鰤を刺身でたくさん食べたい
誤字訂正してくださった方ありがとうございます
「それって何も解決してなくない?」
「まぁ、そうだな。結局のところ問題を先延ばししただけだからな」
叢雲と先日の事件についての報告をする。
「でも、あの場ではああするしかなかったんだよ。その場で自殺……じゃなくて自消? される方が困るからな。とりあえずは生きる目的があることが大事なんだよ」
時雨には経験値が足りないのだ。ああいった仕事を与えれば否応にでも人と関わることになる。それで時雨が少しでも変化してくれるのを待つしかない。
俺だけじゃない、他の誰かをそして自分自身の幸せをもっとたくさん願えるようになってほしい。それが時雨にとっての不幸だとしてもだ。
つまり、時が解決してくれるのを待つというわけだ。
「はぁ、人が心配して探してたら時雨とイチャイチャしてたなんてね。
叢雲は大きなため息をつくとお茶をすする。
というか、何がイチャイチャだ。あんなイチャイチャもうごめんだよ。
「それはそうと、今、上の連中は大騒ぎよ。時雨の存在が上層部でチラついたせいで何人かの人間が閑職に飛ばされたり解雇されたりしたわ。今はあきつ丸たちが隠し通そうとしてるけれどこの件で時雨が生きてるんじゃないかって勘づき始めてる」
「そいつらに時雨が見つかったらどうなるんだ?」
「……少なくとも快くは思わないでしょうね。時雨は海軍で人身売買が行われたという海軍の汚点の証拠となるんだもの」
全く、困った奴らだ。今まで国のために戦ってたやつを自分たちの害になるからって叩き落そうとしやがって。あいつはもう戦う力も残ってないんだぞ。
まあ、そいつらは時雨で甘い汁を吸っていた奴らだ。自業自得ってやつだな。
しかしそういうこともあり、あまり公式的な処置がとれないため寮にも入れてあげることも出来なかった。
結局、大淀さんが匿ってくれることになった。というかそもそも時雨は大淀さんの所に匿われていたらしい。普段時雨が何処にいるのかと思っていたら意外と身近なところで匿われていたようだ。
どうりで俺と時雨が初めて出会った時時雨の事を唯一知っていたわけだ。
何故匿ったのかと聞いてみると。
「人は伝説が好きなんです。たとえ沈んでしまってもそれだけは沈むことはありません。それは後に残る者たちにとってのあこがれや畏敬になります。特に数多の戦場から生還した駆逐艦の伝説なんてそうですよ。私もそんな伝説にあこがれる艦娘の一人なんです」
ということらしい。
しかし、まあ何というか。とりあえず一段落がついた感じだろうか。
そもそも俺はまだ正式に提督になっているわけですらないからもう少し落ち着いてからにしてほしかったが……
「何休もうとしてるのよ。あんたが時雨の自殺を止めてそんなことを言ったんだったらあんたには時雨の事をきちんと面倒見る義務があるわ。シャキッとしなさい」
叢雲からのきつい激励の言葉が飛んできた。それに関しては当然だと思っているが、時雨の過去についても色々としがらみが多いし難しいものである。
叢雲には研究所であったことに関しての一件はまだ話していない。また面倒を増やしたくはないのだ。
「大淀さんの部屋はここね。大淀さんはいないらしいわ」
ドアをノックすると時雨の声が聞こえる。
「入るわよ……あれ? いない?」
確かに部屋の中から時雨の声が聞こえたはずなのに部屋に時雨の姿はなかった。
まさか……自分を消した? 嘘だろ今更そんなことをするなんて……
「何をしてるんだい? 早く部屋に上がりなよ」
いつの間にか後ろに回られていた。時雨は俺達の背中を押して部屋の中に押し込む。
「今日は何をしに来たんだい? 提督は僕と一緒にいる事を望んだとはいえ、僕と一緒にいる所を見られるのは避けた方がいいと思うんだけど」
「ああ、それなんだけど。用があるのは俺じゃないんだ」
用があるのは叢雲なのだ。
「私は貴方に謝らないといけないわ。私の父は非人道的な連中から艦娘を守るために今のシステムを作ったのだけれど、そのシステムには穴があった。父の代わりに私が謝るわ」
叢雲は時雨の前で頭を下げた。
「謝ることはないさ、どれもこれも僕が望んだことなんだ」
「でも、貴方はそのせいで貴方は日の目を浴びる事が出来なくなってしまったのよ。これから自分の存在を隠さないといけないのよ。本当にそれでいいの?」」
「僕にとっては提督が幸せでいてくれればそれでいいのさ。それに僕は雨だよ、もともと僕は日の目とは無縁の存在なんだよ。まあ、それでも僕に謝りたいのなら燃料や弾薬の代わりに毎週のジャンプ代をもらえればいいさ。これは僕の燃料代わりみたいなものだからね」
叢雲は俺に困ったように視線を送る。な? こんな感じなんだよ。
「……はぁ、わかったわ」
「ん、ありがとう。そろそろお金が切れそうだったんだ」
時雨はジャンプを読み終わったらしくそれを本棚に直す。
「お金? 誰からもらってたんだ?」
「ああ、それなら白────」
時雨がそこまで言いかけると大淀さんが戻ってきた。
「ああ、叢雲さん。あきつ丸さんが呼んでいますよ」
「え? ああそう……」
叢雲は大淀さんに言われるがまま、部屋を出て行ってしまった。
何というか今白露って言いかけなかった?
「何? お前もしかして白露からジャンプ代貰ってたの?」
「……」
目をそらすな。まあ、もしかして白露は結構妹を甘やかすのかなぁ?
「それで? その後調子はどうなんだ?」
「うんそうだね。まさか、提督が僕が存在することを望むとは思ってなかったけれど、僕はこの通りさ」
……少し元気ないのかな? 何というか疲れが見える感じがする。
でもジャンプは読むんだな。
「ああ、少し……何というか白露と、喧嘩になってしまってね。まあ、僕が勝てる相手ではなかったんだけどね」
まあ、勝てないわな。何で喧嘩になったんだ?
「そもそもの発端は僕が提督に危害を加えたことを怒られてしまってね。白露型のマイナスイメージに繋がるような事をするなと言われてしまってね。まあ、そもそも存在自体がマイナスの僕には無理な話なんだけどね」
ああ、あのネジを差し込まれた時の事だろうか。
「それで僕はそもそも消えるつもりだったって言ったら……少し怒られちゃったんだ。まあ、せいぜい10回死んだ程度かな?」
ん? 自分が消えることを怒られたのに10回死んだの? 死んでほしくないから10回死ねって怒られたの? 白露もよくわかんないなぁコレ。
しかし、そうか……白露と喧嘩したのか。なんだろうこういう時仲を取り持ってあげた方がいいのだろうか?
しかし、白露の気持ちもわからなくはない。白露はかなり長い間独りぼっちだったようで、俺は初対面であったが本人はかなり久しぶりに俺と再会した時かなり嬉しそうだったし、時雨の事を本気で心配していた。
これは俺の予想だが、彼女はただもう一度姉妹達に会いたいだけなのだと思っている。
時雨はもう出撃できる体ではないが、白露にとってはもはやそれでいいのかもしれない。その証拠に時雨にはもう一度艦娘の力を取り戻すことを強要することは一切していない。
ただ、時雨に生きていてほしいのだ。たとえどんな姿でも、どんな考えをもっていたとしてもだ。
俺としてはその白露の気持ちを時雨に伝えるべきだと思った。
「いや、それは喧嘩した原因じゃないよ。その後、白露がサービスとか言って勝手にジャンプに色を付けたんだ。ふざけてると思わないかい? ジャンプで色がついてていいのは表紙と巻頭カラーだけなんだ。それがわからないなんて僕の姉として恥ずかしいよ」
「ふざけてるのはお前らの方だよ」
後10回くらい死んだ方がいいんじゃないか? もう死なない体なんだろ?
何お前らチートみたいなやつらがアホみたいなことで喧嘩してんだ。
まあそれも、微笑ましい姉妹の姿だろうか?
……やっぱなんか違うか。