魔法少女達の集結から数日が経った。今日現在でも美国さん達は現れずにいるが油断は禁物だ。
佐倉さん、ゆまちゃんにはここ数日見滝原で暮らしてもらっている。今はどこに居るのかは分からないが、恐らく見滝原中学の近くで待機しているのだろう。
浅古さんには白女に通ってもらっている。招集の知らせはインキュベーターに一任した。
信用のならない奴ではあるが、僕の頼みならやってあげようと言っていたので任せることにした。
なんかインキュベーターの中では僕は仲間みたいな扱いになってないか? 勘違いするなよ、僕の黒歴史をばら撒きやがって。いつか張っ倒す。
学校の中にいる僕たちは周囲に目を光らせていた。外にいる彼女達と違いすぐに動けることができるからだ。
巴さんは三年生なので主に三階を頼み、僕たちは鹿目さんを守る係と、クラスメイトを助ける係に別れた。
暁美さんが鹿目さんを守る役目に付いている。
そして遂に、その時がやってきた。
朝礼の時間が始まり、教室に備え付けられたテレビに放送委員が映るのだが、その放送委員が突如として倒れた。後ろから現れるのは呉キリカと美国織莉子だった。
「この放送は私と織莉子が占拠した!」
来たか! 僕はちらりと暁美さんに目をやる。すると暁美さんはコクリとうなづき席を立って鹿目さんに近づいた。
僕もそれを見て席を立つ。クラスメイトの全員はこの状況に何事かと騒ぎ始めた。
「テステスーマイクテスー」
「キリカ、カメラそっちじゃないわよ?」
まるでこの異常な空間の中さも当然かのごとく日常会話を始める二人。
その光景は少し歪な形だった。
「え? なに? どうしたの?」
「……まさか魔法少女?」
「そんな……」
「大丈夫、なにも心配しなくて良いわ」
「ほむらちゃん……」
画面に映った美国織莉子がカメラの前に立つ。そして仰々しく口を開き始めた。
「皆さんには愛する人がいますか? 家族、恋人、友人。心から慈しみ自らを投げ打ってでも守りたい人は居ますか? そして、その人たちを守るに至らぬ自分の無力を嘆いたことはありますか? …………八千ましろさん。貴方は一人残らず、守れることが出来ますか?」
「……」
「来るがいい、最悪の絶望」
カメラ越しにでもわかった。僕を名指しで見つめてくる目。それは何かを訴えかけてくるような目だった。
そこで映像が途切れる。周りから八千? とか僕の事を噂してくる声が聞こえた。
そして先生が、「八千さん? あの人たちと知り合いなの?」と言ったときの事だった。
使い魔達が窓を割って教室に入ってくる。
それと同時に結界が作り始められた。
僕はその使い魔達を入ってくるや否や拳の連打を叩き込み一気に殲滅させた。
もはや今の僕に慈悲などはない。あんな挑発をされたんだ。救ってやろうではないか、一人残らず。
「暁美さん! 後は頼んだぞ!」
「ええ、頼んだわ、ましろさん」
僕はその場から疾走する。その瞬間またもや自分の限界を超えた。今の僕ならヒグマだって片手で倒せるだろう。それに今回は最初から本気だ。僕は校舎の中を駆け回った。
(ましろさんの姿が一瞬で消えた……もはや魔法を行使しているのと変わらないわね)
「ほむらちゃん……」
「心配しないで、貴方達は私が守る。それがましろさんとの約束だもの」
──ー
三年生は巴さんがなんとかしてくれているが、今気がかりなのは下級生の方だ。
僕は下の階に向かって疾走する。女子生徒の首筋に噛みつきそうになった使い魔を見つけ、その場で殴り飛ばした。
下の階も結界で覆われており、なにも分からない生徒達は怯え狂っている。
僕は無我夢中で拳を振り回した。途中、佐倉さん達がやってきて、僕の加勢に入ってくれたが、今は巴さんの方が心配だ。
佐倉さん達を巴さんの方へ向かわせ、下の階は僕一人で殲滅していった。
そして数分が経った後、下の階の使い魔達はどうやら全滅したようで、1つも残ってはいなかった。
だいぶ体を酷使したような気がするが、少し息が荒くなっただけでまだ体は動く。大丈夫だ、今のところ全部を守れている。
「あ、あの……」
「?」
僕の後ろにいつのまにか女子生徒がいた。この子は……先程使い魔に食べられそうになっていた子じゃないか。
「こ、これは一体……」
恐怖で顔が歪んで体が震えている。
僕は彼女の不安を取り除くようにニコリと笑って頭を撫でた。
大丈夫……大丈夫だ。君は死んではいない。心臓は脈打っている。
「あ…………ありがとう……ございますっ……」
僕はこの子の涙を人差し指で掬い取る。少しキザな真似ではあるが、それで多少なりとも安心できるのならお安い御用だ。
僕は彼女に背を向けて走る。
この階はもはや使い魔が存在出来ないくらいに殲滅した。となると上の階だろう。
僕は上の階に向かって走っている途中、なにやら結界の中に入っているクラスメイト達を見つけた。
これは浅古さんのシールドの能力らしく、前に見せられたことがある。
そのほかにも魔法少女達には他人を守れるだけの結界が貼れるらしく、絶対的ではないものの、効果は高いらしい。
その分ソウルジェムが濁ってしまうのが欠点だと話していたが。
走っていると一際大きな扉が見えてくる。
中に入るとそこには魔法少女達が集結していた。
しかし、味方の魔法少女は劣勢らしく、ゆまちゃん以外が地にひれ伏していた。
目線の先にはなにやら前とは違う呉キリカがいた。いや姿は一緒なのだが、雰囲気が違うのだ。まさか……強くなっているのか?
ゆまちゃんに襲いかかる呉を僕は弾き飛ばす。
爪がかすったらしく、僕の腕から血が吹き出た。
「……来たわね」
「……この感じ……織莉子……コイツ、使い魔達を全滅させやがったよ」
「! この短期間で!?」
僕はゆまちゃんの抱えて下がる。
「ゆまちゃん! みんなに回復を!」
「う、うんっ!」
「……いいわ回復しないで」
巴さんが仰向けになりながら遠い目線で、そう言った。
なぜそんな事を言うんだ? なぜそんな絶望の表情を浮かべている?
「ソウルジェムは魔女を生む……魔女になるくらいならここで死んでしまった方がいいじゃない」
僕は美国さんの方を見る。成る程……彼女が魔法少女が魔女になると話したのか。
それにしても、インキュベーターの野郎、そんな大事な説明を省いて、彼女達を魔法少女に引きずり込んだのか……。
僕はにじり寄ってきた呉の前に立つ。
「うん、だから今から殺してあげるよ。八千ましろ。そこを退いてくれるかな?」
「断る」
「……分からないなぁ……ソイツは今、死のうとしてるんだよ? そんな奴を助けたってどうしようもないでしょ?」
「そんなことはねぇよ」
そうだ、そんなことはない。
死にたくなるのは人間誰しもある。そんな時、実際に死にかけたら生きたいと願うものだ。人間は生というものを切望する。
こんな事で死んでしまったら、後悔して死にきれないだろう。
「……そうだよ……お兄ちゃんの言う通りだよ」
ゆまちゃんがみんなの傷を癒す。
「ゆまはね、ママにいじめられてた時いつも考えてたよ、死んじゃった方がいいって。でも魔女に襲われて死んじゃうって時、ゆまは必死に生きようとしたんだ」
「でも……いつか私たちも……」
ゆまちゃんの言葉に続いて僕も口を開く。
「いつかは今じゃないだろう。人はみんないつか死ぬ。誰だって死んでしまうんだ。だが、今はその時じゃない」
立て、立って戦え! 大いなる力には大いなる責任が伴う。それは弱い人々を救うためだ!
僕たちにはコイツらに対抗できる力がある! だから! ここで今! 止める!
「……ふっそうね…………みーくーにぃ……あんた、前に私に前に進めるかって聞いてきたわね……進んでやろうじゃない。進んだ先にどんな地獄が待っていようと、進んでやるわよ!」
浅古さんがポールアックスを杖代わりにして立ち上がる。
そして、構え直して美国さんに突進していった。
しかし、その前に立ち塞がる呉キリカ。それを見た僕は浅古さんの邪魔はさせないと、呉に飛び蹴りを食らわした。
そして叫ぶ。
「立ち上がれるのなら! 立って! 助けに行け!」
そうだ、まだ使い魔達による脅威は消え去っていない。
そんな叫びを聞いた、巴さんと佐倉さんが立ち上がった。
その目には生気が戻っている。
「……ガキに説教されて、その上恩人にここまで言われちゃあな」
「……キュウべぇには後できっちりと説明してもらわなきゃね。ありがとうましろさん、また助けられたわね」
僕の目の前に1つのグリーフシードが飛ぶ込んでくる。……このグリーフシードには見覚えがあった。これはゲルトルートの……。
「お守り代わりよ、武運を祈るわ!」
そう言ってゆまちゃんを連れて三人はこの部屋から飛び出した。
生徒を助けに行ったのだろう。
「さて……暁美さん……立てれるか?」
「ええ……私は浅古さんと連携して美国織莉子を……貴方は」
「ああ、また眠らせてやるよ」
僕が軽口を叩くと暁美さんはクスリと笑い、美国さんに突撃していった。
さて……今思えば呉と戦うのはこれで3回目か。
「……今の私は絶対に負けない!」
「来い、決着をつけるぞ」
こうして、僕たちはぶつかり合ったのだった。