帰ってきた俺たちはとりあえずこれからの事を話し合う。
「それにはまずこの案件を片すことでありますな、まずは……」
あきつ丸は時雨の資料を俺に見せながらこれからの事を話す。
「まずこの資料を作った人間を、つまりここの提督だった者に話を……聞きたいところですが彼はもう一般人、軍が勝手に手出しできないであります。だからここはまずこのツッコミどころ満載の報告書に轟沈の印鑑を押した上層部の連中から絞っていくでありますか」
その時のあきつ丸はかなり悪い顔をしていた。まあ、確かにそういうことならあきつ丸の方が得意なのだろう。
つまり、ここからはもう俺たちにできることはないということだ。まあ、事の真相は時雨が出てきた時にでも聞こうじゃないか。
「時雨がそのまま出てきてくれれば話は早いんだけどね。何よりこの報告書の不備の証拠になるし」
まあ、そうなんだけどあいつがそう簡単に出てくるかな?
そもそもあいつは普段何処にいるんだ? しかも基本俺一人の時にしか現れないし。
「この艤装どうする? 持ってきちゃったけど……」
「持っていきましょう。ここに置いておくわけにはいかないわ」
叢雲は壊れた時雨の艤装を持つと外に出ようとする。
すると、艤装からネジが零れ落ちる。
「これ相当傷んでるわね。どうにかして直せないかしら?」
「しかし、ここが解体されてからこの辺りの海域は少し物騒になりましたな」
3年前はこの辺りもちゃんと守られていたらしいがあの鎮守府が解体になってから深海棲艦の進攻が激しくなりこの近海にも現れるようになったらしい。
「いい? あんたもちゃんとこの近海くらいは守れるようにならないとこうなるのよ」
おいおい、脅しかよ。これでも最近はちゃんとやってるんだぜ。
俺たちは士官学校の工廠に時雨の艤装を預ける。
「それじゃあ、とりあえずこれメンテナンスしておいてもらえないかしら」
「……これをですか? まあ出来ることはしますけど」
工廠の人はかなり戸惑っていたがとりあえず保管しておいてくれるらしい。
しかし、疑問は残る。結局時雨は俺の前に現れたり消えたりして何がしたいのだろうか?
自分の存在が面倒につながるということを恐れているのだろうか?
何故、艤装があんなことになってまで帰ってこれたのだろうか?
しかし、そのすべては時雨に会った時に……少し聞きにくいな。
そんなことを思いながら帰路に就くのだった。
そして2週間がたったころ俺はあきつ丸に呼び出された。
「何で俺だけ呼ばれたの?」
「実はこの間の件なのでありますが……」
あきつ丸はあまり浮かない顔だった。
「まあ今回の騒動で色々とボロが出た上層部の連中がいて一斉検挙に移ったのでありますが、この資料について問い詰めたところある人物からまあ賄賂を受け取っていたことが分かったんですよ」
「ある人物って?」
あきつ丸は大きなため息をついた。
「艦娘の生態なんかに興味のある研究者たちであります。艦娘の存在が確認された当時から艦娘に関して研究しようとした組織が多数あったのでありますが、現元帥が作り出したシステムによってそれはかなり難しいものになっていたのであります」
「じゃあ、どうやったんだよ」
「本来あの手の連中は大概は何かしらの所から資金援助を極秘裏に受けているであります。深海棲艦や我々艦娘の存在は金になるでありますからな。研究により何かしらの成果が得られれば、その資金援助をした組織がもうかる仕組みになっているであります。我々の戦闘時のデータなんかも裏でどこに送られているかわからないであります」
「そいつらの目的は何なんだ?」
「さぁ? もしかしたら我々の細胞とかで新しい生物兵器やクローンなんかを作るつもりなのかもしれませんな」
あきつ丸は冗談交じりに笑っていた。
しかし、そんな話を俺にされても困る。上層部に裏で賄賂してたやつがいたとかいう情報は、俺を直接呼び出して真っ先に伝えるようなものとは思えない。
「まぁまぁ、話を聞くであります。これは彼女の事にもつながるでありますからな」
「彼女って……まさか」
「そう、時雨殿の事であります。彼女の話も実は出てきたのでありますよ」
時雨が……その上層部と研究者との賄賂に関係していた? どういうこと?
「それは……」
「あきつ丸さん! 大変です!」
突然入ってきたのは時雨の艤装を預けた工廠の従業員だった。
「時雨さんの艤装が消えてしまいました!」
「やっぱりお前が持って行ったんだな」
艤装の消失を聞いた俺たちはその犯人であろう時雨を探し回っていた。
壊れた艤装をもってたたずんでいる時雨を発見した。
「まあ、もともと僕の物だからね。でも、持ってきてくれてありがとう提督。ずっと探してたんだ」
時雨は自分の艤装をその場に置くとその上に座る。
「なぁ時雨、その……聞いてもいいか?」
「何だい提督? もしかして僕に興味があるのかい? なんでも聞いてよ」
何でも聞いてよいといわれたものの、やはり聞きにくい。彼女が轟沈判定の事とか、あきつ丸から聞いたこととか……まあ、まずはそこからだな。
「お前、あの鎮守府で何があったんだ?」
「……ああ、あれの事かい。じゃあ、僕が轟沈判定を食らってることも知ってるんだね。あれはね、間違いなんかじゃないんだよ。僕は確かに轟沈したよ。艦娘としてね」
艦娘として? それって……
「僕はもう艦娘としての力は残ってないんだよ。HP0で戻ってきて出撃する事が出来ない。いわば、バグのようなものさ」
時雨は自分の事を「スクラップ」と呼んでいた。彼女はもう戦える体ではなかったということか。
「みんな必死に僕の艤装を直そうとしたんだ。でもだめだった。それで、僕の提督だった人は辞職を迫られたわけさ。僕は絶望したよ、結局僕が提督を辞任させたようなものさ。しかも、僕にはもう提督の役に立てるような力は何も残ってなかったからね」
時雨は自分の艤装から立ち上がるとそれを持ち上げる。その時、時雨の艤装からネジがポロポロと零れ落ちる。
「でも僕は幸せだったよ。結局最後には提督の役に立てて僕は幸せだったんだ」
「幸せ?お前それ本気で言ってんのかよ?」
俺はあきつ丸から艤装の消失の話を聞いてから移動しながら少しだけ話を聞いた。それを聞いてお世辞にも時雨が幸せだっただなんて思えなかった。
「だってお前は売られたんだぞ!大金と引き換えにお前は研究材料として研究機関に・・・お前それでも幸せだったっていうのかよ!」
時雨は少しキョトンとすると笑顔で言い放った。
「もちろん幸せだったさ。だって、提督が幸せになれるんだから」
「こんな僕でも提督の役に立てる最後の任務さ。嬉しかったなぁ、もう役に立てないと思ってた分満たされた思いだったよ。思わず泣いちゃったものさ」
「提督が提督でいられるうちに最後に役に立てるチャンスだったからね。喜んで受け入れたさ。そして連れていかれた。なんでも、どんなに傷ついた艦娘でも瞬時に治すことのできる薬を作ってたんだって。そのために僕の体は何度も傷つけられたさ」
「折られて、擦られて、抉られて、焼かれて、切られて、撃たれて、抜かれて、千切られて、除かれて、殴られて、捻られて、絞めつけられて、縛られて、爆ぜられて・・・何度も何度も同じ事の繰り返しさ。でも、僕は死ねないんだ。まあ、もともと死んだようなものだったからね」
「でも、それでも幸せだったんだ。だってこうやっている間も提督は幸せでいてくれるんだから」
それが、時雨の空白の3年間だった。
俺は言葉を失った。何と声をかけてよいかわからない。なんでそれで幸せを感じられるのかわからない。艦娘はみんなこうなのか?
「じゃあ何で俺の所に来たんだよ。お前にはその幸せでいてほしい提督がいたんだろ?」
「死んだんだよ。提督は死んでしまったんだ。仇を取ろうとも思ったけれど自分で死んだんじゃしょうがないよね。その時になって僕はそこにいる意味を失ったんだ。そんなときに君の事を教えてくれた奴がいたんだ。君ならこんな僕でも役に立ててくれるって」
俺はそいつの事がなんとなくわかった。
「白露か?」
「知ってたんだね。いやぁ、ホントに腹が立ったよ。僕はこんなに何も出来ないのに艦娘である事すら出来ないっていうのに白露は何だって出来るっていうじゃないか」
時雨はネジを拾い上げる。するとそのネジは時雨の腕位のサイズになった。
「艤装は僕の一部だからね、こんなことも出来るのさ。ねぇ提督、僕はもうどんな提督の役に立つこともないと思ってたんだよ。なんせ僕は艦娘の力を失った艦娘……いや、もう艦娘を名乗るわけにはいかないよね、今も戦ってる艦娘達に失礼だ。でも、こんな僕でも役に立ててくれる君がいてくれてよかったよ。だから、僕は君に幸せになってほしいんだ」
「幸せって、人によって違うっていうよね。不幸って言ってるやつは贅沢なんだよ、今の自分より不幸な奴は絶対にいてその人が不幸を感じてるとは限らない。なんで自分が人生の本当にどん底にいるってわかるのかわからないや」
「幸せはね、不幸を受け入れることだよ。提督」
「不条理を、誤射を、不都合を、裏切りを、理不尽を、まるで艦娘にとっての提督のごとく受け入れることで僕みたいに幸せになれる」
「僕は駆逐艦としての力は失ってしまったけれど、代わりにそんな
「僕にとっての幸せは君を幸せにすること。それさえできれば僕は満たされるんだ」
そして、時雨は持っていたネジを俺の胸に押し込んだ。
「ねぇ……提督、僕と
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