あの後日が暗くなり始めてからまたもやホオズキに僕は足を踏み入れた。
買い物は無事に済ませ、キリカは美国さんにお目当てのペンダントをプレゼントしに行った。正直言ってハート型のペンダントはどうかと思う。可愛いけど美国さんに果たして合うのだろうか?
まあそんなことはどうでもいい。何故僕がホオズキ市にもう一回来たかと言うと、あの白い髪の魔法少女が少し気がかりだったからだ。僕が初めて会った時に感じたあの冷えたような目。とても印象に残っている。
いや、惚れたとかそんなんじゃないよ? 全然そんな事思ってませんけど? ただちょっと気になるなーって思っただけで、僕にはちゃんと好きな人もいるし…………あれ? 居たっけ? 僕、好きな人……。
少し頭をひねって考えていると、少し離れた場所から声が聞こえてきた。
「誰!? 誰かいるの!?」
フロイラインの声が聞こえる。その切羽詰まったような口調から僕はただ事ではないと判断して、急いで声のする方へ駆け出す。
そして見えてきた光景は魔法少女と思われる子にあの白い髪の子が剣を突き刺そうとしていた場面だった。
僕は間一髪で、その剣の刃を指でつまむ。
「!?」
「えっ!?」
「よお、また会ったな」
白い髪の魔法少女は急いで僕の元から離れ、そして同時に戦闘態勢に入った。それを見て、僕も拳を握り構える。
しかし、こうやって対峙して分かるものがある。この子……かなりの実力だ。そんじょそこらの魔法少女よりかなり強いだろう。これは僕も気を引き締めないと危ないな。
取り敢えず、この魔法少女の事をヴァイスと呼称することにする。
僕はヴァイスに向かって跳躍して、まずは様子見の拳を振り抜く。避けない!? ヴァイスは僕の拳が当たると同時に、姿を揺らめいてその場から消えた。
「分身!?」
「遅い」
後ろ! ヴァイスは僕に向かって剣を振り落とす。それを見て僕はその刃に拳をコークスクリューの要領で回転させ突き出した。
刃と拳が接触するときに、拳を回したのでスルリと刃が横へ逸らされる。そのまま僕は殴ったが、ヴァイスに間一髪で避けられた。
そのまま僕たちは後ろへ跳躍してお互いに距離を取る。
まさか避けられるとは……それに陽炎のように消えた分身……あれも厄介だな。
「しかし……分からんな、一体何故こんな事をする」
「理由……?」
ちらりと僕の後ろにいる魔法少女へ目を向け、そうして冷たく言い放つヴァイス。
「そんなもの、知らない方がいいわ」
そう言って、ヴァイスは背を向けて去っていった。
僕はその姿を見て、戦闘態勢を解く。
知らない方がいい……か。魔法少女を殺す理由、それは僕の思っている通りの事だったら、僕は彼女を止めなければならない。
「あ、あの……」
「ん?」
おっと、彼女を少し放置してしまっていた。考えすぎて周りが見えなくなるのは反省すべき点だな。今度から気をつけよう。
「あの……なんていったらいいのかしら……まずは、助けてくれてありがとうございます……で、貴方は一体何者ですか?」
「む……こっちこそなんと言えばいいのやら」
魔法少女の協力者? いや、この事自体は暁美さんは知らない。完全に僕の独断で魔法少女のいざこざに足を踏み入れている。
そうだな、側から見れば命知らずのクレイジー野郎と言ったところか。
と言っても自己紹介でいきなり「命知らずのクレイジー野郎です」なんて言っても彼女はポカンとするだけだ。
ともかく、ここは当たり障りのない事を言っておこう。
「通りすがりのお節介野郎さ」
「……お節介……ですか。私が聞きたかったのはなんで生身で魔法少女と渡り合えているのか、だったのですけど……まあ良いでしょう。本当にありがとうございます、この借りはいつか返しますね」
「ああ、その方が後腐れもないだろう。じゃあな」
「あ、待って! 貴方、名前は?」
ここで「名乗る程の者ではない」と答えたら彼女はどんな反応をするのだろうか。いいよねこのセリフ。男のロマンというか中二心をくすぐられるというか。……しかし、このセリフは僕のキャラにあっていないという事が欠点だ。それに、借りを返すと言ってくれたのだ、その恩恵をありがたく頂戴しよう。僕がピンチな時は助けてくれ。
「八千ましろ、以後お見知り置きを。フロイライン」
「フロ……? まあいいわ、よろしくお願いします。私の名前は詩音千里です」
詩音さんの名前を聞いて僕はその場から離れる。
まあ今後会うかどうかも分からないが、名前は重要だろう。
さて、ここ当分の行動の目的がはっきりとしたな……。この街とはなんの縁もゆかりもないが、君のその冷たい目がどうしても気になって仕方がない。首を突っ込まさせてもらうぞ、ヴァイス。
──ー
急に私を助けて何処かへ去っていったあの男……。八千ましろ。
そう名前を言い残して私の前から姿を消した。私はその後ろ姿を見ていることしか出来なかったと思う。
まさか、生身であれだけの魔法少女と渡りあえる事が出来る人なんているとは思わなかった。
私が殺されそうになった事実を差し置いて、未だ現実ではないように思えて仕方がなかった。
「チサト!」
「あ、アリサ」
アリサの切羽詰まった様子の声で一気に現実に引き戻されたような気がする。
そうだ、急に通信を切ってしまったのでさぞかし心配しているだろう。
「どうしたのよ! いきなり黙っちゃうなんて!」
「ごめんなさい、それよりもキリサキさんの正体が分かったわ。みんなを集めて」
「! 分かった」
取り敢えず、彼のことは一旦置いておいてみんなにキリサキさんのことについて話さなければならない。
これ以上魔法少女によって犠牲者が出ないように……。
あの後みんなが集まり、キュウべぇがおもむろに現れてキリサキさんについて喋っていった。
キリサキさんという噂話の正体は魔法少女であり、名前は天乃鈴音だという。その名前を聞いた途端、マツリが酷く狼狽した。
どうやらクラスメイトらしく、ちょっと前に転校してきたと話していた。
キュウべぇもあの子に気をつけるように言ってれた。そう端的にいうと彼女は暗殺者なのだ。そして私たちの天敵でもある。
「キュウべぇ」
「なんだい?」
「あの……彼の事なんだけど」
「…………もしかして八千ましろの事かい?」
私はみんなに八千ましろの事を話した。あのスズネという少女に生身で互角に渡り合え、とんでもない力を持った彼のことを。
みんなは最初は半信半疑だったけど、私とキュウべぇが嘘を吐く理由もないとすんなり信じてくれた。
「だったら、その八千ましろさんという人を仲間に引き込む事が出来たら」
「はい、あのスズネという魔法少女に対抗できるかもしれません」
マツリも概ね同意のようで、アリサは難しい顔をしながらも渋々了承してくれた。
とにかく、私たちの当分の目標は八千ましろを仲間にすることに決まった。
ましろくんは魔法少女に(戦力として)モテモテです