「うおおおおおお!!」
「はあああああ!!」
僕の拳と呉の爪がぶつかり合い、その場に激しい音を残す。僕は限界を突破した体で身体能力が向上して並みの人間なら見えない速さで動くことが出来ている。それは呉の速度低下の魔法もあまり意味をなさない程に。
しかし、体が鈍い感覚はある。油断したら一気に首を掻っ切られそうだ。
僕は拳のラッシュで呉に対抗するが、呉も反射神経が上がっているのか、僕の攻撃を全て防ぐようになった。
確実に前よりかは強くなっている。しかしこの短期間で何故? とも思ったが、理由はすぐに分かった。呉のソウルジェムがかなりの勢いで濁っている。使い魔達も生み出していたのは呉だろう。魔女に近づいているのか。そのため、身体能力が上がっているのだと考察する。
「私は! 織莉子に相応しい友達に変わり続けるんだ! そのためにはお前なんかああああ!!」
そして呉の根気が勝ってしまったのか僕は肩から腹にかけて切り裂かれた。薄皮一枚で避けたが、あの爪が伸びたせいで、制服がはらりと落ち、肉体からは血を流した。
まずい、一発もらってしまった。あの速度と僕の速度の低下。厄介だ。
あの速度を止めるには何かしらの方法で呉を止める必要がある。
そして僕はとある方法を追いつく。
僕は攻撃を受け、足がよろめいた。
「! 勝機! もらったああああああ!」
────フリをした。
僕は顔を上げ、呉の爪を真正面から腹で受け止める。呉は突き立てた爪を僕の腹に押し込んでいくが、それで呉の動きは止まった。
腹に刺された爪を筋肉で固定、抜けないようにする。そして僕は呉の両手を持ってサマーソルトをその場で食らわした。
顎にモロに入った呉は宙を舞う。
「ガハッ!」
「……さっきは効いたぜ、お陰で腹に穴を開ける事になってしまった」
肉を切らせて骨を絶つ。
僕の腹から血が吹き出る。しかしそれを筋肉で塞ぎ無理やり止血した。内臓の方は呼吸法で上の方に押し上げ、傷は1つも付いていない。
しかし……結構キツイな……。
「ぐっ……ぐう……」
「はあ……はあ……」
お互い満身創痍。おそらく次の攻撃で最後となるだろう。
呉も……いやここまでやって立ってくるコイツに敬意を表し、名前で呼ばせていただこう。
キリカはまだ諦めた様子はない。
どうやら最後の手段を持っているようだった。僕もそれに少し気づいていたので、行動に移す。
「……こうなったら……魔女に……!」
と、キリカの体が変化しかけた時だった。僕は一気に駆け出し、右手に持っているグリーフシードをキリカのソウルジェムに押し当てる。どうやら、巴さんはゲルトルートのグリーフシードは使わずに持っていたらしく、かなりの穢れを浄化しても問題はないくらいの空きがあった。
「う、うわあああああ! わ、私の……ち、力が……!」
「すまないが、またもや僕の勝ちらしい……浄化しろ! 呉キリカ!」
「ぐっ、ぐああああああ!」
しかしキリカも最後の力を振り絞り、僕に爪の斬撃を浴びせてきた。僕はその攻撃を一身に受け止める。所々から血が吹き出ていくが問題はない! このまま押し切らせてもらう!
「ッ……ああ……」
穢れを最後まで浄化しきったグリーフシード。キリカは穢れを力に変えて戦っていたので、力が抜けてその場に倒れこんだ。
その瞬間、結界が晴れ、学校の部屋が出現した。結界がなくなったということは、使い魔達も消え失せただろう。
これでクラスメイトや生徒に危害が及ばなくて済む。
この戦い、僕たちの勝ちだ。
僕は暁美さんの方へ目を向ける。
すると、浅古さんが美国さんを押さえつけて馬乗りになっていた。
美国さんは目を見開き足掻いてみせるが、浅古さんのパワーに押し切られる。
どうやらあちらの方も大丈夫なようだ。
──ー
暁美さんが美国さんに銃を突きつける。
「今回は失敗しない」
決意が篭った目線で美国さんを睨む。全く、焦り過ぎだろう……。
美国さんも美国さんで観念したような表情を浮かべるんじゃない。
僕は暁美さんの銃に手を置く。
「待て」
「っ!」
僕は美国さんに聞きたいことがある。そうだ、僕の意識がなくなる前に聞いておきたい事があった。
それは美国さんが見た未来について。出来ることなら僕も死を避けたいところではある。未来予知が絶対的でも回避が出来るかもしれない。
「僕の未来を見てはくれないだろうか」
「……貴方の未来?」
「ああ、君が見た物を詳細に教えてほしい」
そして美国さんに僕の未来を聞く。それは僕がワルプルギスの夜を倒して死ぬという所だけは変わらなかったらしいが、1つ変わったことがあったらしい。
それは僕を看取る人が変わったらしい。最初は巴さんだったらしいが、今は見知らぬ少女になっていると言っていた。
その見知らぬ少女は魔法少女かどうかも分からないらしい。顔に靄がかかった状態で見
たらしく、顔も分からないと言っていた。
そうか……。僕が死ぬという展開だけは変わらなかったか。
しかし、これで未来は変えられるということが分かった。
「……ま、ましろさんが死ぬ?」
「そんな……」
暁美さんと巴さんが驚愕の顔になる。
後ろに控えていた佐倉さんと浅古さんも少なからず驚いた顔をした。
そうか悲しんでくれているんだな……すまない心配をかけて……。
「ましろさんが死ぬところなんか想像出来ないわ。現にこうしてお腹に穴を開けても平然としてるじゃない」
「げ、現実的じゃないわね」
僕は盛大にずっこけた。
ええ……心配してくれたんじゃないのか? そっちの意味での驚愕かよ……。
「コイツが殺られるなんて、ワルプルギスの夜ってのはどれだけ規格外なのよ……」
「ああ……そこまでなのかよ……そいつは……」
あの、一応僕は人間ですよ? しかもただの一般人。たしかに魔法少女に混じって拳1つで戦っているのも一応、僕の中では驚きなんですからね? そうか僕ってこんだけ強かったんだーとか、思ったりしてますよ? なのになんでおばあちゃんには全く勝てないんだ。
全くコイツらは……。しかし、こうして立っているのも事実であり言い返せはしない。
本当は死ぬほど痛いし、さっさと気絶したいだけどな。
しかし、まだ聞いておきたいことがある。
「……美国さん、おそらく君はもう一つ別の未来を見ているはずだ、それは鹿目まどかに関する事か?」
僕は少し疑問だった箇所を美国さんに聞く。
美国さんは小さくコクリとうなづき「そうよ」と言った。
おそらく最悪の魔女に関することだろう。彼女はそれを止めるために他の時間軸でも鹿目まどかを殺害しようとした。
暁美さんが時間逆行をしているという点から、それは成功したのだろう。
僕は美国さんに手を差し出す。ちょうどキリカも起きたようで、美国さんを真剣な表情で見ている。
決断するのは君だ。未来は変えられる事は証明済みだ。僕たちが協力すれば僕が死ぬ可能性も消えるかもしれないし、鹿目さんが魔女になる確率だって下げられるかもしれない。
そして美国さんの世界を救うという目的も達成するかもしれない。
そうだ、鹿目さんをなんとか魔法少女から引き離すことが必要なのだ。そのために暁美さんはこれまで時間逆行を繰り返してきたのだから。
僕は暁美さんの方を見る。暁美さんは呆れ半分でクスリと笑いうなづいた。
浅古さんも佐倉さんもゆまちゃんも巴さんだって納得している表情をしている。さて僕たちは君に力を貸すことができる。美国さん、キリカ。君たちはどうする?
「…………わ、私は……」
「……織莉子……もういいんじゃない? コイツに負けたのは癪だけどさ、でもさ、コイツと戦ったから私たちは間違わずに済んだんじゃないかな……。ま、私は織莉子の行く道をついていくよ」
「この先の未来。どんなものが待っているか分からない。だが君が見た未来を僕は否定しよう。必ず、君の願いを成就させる」
美国さんは恐る恐るではあるが、僕の手を握る。
そして華やかな笑顔で、「はい」と彼女は言ったのだった。
ちなみにこの後ぶっ倒れた僕は近くの病院に搬送されて入院を余儀なくされた。
医者からは「車に轢かれても無傷だった君がなんで死にかけてるんだい?」と怯えながら言われ、おばあちゃんには盛大に笑われた。
張り倒すぞこの野郎。