「ご覧になって鈴谷。新作の和風パフェですわ!」
「なぁ、あのさ……」
「ねぇねぇ、これ見てよ! このショートケーキ期間限定なんだって! えっ!? これなんていうんだっけ? ……シュトーレンか!」
全く聞こえていない、一体いくつ食べるつもりなのだろうか?
「なあ、お前艦娘になったばっかりだろ? そんなにたくさん食べてお金大丈夫なのかよ」
「え? これ提督が奢ってくれるわけじゃないの?」
どうやらとんでもない誤算があったようだ。俺は鈴谷を問いただす。
「だって、青葉があの司令官は結構甘い人ですからスイーツくらい店ごと買いっとってくれますよって……」
「おい、青葉?」
目を泳がせる青葉。こいつは約束を取り付けるためにあることない事吹き込んだんじゃないか?
「……まあ、いいか。わかったよ、少しぐらいならいいよ」
「やったぁぁ!! じゃあこれ全部食べていいんだね?」
「いいわけねーだろ!!」
人から奢ってもらうんだから少しは遠慮しろ。俺ら一応初対面だからな!?
「ええ!? じゃあ、まさかこの中から厳選しないといけないの!?」
ええ!? じゃないが? まずこんなに食べたら色々とんでもないことになるだろ。まず何でこれケーキ2つも持ってきてんだよ。
「だってこれカロリー50%オフなんだよ! つまり、二つ食べれるってことじゃん」
うーん、これはツッコミ入れた方が負けか? とはいえこのままでは話が進まない。後で青葉はお説教するとしてどうにかして鈴谷とのケーキの話の妥協点を見つけないといけない。
「わかったよ、ただし半分は俺達に分ける約束をするならいいよ」
「いいよ、商談成立だね」
なーにが商談だ。というかこれ俺が払うのか? 俺まだ提督にすらなってないんだけど?
席に座ると鈴谷と熊野は、いろいろな事を愚痴りだした。
「いやぁ、私もねぇ。軍のために色々やって来たんだけど。やっぱ給料あるけど規制多いし自由少ないしでイヤになっちゃってさ。そしたら私艦娘の適性あるっていうじゃんだからこっちに来るついでになんかうちらが持ってる情報でお小遣い稼げないかなぁて思ってね」
いやそれ内部情報横流しして稼いでんのかよ。それ普通に大問題なんじゃ……
「大丈夫、本当にヤバい奴は教えてないしここの中でしかやってないから、外側に漏らしてるわけじゃないでしょ? 一応ここ軍だし」
「大丈夫なわけないだろ。普通に粛清もんだわ」
ホントにこんなことで海軍は大丈夫なのか? これ内側から崩壊して人類負けるぞ。
「今回のようなことは特例ですわ。青葉にはもう二度と情報は渡しません、それで聞けば今回のクライアントはこの青葉の司令官というではありませんか。良いですの? 司令官たるもの自分の部下である艦娘の躾けはきちんとしなければなりません」
熊野は青葉をぎろりとにらむ。
「と・く・に! この青葉は特に厳しい躾けが必要ですわ! 気を付けてくださいな、こいつは不確かな情報を皆にばらまくクソッたれ野郎ですわよ」
「ちがっ、ちがい……ますよ……」
はっきり否定できないところを見るに何か心の奥でつっかえるものがあるのだろう。そこは俺としても反省していただきたい。
「そういえば話変わるけどさ、提督って扶桑さん達と知り合いだったんだね」
知り合いというか……顔面を蹴られた思い出しかないが……
「まあ、そうだったのですわね。あの方たちにはお世話になりましたわ。航空機の扱いはあの方たちに教えていただきましたし」
なんだって? あいつらがそんなことを? え? もしかしてひどい目にあってるのって俺だけなの?
「そうそう、特に最上が仲良かったよね」
「ふーん、最上とねぇ……」
もしかして最上はかなり物好きな変態かもしれない。そんな奴に狙われるなんて……いや時雨もかなりの変態だったか。類は友を呼ぶという奴だろうか?
「最上はいつもあのような方まで戦場に行くこと憂いていました。戦場で一番大事なことが抜けている人たちでしたから……」
「何だよそれ?」
「「意志」ですわ。どのような状況下であろうとどのような理不尽な任務であろうと、必ず生きて帰るという意志が大事なのですわ。その意志が極限状態で力を生むのです。そして……それが時雨が生きているかもしれないと最上が信じている理由ですの。時雨さんは……そういう方だったそうですから」
「え? 最上は時雨の事よく知ってるの? お前ら最近艦娘になったんだろ?」
「え? ええ、そうですわね。私達はよく存じませんが、最上は艦娘になる前に頻繁にあの鎮守府に用があって行っていたようですわ。まあ、主に視察といっていましたが……」
と、言うことは最上は時雨の顔も知ってる上にあいつがとんでもない幸運の持ち主の艦ということも知ってるわけか……。俺としては最上に時雨がまさかこの施設内にいるとは思わないでいてくれているというのが理想ではある。
もし、調べられたとしても時雨が前いた研究施設とかだろう。あそこは時雨曰く、もぬけの殻らしいから何かが見つかることはないだろう。
そこで行き詰っていてくれれば一番いいんだけどなぁ。まあ、たとえ見つかったとしても時雨は艦娘である事を捨ててまで生き残ったわけだからしぶとすぎるくらいにしぶといわけだからまだ何とかしそうな気がする。
「ですが、扶桑型の方達にはそれがありません。まるで死に場所を求めているような方たちでした……。本来あのような方たちは艦娘でなければ不適合者として戦場へは出さないのです。隊としてもそんな存在は逆に隊を危険にさらします」
そこまで言うと、しゃべりすぎてのどが渇いたのか注文していた紅茶を飲み始めた。紅茶の飲み方とかはよくわからんがなんだか様になっている気がする。もしかしたらいつもよく飲んでいるのだだろうか。
「……苦い」
そうでもなかった。
「扶桑さん達は散々性能が悪いだの不幸だの呼ばれてるけど本当の欠陥はそこなんだよねぇ。実際の所、山城さんはいつも誰かと組んで戦うような事してないんだよ。それは私達艦娘にとっても自殺行為だよ。死ぬために戦場に行くような人を最上は絶対に許さなかったからね」
なんか……話を聞く限り最上が悪い奴に思えない。まあ、その妹の話を聞いただけだから確信があるわけではないがそんな芯のあるやつがただ誰かの命令のためだけに時雨を狙うようには思えない。
「ですから、最上はいつも言っていましたわ彼女達を……「幸せ」にしてやりたいと」
ふーん、あんなやつのこと幸せにしたいねぇ。なんだよそれ滅茶苦茶お人よしじゃん。
でもなぁ、結局のところ最上がなんで時雨の事狙ってるのかわかんないなぁ。扶桑と山城の事はあまり関係なさそうだし……
結局こいつらにケーキ奢ってるだけの奴になっている。
「ああ、司令官。電話なってますよ?」
ホントだ。マナーモードにしてたから気付かなかった。
……また時雨からだ。ちょっと前に暫く電話はかけるなと言ったばかりなのに……いや、もしかして緊急事態か?
俺は店の外に出ると、電話を取った。
「なぁ、さっきも言ったけど今やばいからあんまり頻繁に掛けてくるなって」
「ああ……うん。提督ゴメンね、声が聴きたかったんだ。提督も危険な事をしてるわけだし心配になっちゃって……」
「……大丈夫だ。俺を誰だと思ってるんだ?」
「うん、確かにそうだね。杞憂だったよ、僕の事は心配しなくていいから。今日の所は一度帰ったら?」
「そういうわけにはいかんさ。お前の事が気になるし」
「僕の事そこまで心配してくれてるんだね。嬉しいよ。でもそのままだと提督の体が心配だよ、もうすぐ卒業試験なんでしょ? 自分の身ぐらい自分で守れるさ」
「わかったよ。そこまで心配しなくてもお前の強さは身をもって知ってるから大丈夫だよ。ああ、ところでさ聞きたい事があるんだけどさ」
「ん? なんだい?」
「お前は誰だ? なんで時雨の電話番号からかけてきてんだ?」
「バレちゃった?」