とある魔法少女は語りかける。
もし私の事を忘れたとしても、私の力は貴方に受け継ぐ。だから貴方はその力で使命を全うしてほしい。
それは一種の呪いでもあった。
最強の魔法少女は災害とも呼べる魔女によって葬られ、そしてその命をとある青年に明け渡した。
青年はその時すでに死んでいた。まるで最初からそこで眠っていたかのように目を瞑って死んでいた。
魔法少女は最後に消えかかっていた命をその青年に明け渡す。
燃え盛る家、あたり一面に吹き出る水。コンクリートは割れてビルは倒壊し、あたりの惨状が地獄とも呼べる最中、魔法少女は命を落とし、身体が消え去る。
それと同時に、青年は目を覚ました。
──ー
……内容は思い出せないが酷い夢を見ていたような気がする。
僕は気だるいながらも体を起こし、今の状況を確認した。僕はソファの上に寝ていたようで、上に毛布が敷かれてある。
額には濡れタオルが置いてあったようで、ポトリと僕の目の前に落ちた。
そうだ……あの時、僕は気絶したのだった。
あの時すでに体は限界を迎えていて、度重なる戦いでの影響で意識が途切れてしまった。
まあ、1人の命が助かりホッとしたのもある。
あたりを見渡すと、オシャレな小物が置かれた三角形のテーブルが目に付いた。
……このテーブルの所有者は使いにくくないのだろうか? いや、とてもオシャレでかっこいいと思う。ロマンがあっていいだろう。
「あら、起きた?」
声がした方へ顔を向けると、そこには巴さんがエプロン姿で立っていた。
よかった、どうやら彼女は元気そうだ。死にかけたことはまだ忘れられないだろうが、まあそれもなんだ。徐々に忘れていくといいだろう。
「あの後、貴方より私が先に目を覚ましてね。そのまま私の家に連れてきたのよ」
「……そうか……なんとも迷惑をかけてしまった……すまない」
「いえ、貴方が謝る必要は無いわ。むしろ謝らければいけないのは私の方。ごめんなさい。そしてありがとう、助けてくれて」
巴さんは、はにかむような笑顔を見せてくれた。
とても可愛らしい笑顔だ。やはりフロイラインは笑顔でなくてはならない。それが最高の化粧だからだ。
さて、ところで今は何時だろうか……昼!? 12時!? やべえ! 丸一日寝てたのか! おばあちゃんが心配する!
僕は急いで携帯を取り出し、おばあちゃんに連絡する。
もしもし? ごめんなさい、僕、無事です。はい、はい、え? 帰ってきたら覚えとけって? やだなぁ! おばあちゃん! 僕が貴方の折檻を耐えられるとお思いで? ……え? そんなこと関係ない? お仕置きフルコース? ……そこで通話が切れた。
……お仕置きフルコースとは一体なんなのだろうか。
石抱きみたいな拷問をするのは辞めてもらいたいです。
僕が呆然とした表情をしていたら、巴さんがクスクスと笑い始める。
何、笑っているんだこの人は。僕の命が絶賛ピンチ中なのだぞ。
ちなみにおばあちゃんは僕に合気道を教えてくれました。あの人、武術界では名の通った達人だという。僕はあの人に何度打ちのめされたか、もう数えるのをやめた。
「お祖母様と仲がいいのね」
「……仲がいいというか、恐れ多いというか。素直に怖いというか」
「それはとても仲がいい証拠よ。さて、お昼ご飯作っちゃったから一緒に食べましょう?」
「……いいのか?」
だとすると、とても有り難い。
今、途轍もなくお腹が空いている。腹が減ってはなんとやら。ここで腹ごしらえして、おばあちゃんのお仕置き(拷問)を耐えきるエネルギーを貰っておこう。
さて、1つ疑問があるのだが。
なぜ僕は上半身裸なのだろうか。いや僕のシックスパックはどうでもいいんだ。こらそこ、興味ありげに僕の筋肉を見ないでいただこう。別にボディビルダーを目指しているわけではないので、裸を見られると素直に恥ずかしいのだ。
「ごめんなさい、勝手に脱がせたりして」
巴さんが少し顔を赤らめながら謝罪してくる。なんで赤面してまで僕の服を脱がす必要があったのか。今はそれを小一時間ぐらい問い詰めたい所ではあるが、今は飯だ。お腹が空いた。
僕の目の前に出されたのはパスタだ。しかも好物のカルボナーラである。
少し大盛りによそってくれたようで、僕の皿には山盛りのカルボナーラがあった。
「ちょっと作りすぎちゃって」
少し笑いながら巴さんは言う。
まあ、問題はない。この量なら健全な男子中学生ならペロリと平らげるだろう。
僕は両手を合わせ、感謝の気持ちを告げて、フォークでパスタを巻き取り口へ運ぶ。
美味だ。口いっぱいに濃厚なクリームの風味が広がる。この甘しょっぱい感じがいいんだよな。黒胡椒もいいアクセントを出している。
「我ながら上手くできたと思うのだけど、どうかしら?」
「うまい、すごくうまい」
「ふふ、ありがとう。ゆっくり食べてね?」
こうして巴さんと昼食を楽しむ。
他愛もない会話しながら食べたらより一層美味しくなった。人と一緒に食べる事により美味さがまた一際上がったような気がする。
そういえば、昼食はいつも一人で食べていたな。こうして誰かと一緒に食べると言うのは久し振りかもしれない。そうだな……昔……誰かとこうやって昼食を食べていたような……。
思い出そうとしても一向に思い出せないので、僕は考えるのをやめて残りのカルボナーラを口へ運んでいった。
その後後片付けを手伝い。服を着て、家に帰っておばあちゃんのお仕置きを受けようと思っていた時、突如、巴さんが僕の背中に体を寄せてきた。
僕の服を掴んだ手は震えていて、か細い声で「本当にありがとう」と言った。
僕は巴さんと向き合い手を握る。
そして一言、「大丈夫。君は生きている」と告げると、巴さんは涙目でこくりと首を縦に振ったのだった。
──ー
さて、皆さん。僕が学校に着くなりいきなり走っている理由はなんでしょう?
1、ウルに見つかったから逃げている
2、ウルに見つかったから逃げている
3、ウルに見つかったから逃げている
ちっちっちっちっ…………。はい時間切れでーす。
正解は……4のウルに見つかったから逃げているでしたああああああ!!!!
「待てー!!!」
ちくしょう! アイツ同じ学校だったのかよ!
いやね、前から歩いてくる女子生徒が、どうもどっかで見たことあるなーと思っていたら、いきなり指を刺されたわけですよ。そしたら、いきなり目を見開いて「みいつけた」とかって笑うわけ。
恐怖。
昨日のおばあちゃんのお仕置きフルコース(拷問)がなかったら発狂してた自信がある。
ちなみにお仕置きは江戸時代の拷問を調べてくれ。大体のことはやられた。
くそ! 図らずも授業を何回かサボってしまっている!
これも、ウルって奴のせいなんだ。
外に出てもまだ追ってきやがる。というかアイツ魔法少女姿になってませんか?
魔法でスピードがアップしている節が見て取れる。
だったら反撃してもいいよね? 生身は流石に可哀想だからやらなかったけど、魔法少女姿だったらやっても良いよね?
僕は方向転換して、ウルに向かって地をかける。
限界を突破した体はその無理な負荷運動にも耐えて、凄まじいスピードを実現することができた。
僕はそのままウルに向かってタックルをかます。
「はあ!?」
僕のタックルをまともに受けてしまったウルは、またもや宙を舞った。
咄嗟に爪でガードしたようだが、無意味だったらしく。地面に落ちた後、変身を解除した。
上から覗き込むと、ウルの奴は目を回してまともに動けない様子だ。
いやあ、申し訳ないことをした。でも、急に追いかけてくるのが悪いと思うな。僕は結構繊細なんだ、あんな形相で追いかけられたら怖くて仕方がなくなる。
後、上着返してください。
僕はウルを立ち上がらせようと、頰をペチペチと叩く。
するとウルはうなされたように、寝言を呟いた。
「う……ん……おり……こ……」
おりこ? ……確か、佐倉さんが前に織莉子なる人物を探していると言っていた。
その特徴的な名前から僕は記憶に残っている。というより、佐倉さんにこれ、言わなくてはならないじゃないか?
僕は目の前の少女が織莉子へたどり着く鍵だと認定して、彼女が起きるのを待ったのだった。