みんなは中二病という症状を知っているだろうか?
それは第二次性徴期、主に中学二年の男子女子に唐突に発病する不治の病。
自分は中二病などかかっていないなどと豪語する人間も少なからずかかっている恐ろしい病気。
僕、こと
中学一年生の時、SFライトノベルにすっかりとハマってしまい、それから一年間そればっかり読んで生きてきた。
勿論、騒がしい教室の中で黙々と本を読み続ける根暗に友達など出来るはずもなく、未だに友人と呼べる人間は周りにはいない。
まあ、そんなものは僕には必要ないと思っている。
僕にはSFラノベさえあればいい。
というより人とうっかり話そうものならラノベの主人公の口調が出てきてしまいそうで怖いのだ。
うっかり男の事を卿とか言ったり、女の事をフロイラインとか言ったりしそうで怖い。
僕は中二病ではあるが、世界観に浸ったり妄想するのが好きな中二病であって、このように表面的には出したくないのだ。
目立ちたくないと言えばいいだろう。
というわけで、今日も僕はこの見滝原中学の教室の隅で本を黙々と気配を消して読むのであった。
そしていつのまにか昼が来る。
チャイムの音と同時に目線を上に上げると、前の方の席で見知らぬ女性がクラスの連中に囲まれていた。
見ない顔だったので、すぐに転校生だと気づく。本に夢中で気づかなかった。
それにしても端正な顔つきをしており、クール系美少女と言った感じだ。
ああいう子はSFではパイロットで女上官ポジションが似合う。
おっと、こっちを向き始めた。こういう時はさっさと目線をそらすに限る。
そして、目線をそらしたついでに飯を食いに行こうと、僕は弁当を持ってとある場所へ向かった。
場所とは屋上であり、ここは人気スポットという訳ではなく、逆に昼休みには不人気だ。
たまに強風が吹くので、飯が食べづらいと言われる時もある。
まあ、僕はサンドウィッチだけなので問題はないのだが。
定位置に座り、本を読みながらサンドウィッチを頬張る。
そして、チラリと後ろの方を見る。
そこには黄色の綺麗な髪をした豊満な胸を携えた女性が屋上で黄昏ていた。
彼女の名前は知らないが、屋上に来ると高確率で出会える。
間違いない。彼女も中二病だろう。
憂いを帯びた顔で屋上にて黄昏る。
何か絶対設定をつけて黄昏ているに決まっている。
多分、夜な夜なポエムとか必殺技とか考えてるんだろうなって思ってしまった。
おっと、女性を詮索するなど、失礼に値する。
すまない、名も知らないフロイライン……僕はこれにて失敬するよ。
パタンと少し大きめな音を出して本を畳む。
これは少しものお詫びだ。君は一人では無い、安心したまえ……また一緒にご飯を食べてやろう……と。
「…………誰?」
僕は帰りにとあるCDショップへ寄った。目的は好きなSFラノベがアニメ化した際、オープニングに流れた曲を買うためだ。
そして、レジにて会計を済ませ、帰ろうとしたら、鹿目まどかと同じくクラスメイトの美樹さやかの姿がそこにはあった。
鹿目は何やら少し険しい表情で、CDショップの立ち入り禁止区域へと入り込む。
おいおい、何やってんだ。
僕は少し注意してやろうと、同じように足を踏み入れた。
「おい、鹿目さん」
「!? 八千くん……?」
「ここは立ち入り禁止区域だ、危ないから早く外へ出よう」
「で、でも……」
「?」
「八千くんは聞こえない? 頭の中で……助けてって声……」
?????
何を言ってるんだ? 鹿目さんは……はっ! まさか……彼女もまた中二病の被害者!?
仕方がない……あまり目立ちたくはないが、そうも言ってられない。ここは彼女に恥をかかせない為にも全力で乗ってあげなければ!
「助けてという声か……生憎、僕には聞こえはしないが、実に興味深い……協力しよう。鹿目さん」
「ありがとう! 八千くん!」
当たり前だ……こんな面白そうな事……もとい重要そうなシーン、ついていくしか無いじゃないか!
おそらく鹿目さんは謎の生命体に呼ばれている設定なのだろう。
こんな女の子が呼ばれると言ったシチュエーションは……成る程……魔法少女物だろうか?
彼女はおどおどした様子で前に進んでいく、すると彼女と僕の目の前に突如としてボロボロの白い生命体が落ちてきて、びっくりして倒れようとした彼女を抱きかかえる。
成る程……ここまでの細工をしているとは……鹿目まどか……本気だな!
「あ、ありがとう……」
「なに、礼には及ばん。しかしコイツは……」
俺はそれっぽい事を言って、ぬいぐるみに目を向ける。
しかしよくできたおもちゃだな、うめき声とか上げてるぞ。
「貴方なの!?」
「うう……助けて……」
喋った! このおもちゃ喋った! すげぇ! 鹿目さん……ここまで本気で魔法少女ごっこをしているとは……素晴らしい執念だ。
そして、目の前で大きな音を立てて、鎖が落ちてくる。
驚いて目線を上げると、そこには魔法少女の衣装に身を包んだ転校生がその場に立っていた。
「!」
「っ!? 貴方……誰っ!?」
なんという事だ……まさか転校生まで巻き込んでいるとは思わなかった……。
しかも彼女……衣装まで来てノリノリじゃないか! 演技にもかなりこだわっているようで、僕を見るなり驚いた表情を挙げた。
とにかく僕は誰と聞かれたから、答えるしかないだろう。
「僕は八千ましろだ。転校生……こんな所で何をやっている?」
「……そう……八千……まどか、そいつから離れて」
僕に少し反応を見せてから、すぐに鹿目さんに話しかける。
成る程……ここでは僕はイレギュラー扱いか……。しかし、このレベルの演技や気合の入りよう……まさか映画部とかの撮影だろうか……。
見滝原に映画部があるかどうかは知らないが、そうだとすれば俺はかなりの邪魔者だろう。変に関わってしまったので後で謝っておこう。
しかし今は盛大に乗らせてもらう。引っ込みがつかなくなってしまった。
「え? だっ……だって……この子怪我してる……だ、ダメだよ! 酷いことしないで!」
転校生は僕とすれ違い、まどかに近づく。
「貴方には関係ない」
「だってこの子! 私を呼んでた! 聞こえてたんだもん! 助けてって!」
「そう」
あいも変わらず凄まじい演技力を見せつける二人。若干蚊帳の外になっているのが寂しくなってきた。
しかし、僕がこの場に立っていてカットの一つも入らないとは……二人とも動揺しているだろうが、監督からアドリブで続けるように指示があったのだろうか……。それならば二人は将来とんでもない女優になれるのでは?
転校生は鹿目さんを見下ろしたまま、ピクリとも動かなくなった。
なんだろうか……コマ割りの時間とかそんなので調節しているのだろうか?
すると、転校生に突如として白い霧が勢いよく噴射される。
僕が驚いて横を見るとそこには美樹さやかが消火器を持って、転校生に噴射していた。
「八千! まどかを!」
僕は急いで、鹿目さんに駆け寄り、手を握って立ち上がらせて走る。
その後で、美樹が消火器を転校生に投げつけて、こちらに駆け寄ってきた。
少しやり過ぎではとも思ったが、これは映画だという事を思い出す。
中学生でここまでのシーンを撮ると言うのか……本格的すぎて少し怖くなってきたぐらいだ。
「八千! まどか! 何よアイツ! 今度はコスプレで通り魔かよ!」
「僕にもさっぱりだ、しかし美樹さん……君までも……」
おっと、メタいことを言ってはいけないな。進行の邪魔になる所だった。
「つか……何それ……ぬいぐるみじゃあないよね……生き物?」
「わかんない! わかんないけど……この子! 助けなきゃ!」
「ならば早く行こう……なんだと……?」
急に僕たちの目の前が不可思議空間になる。
あたりは薄暗く、周りにはよく分からないオブジェやら何やらでいっぱいだ。
すっげ……本格的だとは思っていたが……ここまでするか!? 普通……。
僕の思っている以上に見滝原の映画部はかなりの力を持っているようだ……。
そして美樹さんもかなり演技力が高い。
将来の女優がまた増えてしまったようだ……。
「な、何かいる!?」
鹿目さんが辺りを見渡すと、顔がコットンで覆われたような人形が複数現れた。
ああ……魔法少女物と言えば謎の敵だ。これはかなり僕の心を熱くさせる。
しかし、二人の焦り具合が尋常じゃない。
ハサミのようなものが荊に包まれてジャキジャキと音を立て、不吉な声を上げて僕達に近づいてくる。
なんだ? 装置の故障か何かか? なんだかこちらに対してかなりの敵意を持っているような感じがする。
二人を僕の後ろに隠して、拳を構える。
すまない、舞台を作った人! このままでは被害が出そうなので、先手を打たせてもらう!
「ふんっっ!!」
僕は人形に向かって、拳を放つ。
すると目の前にいた人形はバラバラに弾け飛んだ。
「へ?」
「ええ!?」
二人してかなり驚かれた。
無理もない、目の前の人形が木っ端微塵になったのだから。
これでも僕はかなり鍛えている、服の下はムキムキマッチョメンだ。脱ぐとすごいというのはこの事だろう。
しかし、いつ異世界転生やロボットに乗って戦えとか言われるか分からなかったので、鍛えてあったのが功を奏した。彼女たちに怪我はないようだ。
しかし、人形たちは未だこちらに向かってくる。
いくらなんでも数が多い、そう思った時だった。
周りを囲むように鎖が落ちてきて、そこから強烈な光を放つ。
周りにいた人形たちは全部消滅していた。
すげぇ演出……。これももしかして、演出の一環だったのか? 困った、人形を一つ壊してしまった。後で弁償とか言われないだろうか?
「危なかったわね、でももう大丈夫」
後ろを振り向くと、階段から降りてくる一人の少女。
あれ? この人って確か……屋上によくいる。
「あら? 貴方……屋上の……」
「君か、こうして話すのは初めてだな」
「ええ、キュウべぇを助けてくれたのね、どうもありがとう。その子は私の大切な友達なの」
「礼なら、鹿目さんに言うといい、僕は手伝っただけに過ぎない」
いつのまにか僕の後ろに隠れていた鹿目さんをこの人の前に押し出す。
「私……呼ばれたんです、頭の中に直接この子の声が」
ふむ、どうやら魔法少女物の映画で間違い無いようだ、それにこのシーンにカットも入れられないのでいつのまにか僕も演者の一員として放置されているのかもしれない。
些か小っ恥ずかしいが、結構僕は義理固い方だ、ここまで楽しませてくれたお礼に最後まで演じ切らせてもらおう。
「ふーん、なるほどね。その制服、貴方たちも見滝原の生徒みたいね。二年生?」
「貴方は?」
「そうそう、自己紹介しないとね……でもその前に!」
そう言うと彼女は手に持っていた宝石みたいな物を宙に投げる。
成る程、あれが変身アイテムか、ということは!
案の定、彼女を包み込むように黄色い光が発光する。
「ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」
「魔法少女……か」
ポツリと僕が一言言うと、彼女が後ろを向いてニコッと笑った。
そして、一つ一つ衣装に身を包んでいく。
黄色を基調としたゴスロリちっくな衣装、素晴らしい……こんな変身シーンが目の前で見れる日が来るとはな……。生きてて良かったというのはこの事か。
彼女は銃を出現させ、人形どもに向かって放つ。
そこらかしらで爆発しているのでとんでもない火薬の量だ。
立ち入り禁止区域をこんなセットにして爆発までとなると少し、問題にもなりそうだが今はそんな事はどうでもいい。
見滝原中学の映画部は凄い。僕はこの時こう思った。
彼女が攻撃を終えると、辺りが素の風景に戻る。
二人も安心して、ホッとしているのが見えた。
すると、目の前に転校生が現れた。
なんだ? 目線がこっちを向いている、いや鹿目さんに向いているのか?
僕は何か鹿目さんに因縁があるシーンだと思い、庇うように前に立つ。
鹿目さんはキュウべぇとやらを抱き抱えながら僕の服の裾を掴む。
すると転校生は激高したような表情を浮かべた。
どうやら当たりを引いたようだ、一先ずホッとする。
「魔女は逃げたわ、仕留めたいのならすぐに追いかけなさい。今回は貴方に譲ってあげる」
「……私が用があるのは」
「飲み込みが悪いのね、見逃してあげるって言ってるの。ここには武術の達人もいるのよ? 貴方一人で私と彼……相手に出来ると思って?」
ん? 武術の達人……ああ僕の事か、いつのまにか僕も戦う事になっているのだが、まさか演者の一員として認められたのか?
このまま映画部に所属となると少し不味い、ラノベを読む暇がなくなってしまう。このシーンが終わったら丁重にお断りしよう。
「お互い、余計なトラブルとは無縁で居たいとは思わない?」
彼女がそう言うと転校生はより一層こちらを睨む。
そして、静寂な空気が流れ転校生が背を向け去って行った。
「ふう」
四人して一息つく。
やっと終わった……。四人の演技が凄くてこちらまでかなり緊張した。さて……人形一つ壊してしまったので──。
逃げるか。
僕は颯爽と後ろを向き、三人から去ろうとした、しかし後ろから声を掛けられる。
「貴方、名前は?」
……名前を聞かれたと言う事は、多分請求書を送りつけられるのだろう。
……逃げれなかった事を悔やみ、観念したように僕は名前を言う。
「八千ましろだ」
「そう、私の名前は巴マミ、今からキュウべえを治してあげないといけないから、少しここに居てくれるかしら?」
ぐっ、ここに居ろと命令されてしまった。お小遣いで足りるといいのだが……。
「貴方には色々と聞きたいことがあるしね」
そう言って巴さんはキュウべぇというおもちゃに手をかざす。
手から暖かい光が流れ、どうやらそれでそれを癒しているようだ。
ああ、まだ撮影は続いていたのか。それでここに居ろと……まあ良い、隙を見て逃げよう。
「ありがとうマミ! 助かったよ!」
「お礼はこの子達に、私は通りがかっただけだから」
癒し終えた後、僕たちに向かってお礼を言ってくるマスコットキャラ。
ふむ、いかにも魔法少女物らしくて良い演出だ、思わず頰が緩みそうになる。
「どうもありがとう! 僕の名前はキュウべぇ!」
「貴方が私を呼んだの?」
「そうだよ、鹿目まどか! それと美樹さやか! で…………君は誰だい?」
このおもちゃ、こういうアドリブも入れられるところを見ると、誰かが別の場所でアフレコしているのだろうか。
こうして聞こえてくるなんて不思議な感覚だ。
「八千ましろだ、僕の事は気にしないでくれ」
「……僕が見えて、声も聞こえるなんて……」
キュウべぇは少なからず驚いた素振りを見せる。
機械なので、感情は一定のままのようだ。
「というか! どうして私たちの名前を!?」
美樹さんがキュウべぇに向かって、疑問を問いかけた。
「まあいいか、僕、君たちにお願いがあって来たんだ!」
そう言ってキュウべぇはニコッと笑い、定番のセリフを言った。
「僕と契約して魔法少女になって欲しいんだ!」
かくして、僕と魔法少女達の少し不思議な話が始まった。