くだらない奴の真似。私はそう言って持っていたスマホで笑顔を無理やり作る。教室にいた奴らと同じような笑顔がそのスマホには映った。
でも私がその笑顔を浮かべているとなんだか自分ではないような気がして、とても気持ち悪い。
「へんなの!」
私はそう吐き捨て、屋上で風を感じる。
変わりたい。私はなんでそんな事を願ってしまったのだろうか。つまらない。とてもつまらない。もっと刺激的な事は無いのだろうか……。
いや、1つだけあった。それはあの男と戦っていた時。確かな高揚感を覚えた。結局私は負けてしまったけど、織莉子は私を見捨ててない。逆にその男の事を調べてくれと言われた。
あの男は何者なのか。それを知るまで私は魔法少女にちょっかいを出すのをやめた。
全てはあの男を倒すため。私は身体を鍛えて、もっと早いスピードでアイツに勝とうとしている。
しかし、この肉体を鍛えて意味はあるのだろうか? 私の体……いや魔法少女の体は魂が抜け落ちた抜け殻だと織莉子は言っていた。
だから鍛えてもあまり意味がないのではと思ったが、そうでもないらしい。
鍛えていくにつれて、身体能力が上がっているのを実感する。
これならあの男を倒せるかもしれない。そして倒したらいっぱい織莉子に褒めてもらおう。よくやったわねと頭を撫でてもらおう。
そして、案外その時は近かった。
廊下を歩いていたら見覚えのある顔が目に入った。間違いない奴だ。
倒れてあった時に私にかけてあった制服からして、見滝原中学にいるという事は知っていた。
あの後探してはいたが見つかりはしなかったが、今回は見つけた。
さあ戦おう? 楽しい事をしよう?
気づけば私は心底楽しんでいるような表情で──
「みいつけた」
と奴に告げたのだった。
────ー
お、やっとウルの奴が目を覚ました。
僕の顔を見るなりパチクリと瞬きして、盛大にため息をついた。え? なんでため息ついたの? 僕の顔を見たから? すみませんね、イケメンじゃなくて。これでも近所におばちゃんから男前と言われているのだが、うら若い彼女はお気に召さなかったようだ。
まあ生まれてきて15年ではあるが、一回もモテた事は無い。悲しいなぁ。
「また負けたんだね」
心底ガッカリしたような表情でウルは言った。
ああ……なるほど、負けたからため息をついたのか。よかった僕の顔が原因じゃなくて本当に良かった。起き抜けに「うわきも」とか言われていたら明日から学校を三週間休む所だった。
「でもさあ、どうせ負けるんなら、もっと殴り合ってから負けたかったなぁ……。これじゃつまんない」
「いや、戦いにつまるもつまらんも無いだろう」
「つまんない、つまんない、つまんない!」
駄々をこねる子供かこいつは。
上級生か同学年か下級生かは知らんが、子供だこいつ。全く中学性にもなって、駄々をこねるなんて恥ずかしいと思わないの! と僕の中のオカンが言った。
いや、オカンの顔知らないんですけどね。
さて、そんな事はどうでもよくて、少々ウルに聞きたいことがあるからこうして起きるまで残っていたのだ。
僕はウルの額に人差し指を当てる。
「え? なんで指を……っ! 体が……! 動かない!」
昔よく見たよね。額の中心に人差し指を当てるとあら不思議、起き上がれなくなっちゃうマジック。まあ僕の場合はそんな器用では無いので力技で無理やり動かなくしているだけだが。
「君が眠っている間、寝言を言っていたね」
「え? 寝言?」
「ああ、それは幸せそうな顔で織莉子……と」
「!」
ウルは目を見開いた。そのあと少し唇を噛む。おそらく彼女にとっては一生の不覚みたいなものなのだろう。
しかし、織莉子という名を聞いた以上、ウルと織莉子は知り合いなのだろう。いや、もしかしたら友達なのかもしれない。
佐倉さんと約束したのだ。あんなに親切にしてくれた人の願い、今ここで叶えてみせよう。
「し、知らない……だれ? そいつ?」
「しらばっくれるな。呼吸が荒くなっているぞ。嘘を付いている証拠だ」
いや、実際嘘を付いてるかどうか、分からないんですけどね? だってそれっぽい事言ってみたいじゃないですか。
今のセリフはカッコよかったと僕の中で思う。
「……織莉子に何をする気だ」
「何もしない。ただ会って話がしたいだけだ」
「絶対に織莉子は私が守る! お前みたいな奴に教えるもんか!」
怒ったような顔を見せるウル。どうやら友達同士なのは確定的だそうだ。いや、この怒りよう。親友同士のそれだ。
どうやら思ったよりもウルと織莉子は深く関わっているようだな。
これ以上、ウルから聞いても何も収穫がないと判断して、僕は指を離す。
それに友達を守ると啖呵をきってみせた、彼女の事が気に入った。
僕は根性のある奴は嫌いではない。何か足りないところを必死に埋めようと努力する姿は見ていてとても美しい。
「……今日の夜7時頃……見滝原の広場で待つ。織莉子とやらにそう伝えておけ」
「っ! ……ふんっ!」
ウルは返事をせずにそっぽを向いて歩いて行った。
返事は聞けなかったが、来るということを信用して僕は広場で待つとしよう。
すまない、佐倉さん。伝えに行くのは少し時間がかかりそうだ。
──ー
そして時刻は午後7時。
僕は自身で指定した、広場で待つことにした。
さて、織莉子とやらはどんな姿をしているのだろうか。少し好奇心が湧いてくる。
しかし、佐倉さんは織莉子にオトシマエをつけるとか言っていたな。どんな因縁があるのかは分からない。
僕はただ接触して、そのあと佐倉さんに伝えておけばいいのだ。
そう思っていた矢先だった。
僕の目の前に突如、白いボールのような物が飛んできた。
反射的に片手で掴み、そして離す。どうやら来たみたいだな。
「貴方が……私を呼んだのかしら?」
僕の目の前に白い衣装で身を包んだ魔法少女が現れた。
コイツが……。
そう思っていたら、続いて暗闇から爪が伸びてくる。
僕はそれを掴み、引っ張った。案の定ウルが闇夜から姿を表せる。
コイツら、もしやこの場で僕を消そうとしているのか? 面白い。やれるものならやってみろ。
「流石ね、この不意打ちを全て防ぐなんて」
「お褒めに預かり光栄だな」
「ええ、噂以上だわ。八千ましろ」
僕の名を何故知っている。嫌な汗がブワッと吹き出る感覚がした。なんだ? この全てを見透かされている感じは。
そして、白い魔法少女は両手を仰々しく前に出し、僕にこう言った。
「私の名前は美国織莉子。八千ましろさん。私たちの目的のために協力してくれないかしら」
それは、さも決定事項だと言わんばかりの圧力を三国織莉子は出したのだった。