「あれ〜? おっかしいなぁ……」
僕は目の前を歩くキリカを見ながら頭を抱える。
目当てのジュエリーショップを先にいこうと提案した彼女は意気揚々と僕の前を歩き、どんどん人気のない場所へと入り込んだのだ。
まあ、途中で確認しなかった僕も悪いけど、途中で気づかないかな?
「あはは……ごめん、迷子になっちゃったみたい」
頭に手を添えながら苦笑いでこっちを見てくるキリカ。
まあ、迷子になってしまったものは仕方がない。さっさと出口を見つけてここから脱出するだけだ。
そんな事を思っていた時の事だった。
「! ましろ!」
「ああ……これは結界!」
あたりが不可思議空間に包まれる。どうやら魔女の結界に迷いこんでしまったようだ。
キリカは変身して戦闘態勢に入る。僕たちは走ってこの結界を作り出した魔女の元へ向かった。
使い魔達を倒しながら一際大きな扉に近づく。間違いない、あの先に魔女がいるのだろう。
僕たちが勢いよく中に入ると魔法少女が魔女と戦っていた。どうやら先客が居たようだ。
しかし彼女は苦戦しているらしく、切っても切っても再生してくる腕に辟易しているようだった。
「クプオオオオオオ!!」
「そ、そんな……再生する前に一撃で倒さないとダメなんだ……」
その声を聞いたキリカが駆け出す。両手の爪を高速で繰り出し、次々と魔女の触手を切り刻む。
「あはっ! 修行の成果出てるよ! これ!」
僕から見てもキリカの動きは前とは違う。キリカが持っている魔法を行使してなくても、使っている時と同程度の速度が出ていると感じた。いや、本当に才能の塊だなおい。おばあちゃん曰く僕には才能がないが努力する力はあると言われたが、やはり天性の才能というものは素直に羨ましい。
いいなぁ、才能の一部僕にくれないかなぁ? ちなみに、ラノベを読み始めてから僕はかなり強くなったと自負している。その前の僕はへっぽこ中のへっぽこだ。SFラノベ凄い。これからも崇拝する。
「って! ちょっとちょっと! こいついきなりパワーアップし始めたんだけど!? ましろー!」
「ああ、今行く」
魔女の方もおとなしく狩られる気は毛頭ないのか、触手のようなものを繰り出すスピードが速くなった。キリカの魔法でも抑えられないらしいので僕が出張るしかないようだ
「え!? 危ないです! 下がってください!」
短めのツインテールの魔法少女が僕に制止をかけてくる。それを見たキリカが苦笑いしたような気がした。心配してくれているのは有難い、魔法少女の鏡だろう。しかし、僕は一般人ながら魔女とも対等に渡り合える力がある。
「ありがとう」
僕は彼女に微笑んで制止も聞かずに前に出た。
さて、魔女の名前は何にしようかな。ドクロのような顔つきが特徴の魔女か……よしこの子の名前はスケーレトロだ。少し安直すぎるがな。
スケーレトロが僕に向かって触手を飛ばしてくる。僕はそれを避けて掴む。
そして、その触手を引っ張って本体をこっちに引き寄せる。
「少し痛むと思うが我慢してくれ」
僕はそのままドクロの部分を殴り抜いた。スケーレトロは殴られた部分から衝撃波が体内の中に浸透していってあらゆるところの触手が弾け飛ぶ。
さっき再生する前に一撃で倒せばいいと言っていたので、それに習っただけだ。
スケーレトロはそのまま消滅してグリーフシードを落とした。
「よく頑張ったね。おやすみ」
僕はそのグリーフシードを拾い上げて言ったのだった。
──ー
「助けてくれてありがとう!」
ツインテールの魔法少女が深々と頭を下げる。この子の名前は穂香佳奈美というらしい。さっき自分で自己紹介をしていた。
「でさ……ちょっと聞きたいんだけど、そのキリカちゃんは別として、なんでましろくんはそんなに強いの……?」
なぜ強いか……か……。まあ、おばあちゃんの修行の成果もあるが、僕の場合大部分はSFラノベである。おばあちゃんの修行は体作りとして機能しているに違いない。
と言ってもラノベを読んで強くなったとか言っても信じてもらえなさそうなので、無難におばあちゃんに鍛えられたからと答えておいた。
そしてら何故か穂香さんは目をキラキラと輝かせ、おばあちゃんという単語に食いついた。
「実は私も、おばあちゃんの為に魔法少女になったんだ」
えへへと笑う穂香さん。
その笑顔はとても眩しかった。そうか、おばあちゃんの為か。彼女はなんて立派なのだろうか。誰かの為にこの世の地獄に足を踏み入れる。キリカも似たような願いからかウンウンとうなづいていた。
「それはとても立派だな……さて、そこにいるのは分かっている。そろそろ出てきたらどうだ?」
さっきから柱の影からなにかの気配が感じられた。どうやらまだ魔法少女が居たようだ。
僕がそう言うと二人ともびっくりして、僕の向けていた視線を追った。
すっと無表情で出てきた魔法少女。白く長い髪を後ろで束ねている少女だった。……どことなく僕のおばあちゃんに似ている……。
「……」
「君、名前は?」
僕が名前を聞くとふいっと顔を逸らし、その場から去っていく少女。
……何か気に食わないことでもあったのだろうか? あ、もしかしたら魔女を倒されてグリーフシードを奪われたことに腹を立てているのかもしれない。
前に佐倉さんが魔法少女の中には利己的な奴もいると話していたが、その類の魔法少女なのだろう。
僕が後ろを振り返ると、キリカが青白い顔になっていた。
「めちゃくちゃ師匠に似てた……怖……」
どうやらキリカはおばあちゃんにトラウマを持ってしまったらしい。まあ無理もない。僕も怖い。