「……えーと? ちょっと待ってて」
俺は山城を席に待たせるとトイレに向かった。
本当に用を足しに来たわけじゃない。助けを呼ぶためだ、もしかしたらこの後あの悪魔超人からルール無用のデスマッチを組まされることになるかもしれない。
とりあえず青葉に連絡するしかない。
「もしもし、司令官ですか?」
「もしもし青葉? ちょっと困ったことになったんだ。助けてくれないか?」
「あー、すみません。今少し忙しくてですね」
なんだろうか? というか、結局昨日あの後青葉はどうなったのだろうか?
確か大井の面倒を片付けるためにあの場に残ってくれたんだったか……
「できればこっちが助けてほしい……あっ! 熊野さん!! 待って!! 違うんです!! 決してこの青葉悪意があって嘘をついたわけでは……だから焼き土下座は勘弁してください!! 青葉はまだステーキにはーー」
そこで電話が切れてしまった。うん、何が起こっているかよくわからないが……うん、青葉はソロモンの狼と呼ばれた不死身の艦娘だからきっと無事に戻ってくるだろう。
そういえばそもそも事の発端は時雨だ。山城が俺のところに現れたことを伝えなければならない。
「おい、時雨! 大変なんだ!」
しかし、通話中になっているのに向こうから返事がこない。
「……時雨? どうしたんだ?」
「ねぇ提督? 僕の声って色気無いかい?」
……? どうしたんだろう? なぜ突然そんなことを言うんだろう?
「提督、村雨の声と比べて色気が無いって言ったそうじゃないか。それは本当かい? 答えてほしいな」
あ、そういえばそんなこと言った気がする。村雨……あいつ時雨に密告しやがったのか!
「そ、そんなことより山城が俺のところに……」
「そんなこと? 僕の乙女心が傷ついた話はそんなことで片付くのかい? 君のその何気ない一言で自分の妹からマウントとられた姉の気持ちが理解できるのかい?」
ヤバい、時雨がめんどくさいモードに入ってる。
「ああ、いいんだ。この際だからはっきりさせよう。村雨から聞いたけれど君結構いろんな艦娘から慕われているみたいじゃないか。みんなを集めて一体誰が好きなのか公言してもらったほうがギクシャクしなくていいんと思うよ? うん、そうしよう」
「わかったよ! 謝るからこれ以上俺の事いじめないで!」
「いじめる? おいおい、提督? 僕は君のためを思って言ってるんだ。僕には悪意なんて一つもないし危害を加えようとしたことなんて一度もない。あと勘違いしているようだから言っておくけど村雨は僕なんかよりよっぽど情熱的で積極的だ。気を付けることだね。ああ、これから僕は傷ついた心を癒すために傷心旅行に行こうと思うんだ。それから姉として村雨に姉の威厳を叩き込むことにするよ。それじゃあね、提督」
そうして電話は切れてしまった。どうして……
そもそも山城はどうして俺のところに来たのだろう?
すると、俺のスマホにみたことのない電話番号から着信が入った。俺は恐る恐る着信ボタンを押す。
「随分と長いおトイレですね? 迎えに行きましょうか?」
「ど、どうして俺の番号を?」
相手は山城だった。もう何が起こっているかわからない。
「最上から聞きました」
あいつかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
俺が戻ってくると律義に俺がいたところの真正面の席に座っていた。
凄い、何が凄いって圧が凄い。
「……えっと? 俺に何か用か?」
「何もしゃべらないで」
「はい……」
山城はしばらく顔を手で覆ってうつむいていた。そして、俺のほうを見る。うーん、美人なのに眉間にしわが寄り俺をにらみつけている。
え? 何? もしかして俺殺されるの? あ、昨日の時雨が俺のところの時雨だってバレたのか?
「ああ、いやあれはほとんど俺は知らなかったって言うか……」
「……何の話よ?」
どうやら違うようだ。だったらなんだ?
山城はしばらく黙ると意を決したように話し始める。
「これまでのことはその……悪かったと思ってるわ。私も姉さまを守るのに必死だったの。あなたのことは最上に聞いたわ、あなたなら私みたいな艦でもちゃんと戦力として使ってもらえるかもしれないって」
話を要約すると、最上に相談に行ったところ俺のことを紹介されたらしい。
よりによって、今まで何度も扶桑に近づいてはぶっ飛ばしてきた提督というだけあってはじめは山城も嫌がったらしいが、
「この提督はすごいんだよ! かつて最前線で活躍した伝説の駆逐艦が頼った提督だからね。きっと君のことも勝利に導いてくれるはずさ」
と言われたそうだ。
あらゆるところに誇張や意図的な情報の欠落が見えるこの最上のセリフを信じた山城は俺のことを頼りに来たらしい。
「何があったとかは聞かないでほしいの。でも……私はどうしても姉さまに勝利を届けないといけない。どんなに情けない役でも、汚れ役でも、不幸な役でもいい……だから私を勝たせてください。お願いします」
山城は深々と頭を下げた。頭を下げているからよくわからないが心なしかすすり泣く声が聞こえる。
きっと今まで山城はこんな風に誰かを頼ったりすることはなかったのだろう。ずっと一人でやってきた彼女がこうやって誰かに頭を下げるという行動自体が山城にとっての成長だったのかもしれない。
そんな一部始終を実はこっそりのぞいてたりした自分は彼女のお願いを断ることはできなかった。たとえそれが最上の思惑通りだったとしてもだ。
「というわけで紹介するぞ。山城だ。仲良くしてやってくれ」
「ほんとに戦艦を勧誘できたの!?」
叢雲に山城を紹介したところこの反応である。
「いやまあ、色々あってな……」
本当にいろいろあったのだ説明するのは難しい。
ほかの艦娘たちもよい感じに士気が上がったのではないだろうか?
「これで少しは勝率が上がったわね。早速作戦を立てましょう」
「あの……」
「なに?」
山城が叢雲に話しかける。
「喜んでもらっているところ悪いけれど私はあんまり戦力にならないの、バランスも悪いし、速力も低いし、命中率も悪いし……だから私のことは囮くらいにしか……」
山城の最後の言葉は殆ど聞こえなかった。お前それ自分で言っててダメージ受けてないか?
うーん、しかし初対面相手だとこんなに小さくなるんだな。俺にプロレス技をかけていた時の山城はどこに行ったのだろうか。
叢雲は山城にデコピンをする。
「何言ってるのよ。あんたは戦艦なんだから私たちの後ろで堂々とそのデカい砲を撃ちまくってりゃいいのよ」
「それにそこまで何かあるんだったら艤装に問題がある可能性もあるわね、知り合いに見てもらいましょうか? まあ、それを決めるのは司令官だけど」
全く異論はなかった。その知り合いというのは誰なのか気になるが……
「ああ、あとそれとあなたの弱点は作戦会議で私達に全部言いなさいそこは私たちがカバーしてあげる」
「・・・ありがとう」
山城は静かにお礼を言った。