるかもしれんがな、いるんだぞ世の中にはお前らの力や思いを受け止めてやれる奴がちゃんと存在するんだ」
「……それがあんただって言いたいの? だから北上さんはあんたを選んだの?」
「まあ、そういう選択肢もあるということ。まあ北上が俺を選んだのは全く違う理由だと思うけど」
まあ、最初はお前の元の仕事を知っていたからっていうのだったが……それはわからない。北上は何考えてるかわからないし少し苦手な部分はある。ひょっとしたらおもしろそうだと思ったからやって来たとかそんな理由かもしれない。
「でも……そんな奴いるわけないじゃない。みんなあんたみたいなバカじゃないのよ」
「いるわよ」
そこに入ってきたのは叢雲だった。
「いるわよ。私の知っている人に突然現れた艦娘の事を受け入れて何なら愛せる人がいるわ。自分の事を兵器と思おうが人間と思おうがそんなのはあなたの勝手、だってあなたは艦であり娘なんだもの。でもどちらにしたって共生しないと生きていけない、それは覚えておいて」
「……」
叢雲は俺に駆け寄って肩を貸してくれた。「大丈夫?」とか言うと思ったが叢雲は何も言わずに帰り始めた。
大井も一緒に連れて帰ろうかと思ったが、少し一人にしてやれと叢雲に言われてしまった。
「どうするかな? あいつ」
「さぁ? わからないわ。でも、少しくらいは前向きになってくれたんじゃないかしら」
「そうだな。私も司令官の艦隊に勧誘しておいたし、きっと大丈夫だろう」
お前が勧誘したのは、自分の趣味だ。
「それにしてもあんたからあんな言葉が出てくるなんてね」
「何の事だ?」
「艦娘の力や思いを受け止められる人間がいるといってたでしょ?」
ああ、確かにそんなことも言った。まあ、人間舐めてんじゃねぇぞみたいな意味合いもあったけどな。まあ、不意打ちで気絶させられた俺が言うのもなんだがな。
「それを聞いて少し安心したわ。私の目は多少は間違ってなかったんだってね」
多少は余計だこの野郎。ああ、そういえば……
「さっきの話本当か? 艦娘と恋をしたやつがいるって話」
「ああその話ね。ええ、本当よ」
え? マジでそんな奴いるのか? 愛せる奴とまでは言わなかったが……。そうか……そんな奴がいるんだな。どこの誰だか知らんが立派なもんだと思う、艦娘への偏見の多い中で艦娘を愛してしまったやつがいるんだな。俺にはどんなことが障害になるのかはわからんが、きっと大変だったんだろうということは俺にも大体察しがついた。
「私はあの二人を見て誓ったの、決して指揮の才に長けているとか数々の武勲を立てているとかそんなんじゃない、ちゃんと私達艦娘を対等にそして平等に接してくれるそんな人を司令官にするんだって。そのためなら艦隊指揮や書類仕事に不安があったりしたってかまわないわ。私がきっちりしごいてあげるけどね」
「でも、俺だって嫌いな奴はいるぞ?」
「そりゃ誰だって嫌いな奴くらいいるでしょう? 問題なのはそこに艦娘だからっていう壁がない事よ」
少し……意外だな。叢雲がそんな風に思っていたとは。俺はなぜ俺みたいな成りあがる気のない奴に目を付けたんだろうと思っていた。見るからにプライドの高そうな叢雲は艦隊指揮や運営がうまい奴についてそいつとともに勝利を喜びたいとか思うやつだと考えいていた。だが実際は違ったようだ。
しかし、その口ぶりからしてどうにもその二人の事を良く知っているようだ。こういうのって聞いてもいいものなのだろうか?
「それで? それで? そのお二人というのだ一体誰なんでしょう? 青葉気になります! その口ぶりからしてかなり近しい仲だったのでしょう? 教えてくださいよ!」
「お前……どうやって抜け出したんだ?」
青葉は先ほどまで大井につるされていたはずなのになぜ抜け出せたのだろうか? でもまあこいつならあの程度の縛り方でどうこう出来るものでもないだろう。しかもこいつ唐突に話に入ってきて俺が聞きにくいことを平気で聞きやがる。
「はぁ、まああんたもうちの艦隊に来るのよね。まあいいわ教えてあげる。この世界に最初に現われた艦娘の事を知ってるかしら?」
それは、青葉から聞いた。確か海に浮いてたんだっけ?
「それで、その当時の一海軍の少佐の男が彼女を拾ったの、それからその兵士は彼女が深海棲艦撃破のカギになると気付いた。でも、ある研究者達が彼女を調べ上げるために引き取るべきだと言ってきてね、まあ何されるかは大体想像がついたわ」
「ただの少佐でしかなかったその人はそれを断ることはできなかったわ。だから、その人は秘密裏に自分の作戦にその艦娘を入れることにしたの。そしたら作戦は大成功。当時初めて人類側が勝利した瞬間だったわ」
「それで、その栄誉を称えられたその男は無事昇格することに成功。その力で研究者たちの意見を突っぱねたの。そのあとの事は青葉が調べてるんじゃないの?」
そうだ、確かそのあと艦娘が深海棲艦に対抗できるシステムを作るために尽力したんだったか。
「まあ、それも実は艦娘達がその時の研究者達のような連中に引き抜かれないようにするためのシステムでもあるんだけどね」
そうか、こうやって艦娘であることが発覚したらすぐに海軍の監視下に置くことでそういうことを免れることができる。今まで普通に暮らしてきた女の子達を強制的に連れてきていることにもちゃんと理由があったということだ。
「しかし、よくそこまでご存知ですね。私でも調べるのに苦労したのに」
青葉は悔しがる。自分が調べる事のできなかったその答えがこんなに近くにいたのだから。
「それはそうよ、多分私が一番その二人を一番近くで見てきたんだもの」
そして、叢雲はかなりあっさりと答える。青葉ですら調べられない位のトップシークレットを当たり前のように口にする。
「その二人は、私の両親。肉親ともいうわね。だから私は言ってしまえば艦娘と人間のハーフってことになるわね」