どうやら僕はあのまま数分間目を覚まさなかったらしい。
なんとか詩音さんが自身の魔法である、魔法の解除という効果を使って現実世界に引き戻された。
どうやら魔女は消滅しており、詩音さんの手にはグリーフシードが収まっていた。
しかし……僕が見たあの光景は一体?
どこかの魔法少女に感情を持っていると思われしインキュベーター……。それに僕はあの魔法少女と一回会っている? 思い出さない? とか言われても完全に初対面だった訳ではあるし、僕は彼女のことは何一つ一切知らないのだ。
しかし……懐かしい雰囲気だけは間違いはなかった。
僕はこれからどうすれば良いのだろうか。あんな光景を見せられて僕はこの先……。
「ちょっと! ましろくんどうしたの!? さっきからぼーっとして! あ! もしかしてさっきの……」
そう叫びながら僕の肩を盛大に揺らす穂香さん。
やめてくれー。気持ち悪くなってしまう。
まあ、ともかく呆けてる場合ではないな。
僕はとにかく立ち上がって、服に付いた埃とかを払った。
「すまない、迷惑をかけてしまったようだね」
「い、いえ……とにかく八千さんが無事で良かったです」
……詩音さん……なんて優しいんだ……。これまで出会ってきた魔法少女ときたら、喧嘩が大好きバイオレンス少女、気が強くて僕を見ると度々詰ってくる少女、協力関係にあるけどあたりがキツイ少女……ここまで優しいのは久しぶりだな……。
「ありがとう」
「大丈夫そうで何よりです」
「その……ごめんなさい」
詩音さんの後ろにいた魔法少女が僕に頭を下げてくる。……これはまた巴さんに負けず劣らずの素晴らしい大きさを持っていらっしゃる人だ……いや、どこととは言わないよ? 絶対に言わないからね?
「いや、気にすることはない。こういうのには慣れているからね」
「そう……ですか……」
悲痛な面持ちを浮かべる彼女は奏遥香と名乗った。どうも責任感が強そうだが、本当に気にすることはない。精神攻撃とも思ったがどうやらあの魔女は何かの記憶を見せる類の魔女だと思った。
何か最悪の過去を持つ人間ならフラッシュバックで絶望してしまうかもしれないが、あいにく僕には謎の記憶を見せられただけである。
まあそれもそれで気にはなってしまうが、追い追い分かっていくと思う。
それまで気にしないでおこう。
「あの、八千さん。少しお話が」
詩音さんが真剣な表情で僕を見てくる。
なんだろうと思い、穂香さんに顔を向けるが、不思議そうな顔で首を横に振った。どうやら穂香さんも知らないようだ。
「私たちに協力してはくれませんか!?」
またか。
一体これで何回めだろうか? 少なくとも3回は勧誘を受けている。
人によってはモテていると解釈するかもしれないが、僕の場合は戦力の増強を目的とした協力関係だろう。
理由を聞いてみたら、どうやらヴァイスは鈴音という名前らしく、キリサキさんの正体も鈴音だと言った。魔法少女が殺されている事件もあるらしく、それも彼女の仕業だと言った。
彼女たちはキュウべぇから鈴音という少女は魔法少女の天敵【暗殺者】だと言ったらしい。
「まさか……前に会った子が……」
「やはり……」
穂香さんは少し悲しげに目を伏せる。おそらく、あの時あの場所にヴァイス……いや鈴音がいたのは次のターゲットは穂香さんだったのだろう。
しかしそれは意図せず僕たちが止めてしまった。穂香さんは言うなれば、命拾いをしたのだ。
それに気づいた穂香さんは少し体を震わせた。
「ましろくん……」
「なんだ?」
「私は……この街が好き……。おばあちゃんの次ぐらいに好き。だからそんな子がいるのなら私はほっとけない……! ましろくん! これ以上被害者を出さないようにしないと!」
「そうだな……僕もこの話を聞いたからには見過ごすわけにはいかないな……。それにいつか僕の街にもやってきて同じことをするかもしれない」
そんなことは絶対に許さない。
僕は拳を握る。今度の敵は暗殺者。しかも今回は前回と違い人を殺しているかもしれない危険人物。
魔法少女の力をそんなことに使うなどと、言語道断である。
彼女になんらかの思想を持っていたとしても、正常な人間なら必ず止めて見せるだろう。
「わかった、詩音さん、それに奏さん。君たちに協力するとしよう。必ず……鈴音という少女を止めるんだ!」
「はい! 私も微力を尽くします!」
穂香さんも元気よく手をあげる。しかしその目は覚悟が決まった目をしていた。
これから起こることはおそらく殺し合いだということを彼女も理解しているのだろう。それなら頼もしい限りである。
「ありがとう……ございます!」
「よろしくね、二人とも」
詩音さんが頭を下げてお礼を言い、奏さんが手を差し出してくる。僕はその手をしっかりと掴み握手をしたのだった。
そんな時だった。
僕は何者かの殺気を感じ、反射神経で殺気の感じた方向へ警戒態勢をとる。
上……? 確か上から殺気を感じた。今も何かドス黒い何かが渦巻いているようにも感じる。
程なくしてその気配は消えたが、僕は無意識のうちに冷や汗をかいており、少し手が震えていた。
恐怖心。
そんな感情が僕を襲ったのだった。
────
「……あの男……何か危険な香りがするわぁ……」
ましろと魔法少女の協力が結ばれた現場のすぐ近くのビルの上。その光景を眺めていた少女がポツリと一言こぼした。
「あの男が現れてから、スズネちゃん……なんだか動きづらくなってるみたい……ねぇ〜キュウべぇ? 何か知ってるぅ?」
「……彼の名前は八千ましろ……僕たちと同じ存在さ」
「同じ存在……はぁん?」
少女は目を細め、八千ましろを見据える。
その目にはましろが決心を固めたかのように見えた。
「情に熱くて、むさ苦しいタイプ……か。私の一番嫌いなタイプぅ……」
心底軽蔑したような目線をましろに向けてギリっと奥歯を噛みしめる。
少女から放たれる殺気は、感情のないインキュベーターでさえも、無意識のうちに後ずさりする程であった。
しかし、その殺気は一気に霧散することになる。
ましろが同質量の殺気を向けてきたからだ。
それは彼女の幻覚かもしれないが、ましろから放たれた殺気は風となり、屋上の淵で座っていた彼女を内側へ押し飛ばした。
彼女は何が起こったのか分からないような表情を浮かべて、次に汗が吹き出した。
これまで感じたことのない殺気。
「……本当に気に入らないッ!」
手の震えをなんとか気合いで抑え、彼女は夜の街へと消えていった。